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「最後のフロンティア」めぐり続々参入

=40兆円市場に成長した宇宙ビジネス=

2020年04月20日

最先端技術

研究員
新西 誠人

 宇宙ビジネスが急速に盛り上がり始めた。宇宙関連企業の業界団体である米衛星産業協会によると、世界の関連市場は2018年時点で3600億ドル(1ドル=110円換算で約40兆円)に達した。さらに、ウィルバー・ロス米商務長官は「20年以内に1兆ドル規模になる」と予測する。人工衛星を活用した通信や地球観測のほか、一般の人が宇宙旅行を楽しめる日も間近に迫ってきた。また、無重力環境下の素材開発など、地球上では実現できないイノベーション(技術革新)が期待されており、産業界も熱い視線を送る。

 ではなぜ今、宇宙ビジネスなのか。まずはその開発の歴史をひも解いてみよう。宇宙開発は冷戦時代の1960年代、米国とソ連(現ロシア)の競争で本格的に幕を開けた。ソ連は有人宇宙飛行や宇宙遊泳で先行。米国が威信を懸けて巻き返しを図り、アポロ計画で1969年に人類初の月面着陸を果たす。1970年代に入ると一転、国際協力の時代を迎える。1975年、米国のアポロ18号とソ連のソユーズ19号が宇宙でドッキング。1988年には国際宇宙ステーション(ISS)計画が始まり、日本もその一員となった。

20200420_01.jpg月面で人類の「最初の一歩」
(出所)NASA

 2000年代に入ると、民間企業が続々と参入する。その原動力は「どうしても宇宙に行きたい」というIT長者の「夢」だった。アマゾン・ドット・コムの創業者であるジェフ・ベゾス氏が有人宇宙飛行を目指すブルー・オリジン社を創設すれば、テスラ・モーターズの創業者であるイーロン・マスク氏は火星移住を目指すスペース・エックス社を立ち上げた。

 その流れを加速させたのが、財政難を背景とする米政府の民間開放だ。きっかけは2003年の米航空宇宙局(NASA)が起こしたスペースシャトル・コロンビア号の空中分解事故。NASAはシャトル計画に幕を引き、宇宙への輸送手段の開発を民間に求めたのである。

 それを受け、IT企業は祖業と親和性の高い、通信やビッグデータ収集などで宇宙を利用するビジネスに着目した。スタートアップ企業も続々と参入する。かくして、宇宙ビジネスは一気に花開き、2018年時点で民間部門は市場全体の78%(2793億ドル)を占める。

宇宙開発の歴史

20200420_02.png(注)敬称略 (出所)各種報道を基に筆者

 一口に宇宙と言っても、文字通り果てしなく広い。このため宇宙ビジネスは打ち上げロケットをどこまで飛ばすかによって、事業内容が規定される。当然、打ち上げ高度を高くすれば、液体燃料を使う大型ロケットが必要になり、事業コストも膨らんでしまう。逆に低ければ、安価な固体燃料を使う小型ロケットでも打ち上げ可能になる。

 スタートアップ企業の多くが特に注目するのは、準軌道(高度100キロ)や低軌道(同100~2000キロ)である。ちなみにISSは高度400キロの低軌道を周回中。その一方で、先述のようにIT長者は潤沢な資金を武器に、深宇宙で火星移住や月の資源開発などを計画する。

地球からの高度による宇宙の分類

20200420_03.png

(出所)NASA、筆者

20200420_04.jpgISSのイメージ図(手前の円筒状モジュールが「きぼう」)
(出所)NASA

 こうした民間による宇宙ビジネスは、「モノ」と「コト」の2つに分かれる。「モノ」とは地上設備や人工衛星製造、打ち上げ産業などであり、2018年時点の市場規模は全体の42%に当たる1509億ドルに達する。この分野で耳目を集めるのは、先述したマスク氏のスペース・エックス社をはじめ、日本の堀江貴文氏が起業したインターステラテクノロジズ社(北海道大樹町)のようなロケット打ち上げ事業だろう。しかし、実際は市場の2%に過ぎない。大半が地上設備の製造・整備関連の事業であり、衛星放送を受信するテレビやカーナビなども含まれる。

2018年の宇宙ビジネス市場

20200420_05.png(出所)Bryce Space and Technology

 一方、「コト」(1283億ドル)のうち圧倒的に多いのが、人工衛星を活用するサービスだ。テレビの衛星放送や撮影画像を解析した天気予報、GPSのような位置情報の提供まで多岐にわたる。

 例えば、スペース・エックス社のプロジェクトであるスターリンクは小型人工衛星1万2000基を打ち上げ、それを「中継局」として全世界にインターネット通信サービスを提供する計画。基地局と基地局を結ぶ光ファイバーの敷設が不要だから、既存サービスよりもコスト面で有利になるという。2020年の商用サービス開始を目指すという。

 また、産業界は無重力という宇宙空間の特性に期待を寄せる。重力が無い状態であれば、分子と分子を自由に結合できるため、地球上では開発できない素材や新薬などが誕生する可能性がある。それに着目して人工衛星内部の実験スペースを貸与するサービスが登場している。スペースタンゴ社(本社米ケンタッキー州)は2020年半ばをめどに人工衛星を打ち上げ、製薬会社などにサービスを提供するという。

 さらに、宇宙旅行も本格的な普及に向けて計画が進んでいる。世界で初めて宇宙旅行を商用化したロシアのソユーズでは、1回の搭乗に数十億円かかるといわれるが、これまでに7人の資産家が宇宙旅行を楽しんだ。英国の実業家リチャード・ブランソン氏が設立したヴァージン・ギャラクティック社や、スペース・エックス社なども宇宙旅行の商用サービスを開始する予定だ。

 日本でもスタートアップ企業の間では、宇宙への関心が急速に高まり始めた。民間主体で宇宙ビジネスを「産業」として確立したいという熱い思いから、2016年に設立されたのが一般社団法人SPACETIDEである。2019年12月に主催した「SPACETIDE 2019 YEAR-END」では、2016年頃から宇宙関連のスタートアップが相次ぎ、国内で40社を超えると報告された。

 その中には、グーグルが実施していた国際コンペ「グーグル・ルナ・エックスプライズ」に挑戦したアイ・スペース社(本社東京)の月面探査プロジェクト「HAKUTO」も含まれる。

 月面で探査車を500メートル走らせた後、撮影した写真を地球に送るという試みだったが、残念ながらコンペは成功しなかった。だが、アイ・スペース社のチャレンジ精神は衰えず、後継プロジェクト「HAKUTO-R」で2021年の月面着陸を目指す。

 今、日本の宇宙ビジネスには追い風が吹いている。SPACETIDEによると、国内の宇宙関連スタートアップ企業への投資額(2014〜2019年累計)は500億円を超えたという。政府も宇宙ビジネスを後押しする。その柱が衛星リモートセンシング法(施行2017年)と宇宙活動法(同2018年)である。前者は人工衛星で取得したデータの取り扱いについて規定し、後者は人工衛星の打ち上げ・管理を許可制とするもの。曖昧だった宇宙ビジネスのグレーゾーンが明確化されたことにより、スタートアップ企業の間で安心感が広がった。

 もっとも、宇宙ビジネスで収益を上げるのは一筋縄でいかないのも事実。多くのスタートアップ企業では、資本金を取り崩しながら、日々開発に努める局面にある。一見華やかな世界も現実はなかなか厳しい。

 もちろん、宇宙ビジネス参入をうかがうのはスタートアップ企業だけではない。例えば、リコーは国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、360度撮影可能な全天球カメラTHETA(シータ)を宇宙で活用できるよう改良した。JAXAがそれを国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟・船外実験プラットフォームに搭載、青い地球を撮影した。

 リコーのSV事業本部DS事業センター事業開発部の傳田壮志部長は「宇宙空間でTHETAを使うと、地球と実験装置を同時に撮影できる。また、モーターでレンズの向きを変える通常のカメラと異なり、可動部分がないために機材の軽量化を図れる。それによって故障リスクも小さくできた」と話す。

 JAXAの宇宙探査イノベーションハブの澤田弘崇・主任研究開発員も「ぜひ深宇宙探査の際に、宇宙空間でも全方位を撮影可能にした技術を活かしたい。未知の天体への着陸シーンなど、今まで見たこともないような写真を撮り、見る人がその場に居るような疑似体験を提供したい」と期待を膨らませる。

20200420_06.jpg「きぼう」からTHETAで撮影した地球
(出所)RICOH/JAXA

 2020年は各国が競って火星の生命探査衛星を打ち上げる予定。また、IT長者が運営するスタートアップ企業は相次いで宇宙旅行の商用サービスを始める計画だ。日本もH3ロケットの試験機の打ち上げを目指すなど、宇宙関連のイベントが目白押しであり、われわれと宇宙の距離が一層縮まるはずだ。

 宇宙は「人類最後のフロンティア」といわれる。今、世界中の起業家がその魅力にとりつかれ、重い扉をこじ開けようとしている。


小型人工衛星シンポで熱気を体感
=「宇宙に一番近い街」シリコンバレー取材記=

 世界中から優秀な頭脳と巨額の資金が流入する、米国西海岸のカリフォルニア州シリコンバレー。夏涼しくて冬温かい、そして快晴の多い気候も手伝い、数え切れないほどのイノベーションと画期的なビジネスを生んできた。アップルやグーグルなど、ここでスタートした企業が世界を席巻する。

 そして今、シリコンバレーは小さな産業の種を大きく育てようとしている。それが人工衛星である。筆者は2020年2月3〜6日にカリフォルニア州マウンテンビュー市にあるコンピューター歴史博物館で開催された「スモールサット(小型人工衛星)シンポジウム」に参加、宇宙ビジネスに懸ける関係者の熱気を体感した。シンポジウムは2016年に始まり、5回目になる。技術よりもビジネスを前面に打ち出した、世界最大の小型人工衛星のシンポジウムとして知られる(注=重量600キロ以下を小型衛星と呼ぶ)。

20200420_07.jpg会場のコンピューター歴史博物館

 今回は32のセッションが開かれ、小型人工衛星に関わる産業や投資の現状、最先端技術の動向などについて議論が交わされた。世界中から70社を超える企業が展示ブースを設け、至る所で情報交換や商談する姿を目にした。企業の中には特別室を用意し、腰を据えてビジネスに臨むところも...。参加者は900人を超えたという。

 小型人工衛星に特化したシンポジウムの盛況には理由がある。半導体の微細加工技術の急速な発展によってセンサーやアンテナの性能が向上し、小型人工衛星でも大型に引けを取らないようになったからだ。一方、打ち上げコストは大きさと重量に比例するため、より小さな人工衛星のほうが採算性はよい。それによって民間企業には宇宙ビジネスに参入するハードルが低くなった。

 このため、今や小型人工衛星は宇宙ビジネスの花形的な存在である。「2019年に打ち上げられた小型人工衛星は389基に上り、全衛星の8割を占めた」―。シンポジウムの講演で示された数字から、関連市場の熱狂ぶりが伝わってきた。

20200420_08.jpgセッション会場

 小型人工衛星の主な利用目的には、①地球観測②通信③状況把握―の3つある。地球観測とは、カメラやセンサーを使って地上を撮影したり、温度を測定したりする技術。通信はテレビ放送や、人工衛星を活用するインターネットサービスなど。状況把握は、運行中の船舶・飛行機・トラックの位置の正確な把握である。

 このうち、最も注目を集めているのが通信への利用である。ある講演者は「向こう10年は(通信目的だけで)毎年数百という小型人工衛星が打ち上げられるようになるだろう」と予測、市場拡大に自信満々だった。長所は小型人工衛星の打ち上げと製造のコストの低さだ。製造に数十億ドル要する大型人工衛星では1回の打ち上げで長期間利用できる設計をする。故障しても周回し続けられるよう回路を二重化するなど、安全対策を手厚くするために、製造コストがかさむ。

 一方、小型人工衛星では「故障したら打ち上げ直せばよい」という設計思想のため、コストを削減できる。ただし難点は、衛星1基でカバーできる地球上の範囲が狭いこと。打ち上げコストをできるだけ抑えるため、なるべく低い軌道に投入するケースが多いからだ。そこで複数の小型人工衛星をネットワーク化し、カバー範囲を広げる技術開発にも力が注がれている。

 シンポジウムに参加して、筆者が特に興味を持った1点目は、小型人工衛星の標準化が必要になるか否か。ある講演者は「生産は多くなっても年間1000基程度であり、高級スポーツカー・フェラーリの10分の1に過ぎない。しかも技術は日々進歩しており、標準化はまだ行わないほうがよい」と主張した。当面は性能を最優先すべきで、標準化は後回しという考えが主流だった。

 2点目は、地上との通信をどう行うか。人工衛星の数が増え、搭載されるカメラやセンサーの性能が飛躍的に向上すると、データ通信量が爆発的に増えるからだ。その一つのヒントとして、「強力なレーザーを用いると、電波よりも大容量の通信が可能になる」という予測が提示され、多くの参加者が力強くうなずいていた。

 3点目は、人工知能(AI)や機械学習をどう活用するか。人工衛星から取得したデータを解析したり、衝突回避のために衛星軌道を制御したりするのに欠かせないからだ。これについては、「この分野においてもデータサイエンティストがますます求められる」(ある登壇者)だけに、人材確保が大きな課題となりそうだ。

スタンフォード大が育んできた起業家精神

 シンポジウムを終え、シリコンバレーを歩いてみると、技術と人材の両面で宇宙との「近さ」を感じた。まず技術面では、シンポジウム会場となったコンピューター歴史博物館から1キロ足らずの場所に、NASAのエームズ研究所がある。ここでは無人探査機や画像解析などの最先端技術を開発している。

 シリコンバレーが育んできたITは、宇宙ビジネスと親和性が高い。民間開放後、まず参入を表明したのが、アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス氏やテスラ・モーターズのイーロン・マスク氏といったIT業界の巨人。「複製が容易」というITの特徴の宇宙への応用を考えたのだ。

 例えば、マスク氏はデジタル技術を駆使してロケットを開発するモデルをいったん創れば、その成功モデルをいくらでも「コピー・アンド・ペースト」でき、成功を収めるロケットを次々に生み出せると主張する。それこそが、起業したスペース・エックス社の出発点となった。

 人材面では、今もスタートアップ業界への供給源であるスタンフォード大学の存在が大きい。伝説はいくらでもあるが、有名なのはコンピューター大手ヒューレット・パッカード(HP)。在学中のウィリアム・ヒューレット氏とデービッド・パッカード氏が1939年にガレージで創業したのが、その前身である。

 大学構内の無料キャンパスツアーに参加してみた。案内役はコンピューター科学専攻3年生のヴァレクサ・オレリエンさん。驚いたことに、70分のツアー中、ずっと後ろ向きで歩きながら説明してくれた。その間、筆者を含め計18人の参加者の反応を常にうかがいながら、質問にはよどみなく答える。「顧客視点」が徹底されているように感じた。ヴァレクサさんも「卒業後、いずれ起業したい」という。スタートアップに不可欠の顧客視点が、在学中から養われているような気がした。

20200420_09.jpg後ろ向きで説明するヴァレクサさん

 シリコンバレーには、こうした起業家の卵がわんさかいる。そこに各国から集まる技術者や投資家、起業家に助言を行うメンター(=助言者)が加わり、他の追随を許さないエコシステム(=生態系)を形成する。日本の総合商社の現地駐在員は「宇宙ビジネスの起業が多いのは、このエコシステムの効率の良さに着目するからだ。起業家が切磋琢磨しながら、新しい技術やアイデアを日々途切れることなく生み出している」と解説する。

 構内には高い塔がそびえ立つ。高さ87メートル、第31代米大統領の名を冠した「フーバータワー」だ。登ってみると、さえぎる建物が全くなく、シリコンバレーを一望できる。サンフランシスコ湾や対岸の山々の稜線まではっきり見渡せた。

20200420_10.jpg「フーバータワー」からの眺望

 絶景を眺めていると、日本の報道機関の現地特派員の言葉を思い出した。「ここは世界中から人・技術・カネが集まる『夏の甲子園』なんです」―。今や地球上で「宇宙に最も近い街」となったシリコンバレー。近い将来、当地発の宇宙ビジネスが世界を驚かすことだろう。塔を降りるエレベーターの中でそんな予感がした。

(写真)筆者 RICOH GRⅢ

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※この記事は、2020年3月31日発行のHeadLineに掲載されました。

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