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米国主導の世界秩序は解体に向かう?

【書評】2021年以後の世界秩序 国際情勢を読む20のアングル(渡部恒雄、新潮新書)

2021年01月13日

内外政治経済

副所長
中野 哲也

 新型コロナウイルスは世界合計で190万人を超える市民の命を奪い、なお猛威を振るい続ける。これに対し、大半の国家が十分な危機管理策を示せず、社会不安は強まる一方だ。同時に、新型ウイルスはコロナ禍前の問題をあぶり出した。中でも米国では大統領選後、社会の分断が一層深刻になり、連邦議会議事堂の占拠事件まで発生。民主主義という近代市民社会の根幹がかつてないダメージを受けた。

 このコロナ禍はわれわれに「海図なき航海」を迫り、先行きには深い霧が立ち込める。しかし、どんな苦難が待ち受けようとも、航海を止めるわけにはいかない。社会の秩序を取り戻し、傷ついた民主主義や資本主義の修復に取り組み、子孫に渡すバトンを準備する。それこそが現役世代の使命だからだ。

 こうした中、本書「2021年以後の世界秩序 国際情勢を読む20のアングル」(渡部恒雄、新潮新書、2020年12月)が刊行された。コンパクトな体裁ながら、われわれの「海図」に不可欠な「世界の読み方」のヒントがふんだんに盛り込まれている。評者は年始にお年玉をもらったような気分で一気に読了した。

図表(出所)版元ドットコム

 今、インターネット上には大量の情報が氾濫している。検索すれば何らかの答えが出てくるから、何でも分かったような気がする。また、ツイッターなどSNSで飛び交う片言隻句を追い掛けるだけで、世の中が分かったような気もする。だが、果たしてそうだろうか。断片的な情報をいくら積み上げても、目の前の霧は晴れることなく、深まる一方ではないか。

 しかも、自分が快いコンテンツばかりを求め、不快あるいは難しそうなものからは目を逸らす傾向も強まる。このような「情報偏食」では、「世界の読み方」など養われるべくもない。物事の表面的な事象だけでなく、その裏側に潜む本質を追究する。あるいは、情報発信者の立場や思惑を推量しながら、どんな情報にも掛かるバイアスを見抜く。こうした知的作業を忍耐強く繰り返していかない限り、未来を予測しながら航海を続けることはできない。市民社会はやがて漂流してしまうだろう。

 不確実性の強まる現代に生きるわれわれに対し、著者の渡部恒雄氏は国際情勢を読み解く上で欠かせない「20のアングル」を提示してくれた。「アメリカ・ファーストは変わらない」「中国の国際機関支配は止まらない」「気候変動合意を反知性主義が破壊する」「米国コロナ敗戦で『Gゼロ』が加速する」「北朝鮮の核開発は着実に進む」...。いずれも知的好奇心を刺激するものばかりだ。

 もちろん、その主張に対しては賛否両論があるだろう。だがどのアングルも、渡部氏の粘り強いファクト収集と冷静な分析に基づいており、ストンと腹に落ちるような説得力を持つ。ネット情報だけでなく、ワシントンや東京などに築いた同氏の質の高い人脈が、アングルの一つひとつに命を吹き込んでいるからだと思う。

 そして何より評者が感銘を受けたのが、渡部氏の「良心」である。視界不良が強まる中でも、世界が進んでいく(べき)方向を誠実に示そうという気概が、本書全編から伝わってくるのだ。

 国際情勢分析の第一人者でテレビ番組コメンテーターとしてもお馴染みの渡部氏だが、もちろん予測が外れることもある。本書「はじめに」の中で率直に認めているように、同氏はトランプ氏が2017年の大統領就任後、「それなりに現実的な政策に収束するのではないかと楽観して、そのような分析をしていた」という。

 このため、渡部氏は本書執筆に当たり、分析ツールや発想を徹底的に見直した。そして、「トランプ現象は、米国内だけのものではなく、現在の世界で起きている大きな変化の一つである」「あきらかに、第2次世界大戦後の米国主導の世界秩序を解体していくような流れがみられる」という観察結果を得た。歯科医師免許を持つ同氏らしい科学的な分析と、読者ファーストの明快な文体が実に心地よく、世代や職業を問わず是非とも薦めたい1冊である。


写真渡部 恒雄氏(わたなべ・つねお)
 笹川平和財団上席研究員 
 1963年生まれ。1988年東北大学卒、1995年米ニュースクール大学で政治学修士。米国ワシントンDCの戦略国際問題研究所(CSIS)入所、2003年上級研究員。東京財団などを経て現職。日米関係及びアジアの安全保障などが専門。
(写真)中野 哲也

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