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季報ギャラリー

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(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.38 2023 Summer
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 静岡県には徳川の足跡が数多く残る。その一つが日本有数の茶畑だ。香りや味がよいお茶は古くから、京都宇治のように谷間で昼夜の寒暖差が大きい土地で育まれた。静岡県なら南アルプス山系の川筋。徳川家康が好んだお茶もそんな茶畑から生まれたが、今は少し様子が違う。新幹線の車窓から眺める茶畑は日当たりの良い牧之原台地に広がっている。牧之原台地は明治維新で禄を失った旧幕臣が勝海舟の援助もあって開拓した。徳川慶喜の護衛隊長だった中條景昭は神奈川県令(知事)を打診されたが断り、「山は下りぬ。お茶の木の肥やしになるのだ」と言ったという。当時、江戸時代の名残りで大井川に橋がなく、旧幕臣は対岸の島田に小舟で渡っていたが、あまりに危険だったため蓬莱橋が架けられた。今は世界一長い木橋としてギネスブックに載り、橋の袂(たもと)には勝海舟の像が立っている。(F)
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お茶の木の肥やしになるのだ
(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.38 2023 Summer

 静岡県には徳川の足跡が数多く残る。その一つが日本有数の茶畑だ。香りや味がよいお茶は古くから、京都宇治のように谷間で昼夜の寒暖差が大きい土地で育まれた。静岡県なら南アルプス山系の川筋。徳川家康が好んだお茶もそんな茶畑から生まれたが、今は少し様子が違う。新幹線の車窓から眺める茶畑は日当たりの良い牧之原台地に広がっている。牧之原台地は明治維新で禄を失った旧幕臣が勝海舟の援助もあって開拓した。徳川慶喜の護衛隊長だった中條景昭は神奈川県令(知事)を打診されたが断り、「山は下りぬ。お茶の木の肥やしになるのだ」と言ったという。当時、江戸時代の名残りで大井川に橋がなく、旧幕臣は対岸の島田に小舟で渡っていたが、あまりに危険だったため蓬莱橋が架けられた。今は世界一長い木橋としてギネスブックに載り、橋の袂(たもと)には勝海舟の像が立っている。(F)

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(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.37 2023 Winter
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 編集長逝去から半年、当研究所を新たな激震が襲った。昨年12 月5 日朝、欧州から帰国し自宅でスマホを眺めると、「稲葉延雄氏NHK 会長就任」の文字が目に飛び込んだ。「同姓同名の人がいるのか」と一瞬思ったが、当研究所初代所長、リコー前取締役会議長の稲葉さんに間違いなかった。彼が所長に就任した2010 年4 月当時、CSR という言葉は使われたが、「社会」への思いが今ほど根付いていたとは思えない。まして、研究所の英語名称に含まれるsustainability は、英単語として理解されたとしても、誰もが使う言葉ではなかった。今や企業行動とサステナビリティは切り離せない。サステナビリティの中核を占める「環境」は、世界経済の動き、地政学リスク、技術動向などさまざまな面へ関わりや広がりを持つ。そうした言葉を選んだ稲葉さんの先見の明に感心するとともに、NHK 会長としてのご活躍を祈りたい。(H)
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原点
(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.37 2023 Winter

 編集長逝去から半年、当研究所を新たな激震が襲った。昨年12 月5 日朝、欧州から帰国し自宅でスマホを眺めると、「稲葉延雄氏NHK 会長就任」の文字が目に飛び込んだ。「同姓同名の人がいるのか」と一瞬思ったが、当研究所初代所長、リコー前取締役会議長の稲葉さんに間違いなかった。彼が所長に就任した2010 年4 月当時、CSR という言葉は使われたが、「社会」への思いが今ほど根付いていたとは思えない。まして、研究所の英語名称に含まれるsustainability は、英単語として理解されたとしても、誰もが使う言葉ではなかった。今や企業行動とサステナビリティは切り離せない。サステナビリティの中核を占める「環境」は、世界経済の動き、地政学リスク、技術動向などさまざまな面へ関わりや広がりを持つ。そうした言葉を選んだ稲葉さんの先見の明に感心するとともに、NHK 会長としてのご活躍を祈りたい。(H)

<br /> (写真)松林 薫  RICOHFLEX MODEL Ⅶ使用
<br /> (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.37 2023 Winter

四条大橋からの鴨川 (京都市)
 (写真)松林 薫  RICOHFLEX MODEL Ⅶ使用
 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.37 2023 Winter

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(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.36 2022 Summer
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 先月、弔意を表す黒いネクタイを3度着用した。最初は父の三回忌。もう涙はない。遺品整理の会話が淡々と進む。2度目は高校同期の死。気丈に振る舞っていたご家族から急に嗚咽(おえつ)が聞こえる。この3年間で3人もの同期を失い、還暦を過ぎた重みも感じた。そして…。本当に大切な同僚を失った。彼の仕事には決して妥協がなかった。時間を惜しまず丹念に話を聞き資料を読み込み、精緻かつ情熱に溢れた文章を仕立てていく。病室で死の前日まで筆を執り続けた。彼の薫陶を受け成長した若手も数え切れない。議論で対立することもあった。その時に激しても、後を引くことなく次回は笑顔で話し掛けてくる。葬儀場で流れた彼の最愛の音楽はDeep Purpleの“Smoke on the Water”。この曲の嗜好は共通していた。中野哲也。享年59歳。あまりに短い、生き急いだ人生だった。今までの激務を忘れ、安らかにお休みください。(H)
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3度の黒ネクタイ
(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.36 2022 Summer

 先月、弔意を表す黒いネクタイを3度着用した。最初は父の三回忌。もう涙はない。遺品整理の会話が淡々と進む。2度目は高校同期の死。気丈に振る舞っていたご家族から急に嗚咽(おえつ)が聞こえる。この3年間で3人もの同期を失い、還暦を過ぎた重みも感じた。そして…。本当に大切な同僚を失った。彼の仕事には決して妥協がなかった。時間を惜しまず丹念に話を聞き資料を読み込み、精緻かつ情熱に溢れた文章を仕立てていく。病室で死の前日まで筆を執り続けた。彼の薫陶を受け成長した若手も数え切れない。議論で対立することもあった。その時に激しても、後を引くことなく次回は笑顔で話し掛けてくる。葬儀場で流れた彼の最愛の音楽はDeep Purpleの“Smoke on the Water”。この曲の嗜好は共通していた。中野哲也。享年59歳。あまりに短い、生き急いだ人生だった。今までの激務を忘れ、安らかにお休みください。(H)

<br /> (写真)稲葉延雄
<br /> (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.36 2022 Summer

庭先にて(東京都板橋区)
 (写真)稲葉延雄
 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.36 2022 Summer

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(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.35 2022 Spring
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 5年前、ロシア・ウラジオストク市内を取材して歩いた。首都モスクワからシベリア鉄道で9000キロ超。日本海に面する極東の街は、同国では貴重な不凍港を有する。このため、旧ソ連時代から軍都として発展した。市内には現役バリバリの軍港のほか、日露戦争前に築かれた要塞の跡地(写真左)や巨大潜水艦の博物館(同右)などがあり、戦争と不可分なこの国の歴史を実感した。かつてウラジオストクでは主にウクライナ地方からの入植者によって開拓が進み、今もその出身者がこの街を支える。だが、2014年のロシアによるウクライナ領クリミアの併合に伴い、ウクライナ出身者は祖国への帰郷を許されない。取材で知り合った中年男性は「80歳の母をウクライナに残してきたが、国際電話や電子メールはブロックされてしまう」と小声で明かした。2月24日、ロシアはウクライナへ侵攻、言語道断の戦史を追加した。今、ウクライナやウラジオストクの市民を思うと…。(N)
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極東軍都とウクライナ
(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.35 2022 Spring

 5年前、ロシア・ウラジオストク市内を取材して歩いた。首都モスクワからシベリア鉄道で9000キロ超。日本海に面する極東の街は、同国では貴重な不凍港を有する。このため、旧ソ連時代から軍都として発展した。市内には現役バリバリの軍港のほか、日露戦争前に築かれた要塞の跡地(写真左)や巨大潜水艦の博物館(同右)などがあり、戦争と不可分なこの国の歴史を実感した。かつてウラジオストクでは主にウクライナ地方からの入植者によって開拓が進み、今もその出身者がこの街を支える。だが、2014年のロシアによるウクライナ領クリミアの併合に伴い、ウクライナ出身者は祖国への帰郷を許されない。取材で知り合った中年男性は「80歳の母をウクライナに残してきたが、国際電話や電子メールはブロックされてしまう」と小声で明かした。2月24日、ロシアはウクライナへ侵攻、言語道断の戦史を追加した。今、ウクライナやウラジオストクの市民を思うと…。(N)

<br /> (写真)中野哲也
<br /> (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.35 2022 Spring

千鳥ヶ淵の夜桜 (東京都千代田区)
 (写真)中野哲也
 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.35 2022 Spring

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(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.34 2022 Winter
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 先日、講演で久しぶりに福井市を訪れた。朝、「ぶお~ん」という独特のモーター音が聞こえてくる。通勤・通学客を運ぶ路面電車(福井鉄道)が元気でうれしくなった。軽自動車に追い抜かれていくその姿は、スピードだけでない公共交通機関の使命を教えてくれる。人口減少が加速し、しかもクルマ社会の地方都市で路面電車を維持するのは容易でない。福井鉄道もかつて経営危機に陥ったが、地元の市民や自治体、商工会議所などから支援を受け、何とか存続している。2024年春、この素敵な街に北陸新幹線(JR西日本)が開通する。講演前に名刺交換した栗田幸雄・元福井県知事は「実現までに50年かかりました」と、ほっとしたように笑みを浮かべた。新幹線と路面電車のスピードはウサギとカメほど違うが、その共存が化学反応を起こし、この街には新たな息吹が注がれるはずだ。地球温暖化が深刻になり、エネルギー効率の良い鉄道の役割は世界的に見直されている。その一方でコロナ禍が鉄道会社の経営を圧迫するが、未来を見据えて踏ん張ってほしい。(N)
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ウサギとカメ
(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.34 2022 Winter

 先日、講演で久しぶりに福井市を訪れた。朝、「ぶお~ん」という独特のモーター音が聞こえてくる。通勤・通学客を運ぶ路面電車(福井鉄道)が元気でうれしくなった。軽自動車に追い抜かれていくその姿は、スピードだけでない公共交通機関の使命を教えてくれる。人口減少が加速し、しかもクルマ社会の地方都市で路面電車を維持するのは容易でない。福井鉄道もかつて経営危機に陥ったが、地元の市民や自治体、商工会議所などから支援を受け、何とか存続している。2024年春、この素敵な街に北陸新幹線(JR西日本)が開通する。講演前に名刺交換した栗田幸雄・元福井県知事は「実現までに50年かかりました」と、ほっとしたように笑みを浮かべた。新幹線と路面電車のスピードはウサギとカメほど違うが、その共存が化学反応を起こし、この街には新たな息吹が注がれるはずだ。地球温暖化が深刻になり、エネルギー効率の良い鉄道の役割は世界的に見直されている。その一方でコロナ禍が鉄道会社の経営を圧迫するが、未来を見据えて踏ん張ってほしい。(N)

<br /> (写真)中野哲也
<br /> (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.34 2022 Winter

金沢城公園(金沢市)
 (写真)中野哲也
 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.34 2022 Winter

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(【尾灯】イラスト) RICOH Quarterly HeadLine Vol.33 2021 Autumn
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 先月、世界最強のロックバンド「ローリング・ストーンズ」のドラマー、チャーリー・ワッツが鬼籍に入った。ミック・ジャガー(ボーカル)、キース・リチャーズ(ギター)、ロン・ウッド(同)が悪(ワル)を演じる中、チャーリーだけは英国紳士然とした風貌でドラムを黙々と叩き続けた。派手さは全くないが、チャーリーが叩かなければストーンズという生態系は成立しない。日米で何度か観たライブのうち、19年前のワシントン公演が最高だった。初秋の夜更け、気温が急速に低下…。すると、ドラムセット上で寒そうなチャーリーに、ミックがジャケットをそっと掛ける。人に優しいその姿が、ストーンズの神髄なのだと思う。春先、入院中の弟の見舞いに行くと、いつしかロック談議に。学生時代、彼はドラムで鳴らした。「チャーリーの演奏はタイミングを外しているようだけど、実は完璧なんだよ」と、具合いが悪いのに丁寧に解説してくれた。弟はチャーリーより2カ月早く旅立ち、今は天空からドラムを叩く音が聞こえてくる。2人ともありがとう、やすらかに…(N)
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チャーリー、やすらかに...
(【尾灯】イラスト) RICOH Quarterly HeadLine Vol.33 2021 Autumn

 先月、世界最強のロックバンド「ローリング・ストーンズ」のドラマー、チャーリー・ワッツが鬼籍に入った。ミック・ジャガー(ボーカル)、キース・リチャーズ(ギター)、ロン・ウッド(同)が悪(ワル)を演じる中、チャーリーだけは英国紳士然とした風貌でドラムを黙々と叩き続けた。派手さは全くないが、チャーリーが叩かなければストーンズという生態系は成立しない。日米で何度か観たライブのうち、19年前のワシントン公演が最高だった。初秋の夜更け、気温が急速に低下…。すると、ドラムセット上で寒そうなチャーリーに、ミックがジャケットをそっと掛ける。人に優しいその姿が、ストーンズの神髄なのだと思う。春先、入院中の弟の見舞いに行くと、いつしかロック談議に。学生時代、彼はドラムで鳴らした。「チャーリーの演奏はタイミングを外しているようだけど、実は完璧なんだよ」と、具合いが悪いのに丁寧に解説してくれた。弟はチャーリーより2カ月早く旅立ち、今は天空からドラムを叩く音が聞こえてくる。2人ともありがとう、やすらかに…(N)

<br /> (提供)ベクノス
<br /> (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.33 2021 Autumn

砧公園(東京都世田谷区)
 (提供)ベクノス
 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.33 2021 Autumn

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(【尾灯】イラスト) RICOH Quarterly HeadLine Vol.32 2021 Summer
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 歌手Adoさん(18)が年長世代に不平不満をぶつけまくる「うっせえわ」(作詞・作曲syudou) が大ヒット中。YouTube再生回数は1.5億を超え、もはや社会現象である。職場で「優等生」として振る舞う若者が、心の中では上司・先輩に怒りの炎を燃やす―。筆者の世代がまさに「うっせえわ」の標的だが、不思議なほど嫌な感じがしない。それどころか、簡潔で鋭敏な歌詞とアップテンポなメロディーが実に心地よい。普段は洋楽(クラシックロック)にしか聴く耳を持たないのに、この曲だけは何度も聴き返している。邦楽でこんなカッコイイ曲に出会えるとは、コロナ禍という干天の慈雨。職場だけでなく、政官財に批判の集中砲火を浴びせる作品を創ってほしいな。叫びたいのはオッサンも同じなんだよ。でもこんなウザイこと書くから、「うっせえわ」の標的になるわけだ。(N)
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うっせえわ
(【尾灯】イラスト) RICOH Quarterly HeadLine Vol.32 2021 Summer

 歌手Adoさん(18)が年長世代に不平不満をぶつけまくる「うっせえわ」(作詞・作曲syudou) が大ヒット中。YouTube再生回数は1.5億を超え、もはや社会現象である。職場で「優等生」として振る舞う若者が、心の中では上司・先輩に怒りの炎を燃やす―。筆者の世代がまさに「うっせえわ」の標的だが、不思議なほど嫌な感じがしない。それどころか、簡潔で鋭敏な歌詞とアップテンポなメロディーが実に心地よい。普段は洋楽(クラシックロック)にしか聴く耳を持たないのに、この曲だけは何度も聴き返している。邦楽でこんなカッコイイ曲に出会えるとは、コロナ禍という干天の慈雨。職場だけでなく、政官財に批判の集中砲火を浴びせる作品を創ってほしいな。叫びたいのはオッサンも同じなんだよ。でもこんなウザイこと書くから、「うっせえわ」の標的になるわけだ。(N)

<br /> (提供)ベクノス
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 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.32 2021 Summer

日比谷公園(東京都千代田区)
 (提供)ベクノス
 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.32 2021 Summer

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(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.31 2021 Spring
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 しや【視野】一目で見られる範囲。また、視力が届く範囲。「―をさえぎる」。比ゆ的に、観察・思慮などが及ぶ範囲。「―の広い人物」(岩波国語辞典)
人間の場合、目が平たい顔の上に2つ並ぶため、視野は左右120度ぐらい。残り240度が死角になる半面、対象を立体的に見ることができ、距離の計測も得意だ。人間と同じ位置に目がある、ライオンやネコなどの肉食動物の視野も概ね120度。獲物を取るのに適しているのだ。これに対し、草食動物のウサギは顔の両側に目があり、視野360度を誇る。だから接近する敵をいち早く察知し、逃走できるのだ。人間の視野もウサギ並みなら、危機管理能力が向上する。だが現実には視野が狭いから、痛い目を見ないと大半の人間・組織は動かない。本号にショートムービーを提供してくれた、ベクノス(本社横浜市)のペン型360度カメラ「IQUI(イクイ)」は、そんな狭い視野を広げる魔法のデバイス。えっ、ウサギはこんな景色を見ているの?(N)
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ウサギの目
(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.31 2021 Spring

 しや【視野】一目で見られる範囲。また、視力が届く範囲。「―をさえぎる」。比ゆ的に、観察・思慮などが及ぶ範囲。「―の広い人物」(岩波国語辞典) 人間の場合、目が平たい顔の上に2つ並ぶため、視野は左右120度ぐらい。残り240度が死角になる半面、対象を立体的に見ることができ、距離の計測も得意だ。人間と同じ位置に目がある、ライオンやネコなどの肉食動物の視野も概ね120度。獲物を取るのに適しているのだ。これに対し、草食動物のウサギは顔の両側に目があり、視野360度を誇る。だから接近する敵をいち早く察知し、逃走できるのだ。人間の視野もウサギ並みなら、危機管理能力が向上する。だが現実には視野が狭いから、痛い目を見ないと大半の人間・組織は動かない。本号にショートムービーを提供してくれた、ベクノス(本社横浜市)のペン型360度カメラ「IQUI(イクイ)」は、そんな狭い視野を広げる魔法のデバイス。えっ、ウサギはこんな景色を見ているの?(N)

<br /> (撮影)リコー経済社会研究所研究主幹 中野 哲也
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 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.31 2021 Spring

銀座4丁目交差点
 (撮影)リコー経済社会研究所研究主幹 中野 哲也
 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.31 2021 Spring

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(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.30 2021 Winter
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 戦後日本に高度経済成長をもたらした原動力が、京浜・中京・阪神の3大工業地帯である。その京浜エリアで筆者は生まれた。幼少期の日没後、巨大煙突が噴出するオレンジ色の不気味な炎に対し、畏敬に近い思いを抱いた。「何か分からないけど、工場が凄いモノをつくり、この国を支えているんだな」―。実際、良いモノを安く大量につくり続け、敗戦国は奇跡の復興を成し遂げた。ところが、中国はじめ新興国にキャッチアップされてしまい、産業構造の転換を迫られる。相当前からモノからサービスへの移行が叫ばれてきたが、最適解を見つけられず苦闘しているところに、新型コロナウイルスが…。戦後最悪の危機に対しては、過去の成功体験など役に立たず、発想を転換するしかない。先日乗船した京浜工業地帯を巡る夜景クルーズは、工場群をインスタ映えのコンテンツに仕立て上げ、寒風の中でもほぼ満席。モノをコトに変換してサービスに仕立て上げる知恵に逞しさを感じた。(N)
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工場夜景
(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.30 2021 Winter

 戦後日本に高度経済成長をもたらした原動力が、京浜・中京・阪神の3大工業地帯である。その京浜エリアで筆者は生まれた。幼少期の日没後、巨大煙突が噴出するオレンジ色の不気味な炎に対し、畏敬に近い思いを抱いた。「何か分からないけど、工場が凄いモノをつくり、この国を支えているんだな」―。実際、良いモノを安く大量につくり続け、敗戦国は奇跡の復興を成し遂げた。ところが、中国はじめ新興国にキャッチアップされてしまい、産業構造の転換を迫られる。相当前からモノからサービスへの移行が叫ばれてきたが、最適解を見つけられず苦闘しているところに、新型コロナウイルスが…。戦後最悪の危機に対しては、過去の成功体験など役に立たず、発想を転換するしかない。先日乗船した京浜工業地帯を巡る夜景クルーズは、工場群をインスタ映えのコンテンツに仕立て上げ、寒風の中でもほぼ満席。モノをコトに変換してサービスに仕立て上げる知恵に逞しさを感じた。(N)

<br /> (撮影)リコー経済社会研究所副所長 中野 哲也 RICOH GRⅢ使用
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 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.30 2021 Winter

京浜工業地帯(川崎市)
 (撮影)リコー経済社会研究所副所長 中野 哲也 RICOH GRⅢ使用
 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.30 2021 Winter

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「知的生産の技術」
(梅棹忠夫、岩波新書)
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(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.29 2020 秋
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 パワーポイントが職場に入り込み、いつの間にか支配権を掌握した。パワーポインターはその作成に追われ、キレイな資料を黙々と量産する。それによって人間の訴求力・理解力が高まり、判断・創造の質が向上する…。はずだったが、果たしてそうだろうか。キレイの追求、つまり手段が目的と化していないか。パワポのスライドの原型は京大式情報カードだと思う。学生時代、梅棹忠夫・京都大学教授の「知的生産の技術」に憧れ、厚手のB6判カードを買い込み、アイデアや引用を書き込んでは独り悦に入った。その際、大事な作業はカードの分類や並べ替えであり、その違いでストーリーが大きく変わる。翻ってパワポはどうだろう。スライドの順番は発表者が規定したまま。1枚に詰め込むだけ詰め込んだストーリーなきスライド群は、不味い幕の内弁当のようだ。「とりあえず食材を詰め込んでおけば、上司に叱られまい」といった魂胆が透けて見える。リモートワークになり、パワポをプリントアウトしない人が増え、書き込みも風前の灯火。労働資本を大量投下したパワポが「使い捨て電子紙芝居」ではもったいない。(N)
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知的生産の技術
「知的生産の技術」 (梅棹忠夫、岩波新書)
(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.29 2020 秋

 パワーポイントが職場に入り込み、いつの間にか支配権を掌握した。パワーポインターはその作成に追われ、キレイな資料を黙々と量産する。それによって人間の訴求力・理解力が高まり、判断・創造の質が向上する…。はずだったが、果たしてそうだろうか。キレイの追求、つまり手段が目的と化していないか。パワポのスライドの原型は京大式情報カードだと思う。学生時代、梅棹忠夫・京都大学教授の「知的生産の技術」に憧れ、厚手のB6判カードを買い込み、アイデアや引用を書き込んでは独り悦に入った。その際、大事な作業はカードの分類や並べ替えであり、その違いでストーリーが大きく変わる。翻ってパワポはどうだろう。スライドの順番は発表者が規定したまま。1枚に詰め込むだけ詰め込んだストーリーなきスライド群は、不味い幕の内弁当のようだ。「とりあえず食材を詰め込んでおけば、上司に叱られまい」といった魂胆が透けて見える。リモートワークになり、パワポをプリントアウトしない人が増え、書き込みも風前の灯火。労働資本を大量投下したパワポが「使い捨て電子紙芝居」ではもったいない。(N)

<br /> (撮影)リコー経済社会研究所副所長 中野 哲也 RICOH GRⅢ使用 2019年9月撮影
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 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.29 2020 秋

長良川鵜飼(岐阜市)
 (撮影)リコー経済社会研究所副所長 中野 哲也 RICOH GRⅢ使用 2019年9月撮影
 (表紙写真)RICOH Quarterly HeadLine Vol.29 2020 秋

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昭和40年代の事務机
(大分県豊後高田市「昭和の町」)
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(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.28 2020 夏
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 在宅勤務が続く。リモート会議システムに慣れると、定型業務は意外にこなせる。パソコン画面上のやり取りはもどかしいが、通勤の時間コストに比べれば、我慢できないレベルではない。馬鹿にしていたオンライン飲み会も、今ははしゃいでいる自分が恥ずかしい。ただしバーチャルの世界には、リアルの世界にない違和感を覚える。「予定調和」という名の妖怪が、会議や打ち合わせの参加者を支配するからだ。会議を早く終わらせようと、皆が優等生になる。画面を流れる空気に従い、必要最小限だけ発言する。だから、リアルな世界と比較すれば、良い意味での不規則発言や少々場違いの提案、冗談の類がめっきり減った。会議は進む、されど踊らないのだ。だから面白味を欠くし、斬新な発想も生まれにくい。思考の範囲がパソコン・スマホの画面サイズに規定され、かなり狭まる気もする。それで当面はよいけれど、そんな人間の仕事は将来、人工知能(AI)やロボティクスに奪われるんだろうな…。本日もお疲れさまでした。(N)
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会議は踊らず
昭和40年代の事務机 (大分県豊後高田市「昭和の町」)
(【尾灯】写真) RICOH Quarterly HeadLine Vol.28 2020 夏

 在宅勤務が続く。リモート会議システムに慣れると、定型業務は意外にこなせる。パソコン画面上のやり取りはもどかしいが、通勤の時間コストに比べれば、我慢できないレベルではない。馬鹿にしていたオンライン飲み会も、今ははしゃいでいる自分が恥ずかしい。ただしバーチャルの世界には、リアルの世界にない違和感を覚える。「予定調和」という名の妖怪が、会議や打ち合わせの参加者を支配するからだ。会議を早く終わらせようと、皆が優等生になる。画面を流れる空気に従い、必要最小限だけ発言する。だから、リアルな世界と比較すれば、良い意味での不規則発言や少々場違いの提案、冗談の類がめっきり減った。会議は進む、されど踊らないのだ。だから面白味を欠くし、斬新な発想も生まれにくい。思考の範囲がパソコン・スマホの画面サイズに規定され、かなり狭まる気もする。それで当面はよいけれど、そんな人間の仕事は将来、人工知能(AI)やロボティクスに奪われるんだろうな…。本日もお疲れさまでした。(N)