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「日本一長寿の村」を宣言した桃源郷/大宜味村(沖縄県)

コンパクトシティが地方を救う (第22回)

2020年04月09日

地域再生

副所長
中野 哲也

 山原は「やんばる」と読み、沖縄本島北部の地域を指す。紺碧(こんぺき)の海と深緑の山に囲まれ、人の手が入らない大自然には神々しい空気が漂う。「ほとんど飛べない鳥」と紹介される国の天然記念物ヤンバルクイナをはじめ、亜熱帯の森林には地域固有の多様な生命が宿り、「沖縄の桃源郷」とも呼ばれる。今回、やんばる国立公園の一角を占める大宜味村(おおぎみそん)を訪れ、「長寿日本一」を宣言した村の"素顔"を取材して歩いた。

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写真大宜味村・塩屋湾

 沖縄本島の大動脈である国道58号を北上し、名護市から大宜味村に入ると、道の駅「おおぎみ」が長旅の疲れを癒してくれた。駐車場には「日本一長寿宣言の村」をうたう立派な石碑があり、それに村の特徴が集約されていた。抜粋すると、「...伝統的食文化の中で、長寿を全うし、人生を謳歌している。80(歳)はサラワラビ(=童)、90(歳)になって迎えに来たら、100(歳)まで待てと追い返せ。我らは老いてますます意気盛んなり。老いては子に甘えるな...」(1993年4月23日、大宜味村老人クラブ連合会)―。50代後半の筆者もこの村では小僧扱いらしい。

写真国道58号で名護市から大宜味村へ


写真石碑「日本一長寿宣言の村」

 大宜味村の面積は、東京・JR山手線の内側とほぼ同じ約64平方キロ。その中で3067人(2019年12月末)が実にゆったりと暮らす。2015年国勢調査によると、総人口(3060人)のうち、65歳以上が996人で高齢化率は32.5%。全国平均の26.7%を大きく上回る。村民の7.6人に1人が80歳以上(418人)で、100歳以上も4人という「長寿の里」なのである。

大宜味村の年齢別人口構成(2015年国勢調査)

図表(出所)大宜味村「村勢要覧」

 しかし、単なる高齢化した村ではない。大宜味村が標榜するのは「健康長寿」。耳を澄ますと、お年寄りの元気な笑い声が聞こえくる...。そんな村なのだ。東京在住のスペイン人作家エクトル・ガルシア氏はこの村まで足を運び、延べ100人にインタビューを行い、ジャーナリストのフランセスク・ミラージェス氏との共著「外国人が見つけた長寿ニッポン幸せの秘密」(エクスナレッジ)を出版した。彼らはこの村の長寿の秘密として、「Ikigai(生きがい)」を指摘。スペイン語や英語などでも発信したため、「Ikigai」は世界中から注目を集め、大宜味村には各国からメディアが取材に訪れるようになった。

 前述した石碑の「伝統的食文化」の代表が、ミカン科の柑橘類シークヮーサーである。シーが「酸」、クヮーサーは「食わせるもの」という意味。8~10月は皮が緑色の時期に青切りされ、強い酸味が酢の物などの料理で重宝される。10~12月はジュースなどの加工用として出荷。12月下旬~1月には果皮がオレンジ色のクガニー(=黄金)となり、甘くてミカンのように食べられる。

写真大宜味村の食文化を代表するシークヮーサー(提供)大宜味村役場

写真冬場は「クガニー」と呼ばれるシークヮーサー(道の駅「おおぎみ」)

 石灰岩地質の山、ミネラル分が豊富な東シナ海からの風、強烈な日差し...。こうした自然環境の下、昔からシークヮーサーは大宜味村内に自生していた。代謝活発化や疲労回復、美容効果をもたらすクエン酸のほか、ビタミンCやB₁、カロチン、各種ミネラルを豊富に含む。また、ノビレチンという成分は「がん抑制効果が期待されており、長寿との関連が注目されている」(大宜味村「村勢要覧」)ため、テレビの健康番組でもとり上げられている。

 大宜味村の宮城功光(みやぎ・のりみつ)村長(69)は「村は山ばかりで平地が少なく、イモぐらいしか作れませんでした。戦後の食糧難の時代、山に自生していたシークヮーサーのおかげで、われわれは生き抜くことができたのです」と指摘する。村長は毎日シークヮーサーを食し、「酒にも必ず入れて飲むから、翌朝もスッキリです」と笑みを浮かべる。

写真大宜味村の宮城功光村長


 シークヮーサーは「緑の宝石」として大事に受け継がれ、今では地域経済を牽引する強力なエンジンとなった。地元の中学1年生全員が村民にアンケート調査を行い、開発した「シークヮーサー酢SKS+S」など、ユニークな特産品も続々生まれている。大宜味村は「人材を以って資源と為す」を「村是」に掲げ、373人の子ども(15歳未満、2015年国勢調査)を村全体で大切に育んでいる。

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大宜味村の「村是」

写真大宜味村役場・旧庁舎(1925=大正14=年竣工、国の重要文化財)

 山城初子さん(74)は「シークヮーサーを活用し、村を元気にして活性化させたい」という熱い思いから、大宜味村農山漁村生活研究会を立ち上げた。総勢26人のボランティアが交代しながら、道の駅「おおぎみ」で特産品を販売する。山城さんは沖縄県外でのイベントでもPRの先頭に立つ。

写真山城初子さんと、地元中学生が開発したシークヮーサー酢飲料


写真シークヮーサー・ソフトクリームは絶品(ぶながや食堂)

 宮城村長から取材のアドバイスをいただき、「サーバシ食堂」というボランティア活動が行われている塩屋公民館に向かう。すると、お年寄りの魅力的な笑顔にたくさん出会うことができた。ボランティアが朝から調理を行い、1食200円で豪華なランチを提供しているのだ。美味しそうなエビ料理に目を引かれるが、果たして予算内に収まるのか...。デイサービスの一環でお年寄りを会場に連れてきた、大宜味村社会福祉協議会の新城寿賀子さんに聴くと、「予算で足らない食材は、地元の方が善意で提供してくださいます」と教えてくれた。こうしたボランティア食堂は、村内4カ所の公民館で月1回開かれるそうだ。

 参加していた志良堂きよ子さん(80)に健康法を尋ねると、やはりシークヮーサーが登場した。「恥ずかしいんだけど、毎日1キロぐらい食べちゃうのよ。でもおかげで風邪は全くひきません」―。突然の取材にも丁寧に応じてくれた。雑貨店を営む自宅はお年寄りが集まる憩いの場となり、毎日おしゃべりを楽しんでいるという。コーヒーは1日2杯、息子が獲ってくるイノシシのスープも大好物。「でも、魚は好きじゃないのよ」と肩をすくめる姿がかわいらしい。

 下西ヨシ子さん(95)はダイコンやニンジンを庭先で作り、自分で料理する。「こういった集まりが楽しいのよ」と言いながら、握手をしてくれた。その力が強いのにびっくり。オシャレな帽子が似合うおばあちゃんたちは、食欲旺盛であっと言う間にランチを平らげていた。

写真志良堂きよ子さん(左)、下西ヨシ子さん(左から3人目)

写真お年寄りの会話が弾む「サーバシ食堂」

写真ボランティアが調理・配膳に大活躍

 サーバシ食堂の賑わいを見ていると、この村が「長寿の里」となった秘訣はシークヮーサーなどの食材だけではないと考え始めた。宮城村長も「『ゆい』という精神が健康長寿に大きく影響している」と指摘する。「ゆい(結い)」は思いやりや助け合いの心を意味する。「まーる」(=順番)が付いて「ゆいまーる」になると、相互扶助という意味になる。村では昔から地域全体で人と人が支え合う習慣があり、今なお健在なのだ。

 夕方、家に明かりが点いていないと、隣が「どうしたのかな」と確認に行く。お年寄りが庭先で作った野菜は自分で食べるだけではない。近所や親戚に分け与え、村営住宅に引っ越してきた移住者にも届けるという。宮城村長は「『ゆい』によって村民が心に余裕を持つからこそ、心身ともに健康で長寿を全うできるのでは」と考える。

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 実は、大宜味村はモノづくりで高度な技術を誇る。中でも、国が重要無形文化財に指定したのが芭蕉布(ばしょうふ)である。薄くて軽くて肌触りが抜群だから、涼感を求められる夏の着物には最適の素材。原料となる糸芭蕉の栽培に3年を要し、23の工程をすべて手作業でこなす。

 芭蕉布には琉球王朝時代以来、500年以上の歴史があるが、戦後衰退してしまった。しかし、逆境の中から平良敏子さん(99)ら有志が立ち上がり、幾多の困難を乗り越えて村の伝統産業として確立したのだ。平良さんは人間国宝に認定され、取材当日も村立芭蕉布会館の2階で黙々と作業を続けていた。「長寿の里」のシンボル的な存在だ。

写真芭蕉布の反物(提供)大宜味村役場

 一方、やんばる酒造は沖縄本島最北端の酒造所。やんばるの森が生み出す美味しい水を使い、通常より発酵に時間をかけることで、まろやかで飲みやすい独特の泡盛を造る。4代目で取締役専務の池原文子さんは「泡盛は何年も寝かせているうちに、人間みたいに熟成します。それがとても面白いんです」と話す。

写真やんばるの森が生み出す美味しい水(喜如嘉七滝)

 ただ、沖縄でも若い人のアルコール離れが進んでいる。このため、池原さんは県外のファンも増やそうとネット通販に力を入れるほか、サブスクリプション(=定額制サービス)モデルも導入した。参考にしたのが沖縄独特の相互扶助システム「模合(もあい)」。参加者が一定額を積み立てながら、順番にお金を受け取る仕組みで、本土の頼母子講(たのもしこう)や無尽講に近い。

 やんばる酒造が始めた「つながる"泡盛"定期便『やんばるもあい』」は、購入者に一定額(月1500円、3000円、1万円の3コース)を積み立ててもらい、その返礼品として泡盛ややんばるの特産品を送る仕組み。ふるさと納税に似ているが、年に1回は酒造所に集まってもらい、食事や酒を楽しむ会を開く点がユニークだ。2019年10月に開催した第1回では東京や米国ハワイ州から駆け付けた人もいた。池原さんは「『泡盛を飲んでください』ではなく、地域社会の中で絆を深める道具にしたいんです。そうすれば、やんばるに来てくれる人や移住者も増えてくるはず」と期待し、泡盛造りと村興しの「二刀流」で汗を流す毎日だ。

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 都会では当たり前のものが、この村では見当たらない。駅、大型商業施設、ファストフード、映画館、歓楽街...。それらとは全く無縁の世界が広がる。夜、漆黒の闇の中から聞こえてくるのは波の音だけ。人気(ひとけ)のない、やんばるの森に棲(す)むのは精霊「ぶながや」と伝えられる。こうした村だから、人の持つ本来の優しさにたっぷり触れ合うことができる。このため、大宜味村には本土から多数の修学旅行生が訪れ、農家に泊まり農業を体験する。そして「ゆい」の心に接し、「何か」をつかんで帰っていく。

写真「ぶながやの里」宣言(大宜味村役場)

 そのコーディネートを担うのが、NPO法人おおぎみまるごとツーリズム協会である。村の人口の3倍近い、年間8800人もの修学旅行生(中学生1泊、高校生2泊)を受け入れる。現在、40軒が受け入れ民家として登録する。事務局長の稲福元子さんは「(修学旅行生の)離村式では男子が『帰りたくない』と言って泣くんです。何も無いのがいいんでしょうか」と話す。理事長の宮城健隆さんは定年退職後、母の故郷である大宜味村へ移住した。「山、川、海、里の魅力がすべて凝縮された村。だからNPOの名前に『まるごと』を入れ、生活・文化・自然・体験・交流のすべてを提供しています」と胸を張る。

写真NPO法人おおぎみまるごとツーリズム協会の宮城健隆さん(中央)、稲福元子さん(右から2人目)、スタッフの皆さん

 このように学校教育関係者の間で大宜味村は存在感を発揮し、体験型の修学旅行先として人気を博している。その一方で、沖縄県内に観光地が多数存在することもあり、旅行先としては知名度が高いとはいえない。

 日本全体で人口減少が加速する中、どの自治体も「定住人口」を増やすのは容易でない。各自治体が小さくなるパイを奪い合っても、消耗戦に疲弊するばかり。となると、大宜味村も観光で訪れる「交流人口」や、ファンとして応援してくれる「関係人口」を拡大することで、地域経済を維持していきたいところだ。

 こうした中、大宜味村に観光政策の戦略的な拠点が誕生した。2020年2月22日にグランドオープンした「やんばるの森ビジターセンター」である。国道58号沿いの旧大宜味中学校跡地に、約11億円が投じられて完成。観光案内や特産品展示・販売などの機能を担い、レストランも併設する。大宜味村に国頭村(くにがみそん)、東村(ひがしそん)を加え、やんばる国立公園を抱える3つの村の「玄関口」として期待は大きい。これに先立ち、2019年6月に大宜味村観光協会も設立された。

写真やんばるの森ビジターセンター

 なぜ今、大宜味村は観光政策の強化を急ぐのか。それは、やんばる国立公園を含む「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が2020年夏にも世界自然遺産に登録される可能性が出てきたからだ。宮城村長は「観光協会には外国語に堪能な職員も採用しました。世界自然遺産への登録が実現すると、県外ばかりか海外からの観光客が増え、大きな経済効果が期待できます」と話す。なお、大宜味村は2018年にリコージャパン(本社東京)と包括的連携協定を締結。やんばるの森の保全のほか、教育、健康・福祉、産業・観光など広範囲にわたり相互に協力している。

 大宜味村観光協会事務局長の増田耕平さんは「村の最大の魅力は長寿。海外のテレビ局などから受ける取材にも、積極的に対応していきます」と力を込める。こうした「長寿の里」のPR活動に加え、観光協会は生物多様性を保全する「チョウの舞う里づくり」や、ヤンバルクイナなど希少動物を守る「ネコ適正飼養活動」などに取り組む。増田さんは「村内では500~600匹のネコが放し飼いです。ネコ関連グッズを販売し、活動資金を確保していきます」と話す。大宜味村は「ネコの愛護及び管理に関する条例」(通称ネコ条例)を制定。飼い主にネコの登録を義務付け、放し飼いにしないなどの協力を求めている。

写真大宜味村観光協会の増田耕平さん(左から2人目)とスタッフの皆さん

 観光産業への期待が高まる大宜味村だが、課題もある。村内には家庭的なサービスが魅力の民宿が数軒あるものの、ホテルはない。このため観光客は大宜味村に立ち寄っても、近隣の自治体に移動して宿泊するケースが多い。宮城村長はこの問題に危機感を強め、ホテル誘致活動を展開してきた。そして努力が実り、大宜味村は2018年にルートインジャパン(本社東京)と協定を締結。200室規模のリゾートホテルが、2023年秋にも大宜味村・結の浜に完成する見通しだ。

 大宜味村は雇用創出の観点からもホテル進出を歓迎する。宮城村長は「100人規模の雇用が生まれます。人口を現在の約3000人から2023年には3200人まで増やしたいんです」と意気込む。ホテル建設予定の結の浜は、大保ダム建設に伴う残土を有効活用した埋め立て地。ここにはイチゴ栽培の植物工場のほか、診療所や小中学校、公園、コンビニ、民間アパートなどが整備済み。広い村の中の「コンパクトシティ」といった趣である。

写真大保ダムとダムカレー(ぶながや食堂)

写真埋め立て整備された「結の浜」

 「健康長寿」という大切なものを確実に守り、次世代にバトンを渡していく。そのために、大宜味村は時代の波も確実に捉えようとしている。人口3000人余の「長寿の里」では、一人ひとりが村是の「人材=資源」を実践し、一丸となって持続可能性を追求していた。

写真東シナ海に沈む夕日

(写真)提供以外は筆者 RICOH GRⅢ
(取材期間)2020年1月29~2月1日

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※この記事は、2020年3月31日発行のHeadLineに掲載されました。

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