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ロンドンの街並みと損害保険の意外な関係

=想定外の「常態化」に備えを=

2020年01月10日

内外政治経済

研究員
清水 康隆

 昨年の晩秋、初めて英国の首都ロンドンを訪れた。地下鉄の駅から出ると、石やレンガの建物が見渡す限り並んでいる。日本では見られない街並みなので、立ち止まっては写真を撮った。教会など歴史のある建物はもちろん、一般の住宅や店舗も石造りだ。旅行ガイドで見る風景は一部のエリアだけだと思っていたが、街全体がそうなので驚いた。

写真ロンドンの街並み
(写真)筆者

 この街並みが生まれたきっかけは、1666年にパン屋の失火が原因で起きたロンドン大火(The Great Fire)だとされる。鎮火するまでの4日間で、市街のおよそ8割が焼失。その反省から、木造を制限して石造りやレンガ造りを促す法律ができたのだという。

 実は、この大火をきっかけにロンドンで生まれたものがもう一つある。火災保険だ。国際貿易で栄えた英国では、もともと海難事故に備える海上保険が発達していた。1681年、その仕組みを基に世界初の火災保険会社「ファイア・オフィス」が誕生したのだ。

 今でもロンドンは世界有数の保険市場である。中でもロイズ保険組合は「保険会社のための保険会社(=再保険)」として、自然災害などの巨大リスクを引き受けることで有名だ。ロイズの起源をたどると、投資家が集まって海難事故などの情報を交換していたコーヒーハウスに行き着くという。

 近年、そのロンドン保険市場が揺れている。世界で大規模な自然災害が相次いでいるためだ。「震源地」の1つが日本であることは言うまでもない。

 2011年の東日本大震災では、関連の保険金支払額が1兆円を超えた。近年も2018年の西日本豪雨や、2019年の台風15や19号など相次いでおり、保険金支払額は2年連続で1兆円を超え、過去最大級だという。

 それに伴い、ロイズなどが日本の保険会社に支払う保険金が増加。その結果、再保険料の相場も上昇し、その一部は私たちが加入する損害保険(火災保険含む)の加入料に転嫁される。およそ9600キロ離れた日本とロンドンは、意外な形で結び付いているのだ。

 やっかいなのは地震や台風が引き起こす被害は、保険の仕組みでカバーしにくいということだ。

 同じ火災保険が対象とする「火事」の場合、一度に何万戸も被害に遭うことはほとんどない。過失が原因のロンドン大火のようなケースは、耐火建築の増加や消防技術の発展により、起きにくくなっているためだ。裏返すと、たくさんの加入者の中で毎年何%が被害に遭うかを過去のデータから予測できるのだ。交通事故や病気に備える保険も、こうした「大数の法則」により成り立っている。

 ところが地震や水害は、何%の確率で起きるのか予測しにくい。地殻変動が活発になったり、気候変動で異常気象が増えたりすれば、発生確率が想定を超えて急上昇してしまうからだ。加えて、被害が「点」ではなく「面」で発生するので大数の法則が当てはまらない。例えば2019年の台風19号の場合、国土交通省によると、71河川で堤防140カ所が決壊。浸水面積はおよそ2万4000ヘクタール(=東京ドーム約5100個分)に上り、約3万7000棟が浸水したとみられる(消防庁)。保険会社からすると、背負うリスクが大き過ぎるのだ。

 このため、損害保険は自然災害に伴う被害の補償をオプション(選択式)にし、補償範囲も限定するケースが多い。水害なら、オプションを付けても床下浸水が補償対象外だったり、支払額の上限が低かったりする。地震も民間だけでは対応できないので、国と共同で保険制度をつくり、任意で付加する形にしている。その支払い上限は付帯する保険額の50%までと、火事の補償などに比べて低い。

 こうした「割高感」も手伝って、保険による自然災害への備えは十分とは言えないのが現実だ。内閣府の試算によると、持ち家世帯の水害補償が付いた損害保険への加入率は66%にとどまる(2015年度)。地震保険は東日本大震災などをきっかけに、加入率が49%まで上昇したが、十分な備えとは言えないだろう。

 一方で、水害や地震はもはや「百年に一度」「忘れたころにやってくる」では済まないレベルで頻発している。民間の自助努力に限界があることを考えれば、国などで対応する新しい制度を検討すべき時期に来ているのかもしれない。

 個人レベルでもこの頻発する災害が「ニューノーマル(=新常態)」と覚悟し、対策を講じる必要があるだろう。ハザードマップの確認や食料の備蓄などに加え、自分が加入する損害保険で被害をどこまで補償してもらえるのか、年が改まった今、契約書を読み直してみてはいかがだろうか。

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