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デジタル農業で飢餓をゼロにしたい

=増大する世界人口・食料需要=

2019年10月03日

最先端技術

研究員
新西 誠人

 世界全体でみれば人口が増加の一途をたどる中、右肩上がりの食料需要を満たすために、農業の生産性向上に対する期待が一段と高まっている。2015年9月の国連サミットで新たな世界共通目標として定められたSDGs(持続可能な開発目標)でも、「飢餓をゼロに」を柱の一つに据える。そのカギを握るのが、農業へのデジタル技術の応用である。馬に代わってトラクターが普及した19世紀の技術革新に匹敵するとも指摘される。そこで本稿では、日本や各国の農業の現状を紹介し、デジタル農業がもたらすインパクトについて論じる。

1. 世界人口増加に伴う食料需要の拡大

 食料需要の増加の最大の要因は、世界の人口増大である。国連によると、今後も開発途上国を中心に増加が見込まれ、2050年には97.3億人になると予測される。

世界人口の推移20190910_01.jpg(出所)国連(2015年)

 総人口とともに、1人当たり国内総生産(GDP)も増加する。国連の推計によると、世界全体では2012~2050年の間に1人当たりGDPが2.3倍になる。先進国が1.6倍程度にとどまる一方で、開発途上国は2.4倍もの伸びが見込まれる。中でも中国が3.6倍と著しく、次いで中近東や東アジア、南アジアでも3倍前後の増加が予想される。一般的には、人は所得が増えれば、より高カロリーなものを摂取する傾向にあるため、これも食料需要を拡大させる要因となる。

1人当たりGDPの伸び(2012年=1)20190910_02.jpg(出所)国連(2015年)

 加えて、冒頭でも触れた飢餓人口の解消は待ったなしだ。国連食糧農業機関(FAO)によると、飢餓人口は2013年にいったん8億人を切ったものの、2014年の7.8億人を底に反転。2017年時点では世界総人口(76億人)の1割を超える8.2億人が飢餓状態にある。

飢餓人口の推移20190910_03.jpg(出所)FAO(2018年)

 SDGsが掲げる2030年までに「飢餓をゼロに」という目標達成を前提に、前述した人口増大、所得の上昇を勘案すると、FAOは2050年の世界全体の食料需要(カロリーベース)が2012年の1.9倍に拡大すると予測している。

カロリーベースの食料需要20190910_04.jpg(出所)国連(2018年)、FAO(2018年)

 こうした食料需要の増大を満たすためには、食料生産高を大幅に引き上げる必要がある。実際、FAOの予測では、価格ベースの生産高ではあるものの、2050年には2012年比で1.5倍に増えると予想されている。しかしこれでは人口増加(1.4倍)をわずかに上回る伸びに過ぎず、開発途上国での高カロリー食料の需要増大などを考えると、十分な生産高とはいえない。

地域別農業生産高(2012年=1)20190910_05.jpg(出所)FAO(2018年)

 食料生産が不足する理由の一つが、農地開発の限界である。世界全体でみると、農地面積は頭打ちになりつつあるのだ。FAOの報告書「食料と農業の未来」によると、新規に農地を開拓しようとしても、もはや農業には適さない土地が多い。しかも、乾燥地帯を中心に世界の農地の約3分の1で土壌が悪化しているという。このため、食料需要を満たすためには、単位面積当たりの収穫量増大、すなわち農業の飛躍的な生産性向上を実現するしかないのだ。

世界の土地用途20190910_06.jpg(出所)FAO(2018年)

2. 各国農業の現状と特徴

 それでは、食料供給を支える世界各国の農業の現状はどうなっているのか。まずは、日本に加えて、農林水産物の輸出額の多い米国やオランダ、アジアの近隣国である中国、韓国など7カ国を抽出してみた。

 その中で就農人口比率を比較すると、経済発展に伴う明確な傾向があることがうかがえる。例えば日本や欧米各国が0%台~2%台なのに対し、開発途上国である中国は19.2%、ベトナムは30.7%と比率が著しく高い。これは、労働人口の比重が第一次産業から第二次産業、さらに第三次産業へ移る、いわゆる「産業構造の高度化」によって、就農人口が低下することを反映したものと考えられる。逆に言えば、中国、ベトナム両国も経済発展が続けば、将来、この数字は低下していくとみられる。

各国の就農人口比率(2017年)20190910_08.jpg(出所)ILO、国連

 自給率に目を転じると、重量ベース、カロリーベースのいずれも日本と韓国の厳しさが際立つ。一方、オーストラリアは別格として、米国は重量、カロリーの両ベースで130%前後、ドイツも重量ベースで113%と100%超の自給率を誇る。

 中国、ベトナムも重量ベースで100%以上だが、この両国が今後も高い水準を維持できるかどうかは不透明だ。前述したように、今後は所得の増加に伴って高カロリーなものを求める傾向が強まり、自給率が低下する可能性が高いからだ。

各国の自給率(2013年)20190910_09.jpg(出所)農林水産省(2018年)

 食料の海外依存度を考える場合、自給率だけでなく、農林水産物の輸出額から輸入額を差し引いた「収支」もみる必要がある。その赤字額が大きいと、海外依存度は高いといえる。2017年で比較すると、日本が615億ドルの赤字で断トツ、中国(445億ドルの赤字)や韓国(209億ドルの赤字)も多額の赤字を計上。「農業大国」のイメージが強い米国もワインなどの酒類を多く輸入しているため、86億ドルの赤字となっている。

 これに対してオランダは367億ドルもの黒字を計上し、オーストラリアも175億ドルの黒字。農業が外貨を稼いでくれる基幹産業であることは、数字の上でも一目瞭然だ。

各国の農林水産物輸出入額収支(2017年)20190910_10.jpg(出所)UNCTAD

3. 農業技術の発展の歴史

 このように各国の農業の実態はさまざまだが、共通点があることに留意したい。それは、技術革新が生産性向上のカギを握るということだ。人類の歴史を振り返ると、19世紀半ばまで農業の生産性向上は比較的緩やかなものにとどまっていた。ところが、産業革命の中で、馬を代替する蒸気式トラクターが登場したことによって農機開発レースの号砲が鳴らされ、次に内燃機関を持つトラクターの登場で農作業の現場は一変。中でも米フォードが1917年に発売した量産型トラクターは、従来製品と比べると価格が劇的に下がり、操作性にも優れていたことから爆発的に普及した。

農業の技術革新20190910_11.jpg(出所)各種記事を基に作成

 フォードの量産型トラクターが誕生してから100年余。2010年代に本格化したデジタル農業は、それに匹敵する技術革新である。情報通信技術(ICT)やロボット技術、人工知能(AI)などを駆使した農業のデジタル化は、施肥や灌漑などの精度を飛躍的に向上させることで肥料等の消費量を減らしたり、収穫量を劇的に増大させたりするものだ。

4. デジタル技術活用の主要3分野

 それではデジタル農業とは、具体的にどのような技術なのだろうか。ここでは代表的なものとして①精密施肥・精密農薬散布・精密灌漑②無人小型トラクター③生産管理システム―の三つの分野を紹介する。この項については、米ゴールドマン・サックスのレポート「精密農業(Precision Farming)」を参考にした。

①精密施肥・精密農薬散布・精密灌漑

 肥料や農薬、水を状況に合わせて必要最低限だけ利用する農業技術である。

 精密施肥では、気象や土壌などのデータによって「収穫量最適化モデル」を確立した上で、最適な量の肥料を最善のタイミングで与える。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の実験では、精密施肥の水稲での実施により7〜17%の増収がみられたという。精密農薬散布は、作物の状態や土壌の状態により、無駄なく必要な分だけの農薬を無人航空機(ドローン)で散布する。精密灌漑は、給水・排水作業をセンサーと弁によって適切にコントロールする技術である。

 こうした技術を実用化する場合、③で触れる人工衛星や圃場(ほじょう=田畑や牧草地など)に設置されたセンサーからデータを収集、そのデータの分析結果に基づき、タイミングや場所を詳細に決める。そして、精緻な制御システムを搭載した機械やロボットなどによって実施される。

 生産性向上の観点だけでなく、環境負荷を低減する効果も併せ持つ。大規模農業の発展に伴い、各地で肥料や農薬の過剰な散布が行われており、これが河川などへ流出して河川汚染の元凶となっている。しかし、デジタル農業を利用することで、散布量が必要最低限の利用にとどまれば、環境負荷を減らせるだろう。

②無人小型トラクター

 大規模農業に利用される大型トラクターは作業効率を高める半面、自らの重量による強い圧力で土壌から植物に必要な水分や栄養素、空気が押し出されるという欠点がある。

 例えば、トラクターが縦横無尽に動き回ることで最大85%の土壌が圧縮されるという(米国農業生物工学エンジニア協会(=ASABE)の「The Potential of Controlled Traffic Farming to Mitigate Greenhouse Gas Emissions and Enhance Carbon Sequestration in Arable Land: A Critical Review」)。さらにその際、10トンを超えるトラクターを使うと土壌の回復には最大5年掛かるともいわれる。(オランダの国際学術誌「Soil & Tillage Research」の「Amelioration of soil compaction can take 5 years on a Vertisol under no till in the semi-arid subtropics」)。

 そこでトラクターを小型化し、圃場内の運行ルートを正確に定めることで生産量の増大を図る。運行ルートの誤差を数センチにすることで、効率的に移動するだけでなく、自重で圧縮してしまう土地も最小限に抑えることができる。オーストラリアでの実験では50%収量が増加したという(英国の国際学術誌「Agricultura Systems」の「The whole-farm benefits of controlled traffic farming: An Australian appraisal」)。また、操縦を無人化することで省力化も図れる。

③生産管理システム

 人工衛星や圃場センサーなどから収集した画像情報などに基づき、圃場のモニタリングを行う技術だ。さらに、こうしたモニタリングで収集したビッグデータを基に、農作業の最適な実施時期などを決定する。①で紹介した精密施肥・精密農薬散布・精密灌漑などは、このモニタリングによってさらに精度を高めることができる。これまで経験や勘といった「暗黙知」に頼っていた農業が、工場に似た生産管理システムを確立できるようになるのだ。

5. 関連テクノロジー市場は26兆円規模に

 こうしたデジタル農業を可能にしたのはICT(情報通信技術)の進歩の結果だ。しかも、次世代通信規格5Gの普及が進めば、自律走行するトラクターやドローンなどの活用も一般的になる。種まきや収穫、農薬散布などで省力化や効率化が加速するとともに、ITを駆使する「農業のオフィス化」が加速するだろう。

 前述したゴールドマン・サックスのレポートは、デジタル農業を支えるICTなどの関連テクノロジーが、2050年には約26兆円規模の巨大市場に成長すると予測している。

 産業界は農業を「地球上に残された数少ないフロンティア」と捉え、異業種から農業分野への参入が相次いでいる。日本の大企業製造業でも、デジタル農業への本格参入が目立ち始めた。デジタル技術が農業と製造業を巧みに融合させ、それがもたらすイノベーションによって、「飢餓をゼロに」という人類共通の目標を実現したい。

20190910_00.jpg
インドネシアの田んぼ

(写真)小野愛

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