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感染・死亡率が低い米カリフォルニア州の「謎」

=在宅勤務普及、自然災害慣れ、クルマ社会…=

2020年04月22日

新型ウイルス

副所長
中野 哲也

 中国・武漢に端を発した新型コロナウイルスの感染は地球全体に拡大し、今や感染者・死者の数は米国が最も多い。その一方で、州別のデータを見ると、地域間で状況に大きな差があり、「米国」では一括りにできない実態も浮かび上がる。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)のデータベース(2020年4月19日時点)によると、人口10万人当たり感染者数ではニューヨーク州が1248人で最多。これに対し、カリフォルニア州は78人。同死者数でも前者が71人で最多だが、後者は3人である。この「カリフォルニアの謎(California conundrum)」と呼ばれる現象について、4月14日付のNYTが興味深い解説を行っている。

20200424_001a.png人口10万人当たり感染者数・死者数(州別・ワシントンDC含む)
(出所)ニューヨーク・タイムズ・データベース(2020年4月19日時点)

 カリフォルニア州は全米50州中、最大の人口(=約3950万人)とGDP(=約3.2兆ドル)を誇る。太平洋に臨み、中国に対する米国の玄関口となる。NYTによると2020年1月の場合、中国からの直行便は600近くに上り、約15万人が入国した。これはニューヨークからの入国者の2倍以上。このため今回の感染拡大の初期、カリフォルニア州は全米で最も感染に脆弱な州の1つとみられていた。だが実際には、新型ウイルス感染者数の対人口比は州別で33位にとどまる。

 その理由について、NYTは専門家による分析として①カリフォルニア州政府が外出禁止命令を全米50州の先頭を切って発動②バー・レストランが通常営業を続けていたニューヨーク州とは対照的に、州命令の前からカリフォルニア州の市民はソーシャル・ディスタンシング(=社会的距離の確保)を開始③ハイテク産業が主導する形で在宅勤務が普及④2月でも乾燥して晴れが多い気候のおかげで、市民が混雑した場所を避けてアウトドアへ移動④2月2日のスーパーボウルで地元のサンフランシスコ49ersがカンザスシティ・チーフスに敗れ、大観衆が集まる優勝パレードが中止―などを挙げている。

写真サンフランシスコ市内フェリーターミナル
(提供)織田晋太郎

 また、カリフォルニア州は山火事や地震などの自然災害にたびたび見舞われてきた。このためNYTは、同州には災害に適切対処する巨大な行政組織がある上に、市民は災害発生時の命令に従うことに慣れていると指摘する。さらに、1人でもクルマで移動する文化や高速道路の渋滞、公共交通の不備、開発の郊外への拡大など、同州の弱点とされてきた特徴が今回は市民を守る可能性を指摘する。

 NYTによると、カリフォルニア州ロサンゼルス市のエリック・ガルセッティ市長は平日夜と週末、1918年のスペイン風邪当時の各都市の対応の研究に没頭する。その結果、経済活動の再開を急ぎ過ぎると、大惨事を招きかねないという重要な教訓を得た。感染第2波のほうが、第1波よりも多くの死者を出したのである。当時のサンフランシスコ市はロサンゼルス市に比べて外出制限の解除が早過ぎたため、すぐに第2の感染ピークを迎えてしまい、多数の市民が犠牲になった。

 「カリフォルニアの謎」に対してNYTが提示した仮説が本当かどうか、議論の余地はある。今後、検証が進んでいけば、新型ウイルス後の時代は「カリフォルニア生活」が各国のライフスタイルに影響を及ぼすかもしれない。都心より郊外、マンションより戸建て、地下鉄よりクルマ、在宅勤務もしくは広い職場、ゆったりと座れるレストラン...

 また、ガルセッティ市長の発言に象徴されるように、カリフォルニア州は1918年スペイン風邪の教訓を危機管理に最大限活かしている。だから、経済活動の再開には慎重な姿勢を崩さない。同州のギャビン・ニューサム知事も「プラグを抜くのが早過ぎるという失敗を犯さないようにしよう」と訴える。一方、経済優先のトランプ大統領はしびれを切らし、外出制限を解除する方針を表明。それに慎重なカリフォルニア州やニューヨーク州などと間の溝は深まるばかりだ。

 外出制限と経済活動はトレードオフの関係にある。米国に限らず、日本もはっきりとした答えを出せず、試行錯誤が続いている。だが、今はスペイン風邪の教訓に学びたい。経済再開を早まり破滅的な第2波を招く事態だけは、何としても回避しなくてはならない。

写真ツインピークスから望むサンフランシスコ市街
(提供)織田晋太郎

中野 哲也

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