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お寺のオンライン「朝の会」で1日がスタート

=ストレッチ・瞑想・対話で「やる気」アップ=

2020年08月24日

新型ウイルス

企画室
竹内 典子

 「おはようございます。今日の東京は晴れです」「大阪は曇っていますよ」―。筆者の朝は、ウェブ会議アプリ上のこんな挨拶から始まる。といってもリモートワークではない。平日の午前7時から20分間、お寺のお坊さんが日替わりでストレッチ体操や瞑想を教えてくれるオンライン「朝の会」に参加しているのだ。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、一般社団法人寺子屋ブッダ(東京・恵比寿)が始めた「ヘルシーテンプル@オンライン」である。

 寺子屋ブッダは、宗派を越えた全国のお坊さんとさまざまな職業の市民がこれからのお寺の在り方を語り合い、それを実現するための実験の場として2010年に活動を開始。「朝の会」はそのプロジェクトの一環なのだ(参加無料だが、寄付は随時受け付ける)。ネット上の参加者は顔や声を出さなくてもよく、途中退出も可能。寝起きの顔のままで参加できる気軽さもあり、筆者にとって毎朝欠かせないルーティンになった。

 午前7時、まずは体を温めるストレッチ体操。深呼吸をしてから肩や首を回し、時には膝を深く曲げるスクワットも。「呼吸を止めずにゆっくりと。無理をせずに行いましょう」―。お坊さんの発する低い声が実に心地よい。

 続いて心をほぐすマインドフルネス瞑想。椅子や床に座り、背筋をすっと伸ばす。手は膝の上に置き、軽く目を閉じる。意識を呼吸に向け、静寂がしばし続く。「月曜日はこれからの仕事に気持ちが先走りするかもしれません。そんな時こそ、少し長めに瞑想しましょう」―

 仕上げは、お坊さんとの「対話」の時間。決して難しい説法ではなく、例えば、「人の喜ぶ顔を見るために何をやっていますか」という質問が投げ掛けられる。すると参加者からは、「できるだけ笑顔を心掛けています」「子どもにパンを手作りしています」といったコメントがチャットで続々と寄せられる。身近な気づきを与えてもらうことは少なくない。自分の答えがすぐに見つからなくても、「考えることが大事ですよ」と説かれるのも納得だ。

 筆者のコメントが読み上げられ、「それはいいですね」と返してくれた時には、「参加してよかった。今日も一日がんばろう」とやる気がアップする。これまで縁遠いと思い込んでいたお寺やお坊さんが、自分の日常生活にするりと入り込んでくるのは不思議だ。

 「ヘルシーテンプル@オンライン」の運営に興味を抱き、寺子屋ブッダの代表理事・松村和順(まつむら・かずのり)さんにオンラインで取材に応じていただいた。前述したように、松村さんは10年前から「全国各地に存在するお寺をもっと身近で、楽しくて、温かい場所にしよう」と寺子屋ブッダを設立。その活動を煎じ詰めて、1年前にお寺が地域の身近な健康拠点になる「ヘルシーテンプル構想」を実行に移した。

 ところが、新型ウイルス感染拡大のため、その活動は中断を余儀なくされる。その時、「今こそお寺として何かできないか」と居ても立っても居られなくなり、全国のお坊さんとともにウェブ会議システムを活用した「朝の会」を立ち上げた。緊急事態宣言下の2020年4月21日、それは静かに始まった。

 最初、参加者は30人程度。徐々に増え続け、今では海外を含め毎日200人を超える。ある80代の女性はウェブ会議システムの使い方が全く分からなかったが、お寺にスマートフォン持参で操作方法を習得。以来、毎日参加しているという。松村さんの元には、「お寺に足を運ぶよりも参加しやすい」「気持ちの良い朝の時間が過ごせる」といった声が続々と届いているそうだ。

 「朝の会」で進行役を務めるお坊さんも当初、接続トラブルに悩まされた。参加者の反応が分かりにくく戸惑いも多かったが、松村さんは「チャットのコメント数が増え、参加者から前向きな言葉のシャワーを毎朝浴びることが、お坊さんの幸せにもつながっています」と指摘する。

 松村さんは「昔からお寺は、人々がよりよく生きられるよう貢献する場。仏教の教えに基づき、心と体を調(ととの)える行いを提供してきました。その機能をネット上で実現しようと考え出したのが、ヘルシーテンプル@オンラインです」と話す。今後の活動については、「朝の習慣をお寺が提供する役割を、もっとたくさんの人に知っていただきたい。そして世の中が落ち着いたら、皆さんから『お寺に行ってみたい』と思ってもらえるよう、ネット上の雰囲気づくりに取り組んでいます」―。画面上で松村さんの笑顔が輝いた。

写真寺子屋ブッダ代表理事の松村和順さん
(写真)筆者

竹内 典子

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