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「電子政府」内外動向を探る(第4回)豊橋市(愛知県)

=業務・システム効率化で全国2位、国に「推進力」を期待=

2021年04月20日

内外政治経済

研究員
米村 大介

 「『電子政府』内外動向を探る」第4回は豊橋市(愛知県)をとり上げる。自動車輸入で全国1位を誇る「三河港」を中心に臨海工業地帯が広がる一方で、農業も盛んというバランスの取れた中核市である(2021年3月1日現在、人口約37.5万人)。

写真豊橋市庁舎
(提供)豊橋市

図表豊橋市マスコットキャラクター「トヨッキー」
(提供)豊橋市

 豊橋市は「日経グローカル」(日本経済新聞社)が2020年にまとめた「市区町村の電子化推進度ランキング」で総合10位にランクイン。その項目別に見ると、「業務・システムの効率化」では全国2位に入り、行政のデジタル化に積極的な自治体として知られる。

 この「業務・システムの効率化」の評価ポイントは、①公共事業の電子入札などオンラインシステムを共同利用しているか②自治体クラウド(=庁舎外のデータセンターで情報システムを共同管理)を導入しているか③情報システム台帳を2019年度までに整備しているか―などである。

市区町村の電子化推進度ランキング
図表(出所)日経グローカルを基に筆者

わずか3カ月弱で95%の押印廃止

 とりわけ、豊橋市はシステムの共同利用に積極的だ。具体的には、愛知県内自治体の協議会が構築した共同オンライン申請の仕組み「あいち電子申請・届出システム」(2004年7月~)を活用。市民がインターネット上で①所得・課税証明書を取得②上下水道の利用開始・停止を申請③公文書公開を請求―などを行えるようにしている。

写真全国でも貴重な路面電車が市民の足
(提供)豊橋市役所

 それにとどまらず、豊橋市はオンライン申請の活用をさらに進めている。後押ししたのが、菅義偉内閣発足直後の2020年9月、河野太郎行政改革担当相が打ち出した「はんこ廃止宣言」だ。これを受けて、豊橋市もオンライン化の障壁だった押印削減の検討に着手。同宣言からわずか3カ月弱で条例を改正し、従来押印を必要としていた5006種類の手続きのうち95.3%に当たる4772種類から押印を廃止した。残りの業務についても、国の法律が改正され次第、押印を廃止する方針だ。

 また、豊橋市は自治体のシステム標準化でも先頭を走る。例えば、総務省が推進する「自治体行政スマートプロジェクト」では、税務業務デジタル化部門の代表幹事を務めた。他の4つの自治体(岡崎市、前橋市、高崎市、伊勢崎市)とともに、人工知能(AI)によりパソコンや業務システムのログを解析することで最適な業務プロセスを導き出す活動やRPA(ソフトウエアで事務処理する「ロボティック・プロセス・オートメーション」)を活用した税務業務の自動化に取り組んだ。また、オンライン手続きを活用した標準化を含め、検討結果を総務省に報告した。この経験を活かし、豊橋市は業務プロセスのさらなる効率化を目指している。

「市民全員にデジタル化の恩恵」が目標

 一方で、システムの共同利用・標準化に積極的な豊橋市だからこそ、筆者には気懸かりな点がある。国が2025年度末までに自治体の行政システムを統一・標準化するよう求める方針を打ち出したからだ。これまでせっかく構築してきた仕組みが置き換えられる心配はないのだろうか。

 これに関して、豊橋市総務部情報企画課の川島加恵課長、松井清和課長補佐、請井洋文専門員に取材したところ、国の旗振りに対して前向きな答えが返ってきた(注=2021年3月5日取材時の役職)。川島氏は「現場ではまだまだ効率化すべきことが多い。効率化が進んでいると言われても、いまだに多くの市民が窓口で申請書を書いている。世の中がどんどん便利になっていく中で、行政だけがいつまでも変わらず、旧いやり方を続けていてはいけない。国には押印廃止のような推進力も期待したい」という。

 豊橋市が国に期待する推進力は、システム面での整備だけではない。松井氏は「行政のデジタル化には職員の教育が必要になる」として、国に人材育成の後押しを期待する。同時に、「市民に対して、デジタルを活用してみようという意識変化を促す取り組みも重要になる」と述べ、市が市民への啓蒙活動に取り組む必要性も指摘した。

 情報企画課の目標は、「市民全員がデジタル化の恩恵を受けること」である。デジタルを使う人は当然、その利便性を享受する。だが使えない人にも、デジタル化で余裕が生まれた市の職員が手厚いサービスを提供するのだ。こうした市民一人ひとりに寄り添ったデジタル化が、豊橋市のバックボーンにあるようだ。取材の最後、川島氏は「自治体の行政システムの統一・標準化はその目標への近道。今後も豊橋流のデジタル化を進めていきたい」と決意を示してくれた。

写真豊橋市総務部情報企画課の請井、川島、松井の各氏(左から)
(提供)豊橋市

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米村 大介

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