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批判から一変、観光名所になった「ベタ踏み坂」

=テレビCMで急こう配が話題になってから…=

2019年09月20日

地域再生

研究員
板倉 嘉廣

 「ベタ踏み坂」を御存知だろうか?筆者の故郷の鳥取県境港市から、中海をまたいで島根県松江市を結ぶ江島大橋のことだ。全長1446m、最高点44.7mのこの橋が有名になったのは、6年ほど前に放映された、ある自動車メーカーのテレビCMがきっかけだ。その中ではアクセル全開、つまりベタ踏みでないと登り切れないほどの急こう配の橋とうたわれ、大きな話題となった。

20190920_01.jpg「ベタ踏み坂」として有名になった江島大橋

 ところが実際には最も急な箇所でも、こう配は6%ほど。つまり、100メートル進むと6メートル登る計算であり、日本で最も急坂と言われる暗峠(くらがりとうげ=大阪府と奈良県を結ぶ国道308号)の最大こう配(37%)と比べると、ベタ踏みは大げさだったかもしれない。それでも、観光案内サイトやSNS上でスキージャンプ台のような迫力ある遠景写真が相次いで紹介されたこともあり、時が経った今でも多くの人が訪れる観光名所となっている。専門的な橋の分類では、橋脚と橋げたが一体の構造であるPCラーメン橋になる。

20190920_02.jpg5キロほど手前から撮影した江島大橋 

 なぜ、このような巨大な橋が必要だったのか。それは、中海の海運が関係している。中海は沿岸に松江港や安来港を擁する汽水湖(=淡水と海水が交じり合う湖)。こうした港から外洋の日本海に出ようとすると、必ずこの橋の下を通る。最大5000トン級の船を航行可能にするには、車道を高くし、橋脚を広げる必要があった。かつては中海の干拓事業の一環で水門が建設され、その上を道路として使用していたが、水路を確保するために一部を跳ね橋にしたことが不便を招いた。大型船舶が通過するたびに交通が遮断され、14トン以上の大型車は通行禁止。大型バスは乗客を降ろして徒歩で橋を渡らせてから、対岸に回送させて出発することもあったという。

江島大橋と周辺地図

 やがて干拓事業が中止されたことに伴い、水門と跳ね橋を撤去し、代わりに別の橋を建設する計画が持ち上がる。1997年に着工、7年後の2004年に江島大橋が完成する。橋脚幅は250メートルあり、PCラーメン橋の規模では建設当時で世界第3位だったという。

 完成当初はあまりにも巨大な外観のため、メディアなどで「無駄な公共事業」と批判されることが多かった。実際、水門の撤去などに94億円、橋自体の建設に230億円もかかった。急坂のため、歩行者や自転車には優しくないというネガティブな意見も寄せられた。

 ところが、メディアのとり上げ方は前述のCMで風向きが一変した。急こう配を実感させる演出効果が絶妙だったためか、ネット上では「CG撮影ではないのか」という声も広がったほど。評判が評判を呼んで海外にも伝わり、英紙インディペンデントが2015年に「テレビゲームのマリオカートを思い起こす橋」と紹介。それが、日本政府観光局(JNTO)の英文サイトでも紹介された。境港には海外船籍を含むクルーズ船が多数来航しており、橋は人気の観光名所になり、経済効果は測り知れない。

 2015年時点で江島大橋は1日1万5000台の車が通行し、知名度抜群の瀬戸大橋の約8割に匹敵する。境港市の人口が約3万5000人であることを勘案すると、地元住民の生活道路としても定着していることがうかがえる。それだけでなく、松江市などと重要港湾である境港を結ぶ輸送道路として、トラックの輸送時間やコストの削減にも貢献している。

 山陰地方といえば、高齢化や過疎化が大きな悩みである。こうした中で地域再生の可能性を見出せそうなのが、観光需要である。日本を訪れる外国人旅行者が年間3000万人を越え、山陰に限らず全国の観光地が争奪戦に動いている。地域にとっては、多くの人を惹きつける目玉が一つでもほしいというのが偽らざる本音であろう。数年前には「無駄」と断じられた江島大橋のように、観光資源として見直されるケースもあるはずだ。一つの側面だけでなく、多面的に物事を評価する方法があるのではないのか―。里帰りして「ベタ踏み坂」を渡るたび、そう考えるようになった。

(写真)筆者

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