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経済対策はスピードが命、後手に回るな小出しにするな

=リーマン・ショック当時からの教訓=

2020年04月23日

新型ウイルス

客員主任研究員
田中 博

 「危機はいつも違う顔をしてやってくる」―。経済の専門家の間では言い古された警句が、今ほど本質を突いた局面はなかったのではないか。

 中国・武漢での新型コロナウイルスの蔓延に端を発した今回の危機は、あっという間に世界を飲み込み、経済活動を麻痺(まひ)させた。その影響は「100年に1度」といわれた2008年リーマン・ショックを超えるのは確実であり、既に市民生活には大打撃が及んでいる。そこで本稿では、リーマン時に日本政府が出動した経済対策を振り返り、安倍政権が過去最大とうたう事業規模117兆円の経済対策に活かせる教訓を導いてみたい。

 まず大前提として念頭に置くべきことは、リーマン・ショックと今回の危機の波及経路の違いである。リーマン・ショックでは、米国の金融機関の破綻・経営危機によってグローバル金融市場が凍り付いた。それが製造業などを直撃して雇用や消費にも波及するなど、実体経済を蝕(むし)ばんだ。

 これに対して今回は、世界各地で人とモノの移動が大幅に制限された結果、広範囲にわたる業種で一気に経済活動が停止した。ただし、実体経済が急激に悪化する中でも、金融にはまだ明確な危機は及んでいない。このため同じ海外発の経済危機であっても、日本に求められる経済対策における優先順位は異なる。

 リーマン・ショック当時、麻生政権は2008年10月30日、12月19日、2009年4月10日の計3回にわたり、事業規模の総額が120.7兆円(うち国費(=「真水」)の総額24.4兆円)に上る経済対策を打ち出した。実は、米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻(2008年9月15日)直前の2008年8月29日にも、事業規模11.5兆円の経済対策を組んでおり、それを足し合わせると今回を大きく上回る。何度も経済対策を打ち出したのは、先述のように危機が急速かつ段階的に広がったためだ。だが結果的に後手に回ったり、チグハグな中身になったりした印象を拭えない。

図表リーマン・ショック後の経済対策
(出所)内閣府資料を基に筆者作成

 例えば、2008年10月の第1弾では消費喚起を大義名分に一律1万2000円の定額給付や、高速道路料金の引き下げを盛り込んだ。しかし、給付金が実際に国民の手元に届いたのは、3カ月以上経った年明け以降。景気がつるべ落としに悪化する中で、国民がそれを生活防衛に回すのは当然であり、後に財務省も「多くは貯蓄に回った」と総括したほどだ。

 むしろこの時期に注視すべきは、製造業の異変だった。金融市場の目詰まりによって、世界的に需要が「蒸発」していたからだ。日本の輸出企業の受注も急減し、生産がストップ。手元資金の枯渇で大企業からも悲鳴が上がったが、政府が資金繰り対策を含む総額37兆円の第2弾の経済対策を決定したのは年の瀬迫る12月のことだ。

 製造業が苦境に陥り、政府は雇用面でも対策を迫られた。非正規労働者の雇い止め、いわゆる「派遣切り」が社会を揺るがす深刻な問題となる。このため、政府は第2弾の経済対策の中に、こうした労働者に対する住宅確保や生活資金貸し付けなど約1兆円の雇用対策を盛り込んだ。しかし、東京・日比谷公園で「年越し派遣村」がつくられるなど、政府の対応は後手に回った感が強い。

 この2度の経済対策の事業規模の合計は63.9兆円。それでも景気悪化に歯止めを掛けられず、翌2009年1〜3月期の実質GDP成長率は年率換算でマイナス15.2%(1次速報ベース)に落ち込む。幅広い業種に影響が及ぶ中、さらなる景気対策が「待ったなし」となった。

 2009年4月、政府は3度目の経済対策をまとめ上げ、事業規模は当時としては過去最大の56.8兆円に達した。うち44.4兆円が雇用や金融面で底割れを回避する緊急対策。特筆すべきは「真水」と呼ばれる国費が、第3弾では15.4兆円に上ったこと。補正予算では過去最大級であり、政府も背水の陣を敷いて臨んだことがうかがえる。実際、景気はこれを底に反転、2009年4〜6月期の経済成長率(実質GDP)は5四半期ぶりにプラスに転じた。

 それでは、3度にわたるリーマン・ショック当時の経済対策から学べるものは何か。まず何よりも重視すべきはスピードであろう。現在、国・地方の外出自粛要請により、飲食・小売りを中心に休業を余儀なくされ、存続の瀬戸際に立たされた自営業者・中小企業は数え切れない。そこで働く人々のほか、立場の弱いフリーランスなども収入が途絶えて途方に暮れる。まずは消失した収入を素早く手当てすることが必要だ。

 今回の経済対策では、中小企業向け最大200万円、個人事業主最大100万円、減収世帯向けに30万円を給付するなど、さまざまなメニューが用意された。しかし、給付の要件があまりに複雑であり、お金を手にするまで時間もかかると批判を浴びた。

 その意味では、減収世帯の30万円給付を一律10万円給付に変更したため、分かりやすくはなった。だが、それ以外の支給要件は依然として不透明な部分が多い。欧米に目を向けると、既に振り込みを完了している国も少なくない。日本でも、自治体が実施する休業協力金などと併せて給付のスピードアップが喫緊の課題だ。

 また、リーマン・ショックの教訓に学ぶなら、経済対策は1度で終わらない。特に今回は、新型ウイルスの感染拡大が収まらなければ、経済活動を正常化できない。それだけでなく、正常化してもそのたびに感染が再燃する可能性も指摘される。長期戦で臨まねばならない以上、景気はどんどん落ち込んでいく可能性が強い。

 国際通貨基金(IMF)の2020年4月時点での予測では、2020年の世界経済の実質GDP成長率はマイナス3%。リーマン・ショック時の2009年(マイナス0.1%)よりはるかに悪化し、1930年代の大恐慌以来の景気後退に陥るとみられる。日本も2020年はマイナス5.2%に落ち込み、リーマン時の2009年(マイナス5.4%)に匹敵すると予測される。今後も景気動向を注意深く点検しながら、必要な箇所に機動的かつ果断な対策を断行するよう求められる。

 加えて、想像したくはないが、金融危機の発生だけは何としても阻止しなければならない。先述のように、今回はまだ金融システムには明確な影響が及んでいない。しかし、企業の破綻が相次いで金融機関の与信コストが増大し、それが金融不安を引き起こせば、経済への負のインパクトは幾何級数的に膨らんでしまう。その際には、各国の財政出動経だけでは限界があり、世界の金融当局が一致団結して消火作業に当たる必要がある。

 未曾有(みぞう)の危機といわれたリーマン・ショック。それからわずか11年半後...。それをしのぐ、世界恐慌以来の経済危機が訪れるとはだれが予想できただろうか。どこまで深淵(しんえん)が広がっているのか、あるいは広がっていくのか。うかがい知る術(すべ)はないが、われわれに備えと覚悟が必要なことだけは間違いない。

写真またも飛来したブラックスワン(イメージ写真)
(写真)田中博

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