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どこへでも行ける?!映画は「魔法のじゅうたん」

=外出自粛を利用して魅力の再発見を=

2020年04月27日

新型ウイルス

主任研究員
古賀 雅之

 「あの俳優夫婦まで新型コロナウイルスに感染?」―。2020年3月初旬、衝撃のニュースが飛び込んできた。映画撮影のため、オーストラリアに滞在していた俳優トム・ハンクスと、夫人のリタ・ウィルソンが新型コロナウイルスに感染したというのだ。幸い、トムは回復し、夫妻で米国に無事帰ったという。

 このニュースに接して、「めぐり逢えたら」(日本公開1993年)」や「ユー・ガット・メール」(同1999年)でトム・ハンクスがみせた表情豊かな演技を思い出した。筆者はこの2つの作品を女優メグ・ライアン目当てで観たのだが、共演したトムのほとばしるような才能に魅せられ、以来熱烈なファンになった。

 筆者の映画鑑賞歴は中学生時代にさかのぼる。目覚めたきっかけは、パニック映画「タワーリング・インフェルノ」(同1975年)。米国サンフランシスコの超高層ビルで大火災が発生、それに立ち向かう男たちを描いた大作だ。スクリーン一杯に広がった「炎」の映像に、ただただ圧倒された。それから45年経っても、映画熱が冷めることはない。2019年も45本の映画を鑑賞した。

 しかし「映画が趣味」と言うと、若い人たちに古臭いと思われた時期もあった。一般社団法人日本映画製作者連盟によると、映画館の入場者数は1958年に11億人に達した後、坂を転げ落ちるように減少。1997年には1.41億人まで落ち込んだ。ピークから実に85%を超える減少率である。1960年に始まったカラー放送の急速な普及により、映像娯楽の主役をテレビに奪われたからだ。

 ところが、ここ数年はその入場者数に回復の兆しがある。実際、グラフを眺めると2019年には1.95憶人まで持ち直し、ボトムの1997年からは40%近くも増えているのだ。

図表映画館入場者数(単位億人)
(出所)一般社団法人日本映画製作者連盟

 なぜ、インターネット全盛時代に人は映画館に足を運ぶのか。推測の域を出ないが、施設内に複数のスクリーンを持つ「シネマコンプレックス(シネコン)」の台頭はその理由の一つになるだろう。最近は、客席がシーンに連動して動く「モーションシート」や、水や風、香りなどが出る「体感型シアター4DX」まで登場。また、ディズニー映画「アナと雪の女王」で話題になった「みんなで歌おう♪」は、入館者がスクリーンと一体となり大声で歌う仕掛けが大いに受けた。こうした「映画館ならでは」の体験を提供する努力が奏功していると思う。

 さらに、入場者の減少に歯止めがかかった1997年を考えると、意外な「援軍」の存在も浮かび上がる。ちょうどインターネットの普及が加速し始め、マルチメディアブームが起きていた時期と一致するのだ。

 テレビの登場が映画を蹴落としたように、常に新興メディアは既存メディアの「ライバル」と見られがちだ。しかし、ネットやDVDなどで気軽に映画を楽しめるようになり、作品の魅力が再認識された結果、「次は臨場感のある映画館で」と考える人が増えたのではないか。

 「サヨナラ・サヨナラ・サヨナラ!」で知られる映画解説者の淀川長治氏も、生前「テレビのおかげで映画は農家のお婆ちゃんまで見られるようになった」と語っていた(「徹子と淀川おじさん 人生おもしろ談義」黒柳徹子・淀川長治、立東舎文庫)。淀川氏が喝破したように、新興メディアには既存メディアの裾野を広げる力も確かにあるのだ。

 さらに足元では、AmazonプライムやNETFLIXなどのビデオ・オン・デマンド(VOD)が加入者を急速に増やしている。かく言う筆者も、トムの感染を知った後、彼が出演した「アポロ13」(日本公開1995年)や「ハドソン川の奇跡」(同2016年)、「ペンタゴン・ペーパーズ」(同2018年)」などを自宅で立て続けに観た。

 政府は2020年4月16日、それまで東京など7都府県に発令していた「緊急事態宣言」の対象区域を全国に拡大。それにより、オーバーシューティング(爆発的患者急増)を防ぐため、当該7都道府県で実施されていた、5月6日までの映画館閉鎖の波が全国に及ぶ見込みだ。映画ファンとしては悲しい限りだし、関係者の無念を考えると胸が痛む。

 しかし、今は前向きに捉えたい。外出自粛期間が人々が映画の魅力を再発見するきっかけになり得るからだ。実際、VODの視聴は急増していると聞く。映画館に行けなくても、自宅で映画を鑑賞できる。つまり家に居ながらにして、外国はもちろん過去や未来、宇宙へも旅ができる。映画は「魔法のじゅうたん」なのだ。だがやはり、エルビス・プレスリーの伝記映画というトムの次回作は、ぜひ臨場感あふれる映画館で観たい。新型ウイルス感染拡大の一日も早い終息を祈るばかりだ。

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