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日本に求められる感染症対策「司令塔」

=米国はCDCとカリスマ所長が主導=

2020年04月15日

新型ウイルス

客員主任研究員
田中 博

 新型コロナウイルスの猛威が止まらない。欧米がロックダウン(都市封鎖)で懸命に防戦する中、日本政府も2020年4月7日、東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」を発令。感染爆発とそれが引き起こす医療崩壊の阻止に向け、コロナとの闘いは正念場を迎えた。この段階で終息後に言及するのは、尚早かもしれないが、本稿では将来を見据えて感染症対策の恒久的な体制整備について論じてみたい。

 今回、政府でコロナ対策を担うのは全閣僚をメンバーとする「新型コロナウイルス感染症対策本部」(本部長・安倍晋三首相)。その諮問機関として、感染症の専門家ら12人から成る「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(座長=脇田隆字・国立感染症研究所長)を設置、医学的な見地から助言を仰ぐ。ただし、いずれも臨時的な組織であることに加え、実務は国立感染症研究所や厚生労働省、内閣官房の新型インフルエンザ等対策室などが当たるため、一元的な戦略を立案できていないとの指摘もある。

 そういう意味では、米国に「お手本」がある。米疾病対策センター(CDC、本部ジョージア州アトランタ)だ。米保健福祉省の下部組織に当たり、その使命は疾病・傷害・障害の防止と管理により、健康と生活の質の向上を図るという幅広いもの。だが真骨頂は新たな感染症やバイオテロなどが発生した際の危機対応にある。有事が起こると、24時間・365日情報収集に当たり発信を続け、感染拡大の防止策まで立案する。まさに「司令塔」を務める。

 米政府が2020年1月末、早々に中国への渡航中止を決めたのは、CDCの助言に従ったものとみられる。そして、世界保健機関(WHO)が反対する中でも、各国は米国の後を追う形で堰(せき)を切ったように同様の渡航制限を打ち出した。豊富なデータに基づく分析や知見を武器にして、CDCの影響力はWHOに匹敵し、他国の類似機関を圧倒する。

 CDCの力の源泉は豊富な財力と人材だ。年間予算は約8000億円を誇り、世界54カ国に職員約1万4000人を抱える。一方、よく引き合いに出される日本の国立感染症研究所は2020年度当初予算で62億5600万円、研究者は306人。段違いなのは一目瞭然だろう。

 だが今回は、そのCDCさえも米国内の新型ウイルス感染爆発を防止できず、死者が世界最大を記録するなど苦戦を強いられている。検査キットの配布を2020年2月初旬に始めたものの、キットの中の試薬の汚染で検査が滞り、大事な初動で後れをとった。また、経済への影響を極力抑えたいトランプ大統領が当初コロナの脅威を矮小化したため、CDCは潜在能力を満足に発揮できなかったようだ。

 そんな状況を一変させたのが、国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長(79)である。NIAIDはCDCと同じく保健福祉省が所管する国立衛生研究所(NIH)の一部門。ファウチ氏は1984年にNIAID所長に就任。以来36年間にわたり、感染症対策の第一人者としてレーガン氏からトランプ氏まで6人の大統領に仕え、エイズウイルスやエボラ出血熱などの感染症対策で助言してきた。今回も、楽観論を振りまいたトランプ氏とは対照的に、科学的データに基づいて事態の深刻さを淡々と伝える語り口が信頼を集め、多くの国民が耳を傾けるようになった。

 例えば、トランプ氏が「ワクチン開発はすごいスピードでできる」と発言すると、ファウチ氏は「ワクチン開発は1年から1年半かかる」と切り返し、現実を直視するよう国民に求めた。また、トランプ氏が4月12日のイースターまでに外出制限措置を解除し、通常の生活に戻すという見方を示すと、ファウチ氏は「措置を緩和したいと思う人は1人もいない」とすかさず反論。トランプ氏も方針を変えざるを得なくなった。さらにファウチ氏が「現状から判断すると、(死者は)10万~20万人の間になるだろう」と語ったことで、米国は一気に危機モードに突入した。

 一国の指導者からすると、コロナ対策を厳格化すればするほど経済が犠牲になるため、国民にどんなメッセージを送るかは実に頭の痛い問題。CDCという強大な組織とファウチ氏のようなカリスマの存在によって、トランプ大統領は新型ウイルス封じ込めに重心を移さざるを得なくなった格好だ。

 それでは日本は将来、どのような組織を整えておくべきなのか。政権内ではいくつかの選択肢が検討されているようだ。例えば、エボラ出血熱の発生を受けて2015年に設置された内閣官房・国際感染症対策調整室を拡充する案もその一つだ。2020年3月3日の参院予算員会で安倍氏は「米国のCDCのような組織も念頭に置きながら、組織を強化していくことは重要な視点である」と答弁している。

 日本医師会の横倉義武会長もメディアとのインタビューで日本版CDCの必要性に言及。既存組織を拡充して感染症に対する危機管理機能を持たせるとともに、感染症だけでなく自然災害にも対応するよう訴える。

 その一方で、現場の研究者からは別の声も上がる。帝京大学大学院公衆衛生学研究科の高橋謙造教授は筆者の取材に対して、「感染症のみを扱う人間を育てて数を担保しないといけない。そこで決まったものは総理でも覆せないぐらいの権限を持たせたほうがいい。政治家の役割は腹を括って国民を説得することだ」と、権限委譲の重要性を強調する。その上で、「省庁からの干渉、圧力を受けないためには、独立した財源を持つ民間機関であるのが望ましい。複数の民間企業から資金を募り、企業の利益などに忖度(そんたく)しなくても済むよう資金使途を公開して透明性を持たせれば、運営はできるはずだ」と語る。

 人材に関しては、高橋氏は「民間から広く募りプロを育成する。規模は、50〜100人程度。これ以上大きくなり分業制になってしまうと、結局だれが何を把握しているか分らなくなってしまう。常に若い頭脳、思考力、情報公開力、海外への情報発信力を担保する」と力を込める。現在の新型ウイルスが終息した後も、未知の感染症の危機がなくなることはない。高橋氏も「喉元過ぎて熱さを忘れないうちに動き出すことが重要」と語る。

 実は、米国がCDCの本部を南部のジョージア州に置いたのは、現地で大流行したマラリア対策のために設置されたという経緯があるからだ。今回、新型ウイルス封じ込めの成功例とされる韓国は、2015年に発生した中東呼吸器症候群(MERS)感染拡大の反省に基づき、広範にわたり検査可能な体制を整え、重症者とは別に軽症者・無症状者を隔離する施設を準備した。過去の経験が十分に生きているようだ。

 果たして日本は、今回の災禍を教訓としてどう活かすことができるのか。政府だけでなく、国民一人ひとりの危機意識が問われているように思う。

写真国民生活にさまざまな影響が及んでいる(イメージ写真)
(写真)中野哲也

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