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技術力ではなくマネジメント課題

=DX普及のカギを握る経営者の意識=

2020年01月21日

最先端技術

研究員 米村 大介
研究員 新西 誠人

 「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉を目にする機会が増えた。ビッグデータや人工知能(AI)などの新技術を活用しつつ、「事業活動全体のデジタル化を推進する活動」といった意味で使われることが多い。日本では2018年に経済産業省がDXに関するレポートを発表した後、ビジネスパーソンの間で広がり始めた。

 経産省の問題意識はこうだ。レポートによると、多くの経営者がDXの必要性について理解する。しかし、システムの複雑化や現場の抵抗などが足かせになり、思い通りに進んでいない。DXが産業界に浸透しないと、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある...

 確かに、DXという言葉を聞いて既視感を覚える人は多いだろう。振り返ると、1990年代以降だけでも「IT革命」「デジタル化」「第4次産業革命」といった流行語が次々に登場した。そのたびに、日本企業は新システムを導入したり、ネットビジネスに進出したりしてそれなりに対応してきた。

 しかし、日本経済全体で見ると、生産性は期待されたほど伸びていないのが現実だ。民間企業出身でデジタル化を推進してきた明星大学の河合美香教授は取材に対し、「ホワイトカラーの職場でデジタル化が成功した例は少ない」と指摘する。

図表

 DXについても、同じ轍(てつ)を踏む懸念が付きまとう。一体なぜ日本企業ではデジタル技術を導入しても、効率化が進まないのだろう。

 ある企業で、社員の勤務時間を自動記録するシステムを導入するケースを考えてみよう。現在は社員が一人ひとりパソコンで出退勤を手入力している。そこでセンサーやAIを活用してこのデータを自動的に収集し、コンピューターで一括処理できるように代えるのだ。

 普通に考えれば、このシステムの導入によって社員の手間が省け、勤務管理に要していた人件費も減りそうだ。ところが日本企業では、新システムを導入したにもかかわらず、旧システムも残すといった選択をする例がしばしばみられる。

 これではコスト削減効果は見込めない。それどころか、システム管理者のように仕事が増える社員さえ出てきてしまうだろう。なぜこんなことが起きてしまうのか。

 その原因としてよく指摘されるのが、日本の独特な企業文化だ。まず、「社員をシステムに合わせるのではなく、システムを社員に合わせる」という慣習が挙げられる。

 先の例で言えば、新システムを導入すると営業職から不満の声が上がる。システムで把握できない勤務時間帯が生じ、それを修正するのに信じられないほど手間が掛かるためだ。営業現場の発言力が強い会社なら、「自分たちだけでも前のシステムを使いたい」という主張が通ってしまう。

 日本の雇用契約で「社員が責任を持つべき業務範囲が明確ではない」ことも、生産性の上がらない理由の一つだとされる。

 これに対して米国企業では、社員がやるべき作業(ジョブ・ディスクリプション)を契約で細かく決める。転職が盛んなため、仕事を定型化・標準化する必要があるのだ。

 こうした雇用慣行の下では、企業の垣根を越えて作業の標準化が進みやすい。先の例で言えば、勤務管理の方法は各社で大きな違いがないため、米マイクロソフトなどの既製ソフトをそのまま使うことができるのだ。

 これに対し、日本では同じ勤務管理でも、企業どころか職場ごとに「作法」が異なる。こうした実情に合わせようとすれば、システムを独自開発する必要性が高まり、維持・変更費用も膨らむ。結果、期待される合理化効果が薄れてしまうのだ。

 その上、日本企業は人が余っても解雇することが難しい。終身雇用制が崩れつつあるとはいえ、厚生労働省によると2018年の平均勤続年数は12.4年。データのある1976年以降で最長だ。

図表

 このため日本の企業社会では、デジタル化で仕事を効率化した後、「余った人材にどんな仕事をさせるか」が決定的に重要になる。

 産業革命時には失業した馬車の御者が暴動を起こした。日本で1990年代に進んだ駅の自動改札化でも、切符切りをしていた駅員が売店の店員に転換することに対し反発が起きた。経営陣はこうした強い反発を乗り越え、改革を断行しない限り、生産性の向上は望めない。

 こうした改革を進めるには、デジタル化で仕事を失う人を、より生産性の高い分野で活用する仕組みが必要だ。例えば「社内転職」がスムーズにできれば、大胆なDXを進めやすくなる。最近注目を浴びている「副業」も解決手段の一つになり得る。仕事が減って給料が減った分を、社外で収入を得ることで補ってもらうのだ。

 こうした仕組みを整えない限り、DXは進められないし、無理やり進めればかえって不要な仕事をする人(=企業内失業者)を増やすだけで終わりかねない。

 滋賀大学データサイエンス学部の河本薫教授は「日本の経営者はDXを技術部門に丸投げしがちだ」と指摘する。DXの成否は日本の技術力というより、経営陣が自ら先頭に立って取り組むべき課題。こうした意識を持てるかどうかが、企業の未来を大きく左右する。


インタビュー

デジタルトランスフォーメーション(DX)と日本企業への処方箋
=飯島淳一・東京工業大学教授=

 日本企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める上で、企業が留意すべき点は何か。情報システム学が専門の東京工業大学の飯島淳一教授に課題と処方箋を聞いた。

 ―DXとは何でしょうか。

 一般には、デジタル技術を業務プロセスに適用することを指すケースが多いようです。しかし、そもそも「トランスフォーメーション」という以上、本来は「変革」を意味するはず。データをデジタルに「移行」しただけ、デジタルに「変換」しただけでは「変革」とはいえません。企業活動を根本的に変えるのが本来のDXでしょう。

 ―企業はどこから手を着けるべきでしょうか。

 現状認識のために企業活動をモデル化して可視化することが有用です。蘭デルフト大学のヤン・ディーツ名誉教授が提唱しているDesign and Engineering Methodology for Organizations(DEMO=組織に対する設計と工学の方法論)という手法があります。企業活動の本質部分だけをモデル化し、数枚のチャートにまとめます。全体像を一目瞭然にするのがポイントです。

 モデルが書き換わった例としては、JR東日本の「Suica」があります。切符がICカードになっただけでは「移行」に過ぎない。しかしSuicaには「決済」という機能が付きました。乗車券だけでなく、決済サービスでも収益を上げられるようになり、ビジネスモデルが書き換わったのです。

 (DXの前提となる)デジタル化への備えを測るには、Digital Readiness Index(DRI=デジタル化準備指標)があります。企業にデジタル化のレベルを問うアンケートから算出します。その評価には4段階あります。日本企業44社を調査した結果、その8割が「受容ステージ」という最も低い評価でした。

 ―日本企業への処方箋はありますか。

 課題とそれに対する処方箋は3つあります。まず、日本企業でよくみられる、各部署でそこに最適化したシステムを導入する「サイロ化」を防がねばなりません。各部署で「部分最適」にするのではなく、社内共通の(「全体最適」を目指す)プラットフォームを導入する必要があります。

  「自前主義」の打破も課題です。古くしがらみの多い組織の中でDXを進めるのは困難。そうした企業は他の企業と組んで新しい会社をつくったらどうでしょう。また、(生産現場で)デジタル化を進めてきた実績のある製造業では、DXに比較的取り組みやすいと思います。

 最後に強調したいのは、DXは技術課題ではなくマネジメント課題だということです。DXを進めるのであれば、経営者は情報技術部門に丸投げするのではなく、経営課題として捉えて自ら先頭に立って推進すべきです。

写真飯島 淳一氏(いいじま・じゅんいち)
 東京工業大学工学院経営工学系エンジニアリングデザインコース教授。
 システム理論をベースにICTのビジネスにおける効率的・効果的利活用を研究分野としており、エンタープライズオントロジーやモバイルソリューション、IT活用力成熟度評価などが主な研究テーマ。
 1982年東京工業大学・大学院博士課程修了。工学博士。経営情報学会元会長。日本BPM協会副会長。IT戦略本部電子行政に関するタスクフォース臨時構成員。

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※この記事は、2020年1月1日発行のHeadLineに掲載されました。

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