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清掃工場の概念を壊す「クリーンセンター」

=「迷惑」を「歓迎」に変える武蔵野市の挑戦=

2021年03月31日

地球環境

研究員
間藤 直哉

 新型コロナウイルスの感染拡大により、政府は2020年4月に東京、神奈川など7都府県に緊急事態宣言を発令。以来、人々の生活様式は大きく変わった。こうした中、「ごみ処理」の分野でも変化が起きている。例えば、東京23区では2020年の一般廃棄物が前年比約8%減少。企業・飲食店などの経済活動が停滞したのが主因だ。逆に郊外では増加しており、例えば横浜市のある清掃工場では20%以上も増えた。コロナ禍前は東京都心に出勤し職場で働いていた多くの人が、郊外の自宅で始めたテレワークなども影響しているようだ。

 実はごみ処理では、コロナ禍前から既に大きな変化が起きていた。以前は「迷惑施設」として扱われがちだった清掃工場が、「歓迎施設」に変わりつつある。つまり景観や建築デザインに配慮し、人が集まるよう工夫を凝らすようになったのだ。

 その先頭を走るのが、武蔵野市(東京都)が運営する「武蔵野クリーンセンター」。このクリーンセンター運営やごみ収集業務に関わる、武蔵野市環境部ごみ総合対策課の三浦伸夫・クリーンセンター担当課長、神谷淳一・課長補佐兼地産地消エネルギー推進担当係長、有居中央・管理計画係計画担当係長に取材した。

写真左から三浦さん、有居さん、神谷さん
(提供)武蔵野市

 全国の自治体から注目を集めるのは、武蔵野クリーンセンターが廃棄物処理だけでなく、周辺公共施設へのエネルギー供給を行い、災害時において「自立・分散型の拠点施設」としても機能するからだ。

 具体的には、ごみ焼却時に発生する熱を利用して発電を行い、隣接する市役所や総合体育館、緑町コミュニティセンター、むさしのエコreゾート、緑町ふれあい広場などに電気を供給。その際に発生する蒸気も、冷暖房用などに市役所と総合体育館に供給しており、エネルギーの「地産地消」を実現しているのだ。この熱電供給は大地震などで電力会社からの電気の供給が途絶えても維持されるため、防災対策にも貢献する。

武蔵野クリーンセンターと周辺公共施設図表(提供)武蔵野市

 クリーンセンターには一日60トンのごみを処理できる焼却炉が2つあり、そこで発生する蒸気による発電設備は最大出力2650キロワット。これに加えてガス・コジェネレーション設備で最大1500キロワットの発電が可能。両設備により2019年度に生み出された電力は約1万3600メガワット時に上り、これは一般家庭約4500世帯分の年間電力使用量に当たる。

 なぜこのような発想が生まれたのか。背景には、相次ぐ大規模災害がある。武蔵野市がクリーンセンター設置の検討を始めたのは2008年。検討期間中の2011年に発生したのが、東日本大震災である。福島第一原子力発電所事故の影響で、武蔵野市も計画停電の対象地域となる。この教訓を踏まえ、災害時に最も強いとされ、都市ガスを燃料とするコジェネレーション設備の清掃工場への導入を決定したのだ。

 災害が発生すると、ごみ処理設備はいったん緊急停止する。安全を確認できた後も、停電していれば再稼働できない。こんな時がガス・コジェネレーション設備の出番だ。自家発電を始めると、ごみ処理とエネルギー供給の両方の機能が復旧するのだ。

 武蔵野市役所は災害対策本部として機能を維持。総合体育館は緊急物資の輸送拠点になり、緑町コミュニティセンターは「災害時地域支え合いステーション」として地域特性に配慮した共助体制を確立する。この仕組みが全国から注目を集めると、国も2018年6月に閣議決定した「廃棄物処理施設整備計画」の中に「災害対策の強化」「地域に新たな価値を創出する廃棄物処理施設の整備」などを盛り込んだ。さらに、「廃棄物処理施設を地域の防災・エネルギー拠点とするため施設整備を支援する補助事業(モデル事業・促進事業)」を始めている。

 クリーンセンターが注目されている理由はもう一つある。稼働を始めた2017年に「公共用の建築・施設」部門でグッドデザイン賞を受賞したのだ。実際、高い煙突さえなければ清掃工場にはとても見えない。外装は実におしゃれだ。武蔵野の雑木林をイメージしたテラコッタルーバー(格子状に配列する素焼きの外装材)を使い、植物で柔らかく包み込むデザイン。ごみ収集車が出入りするプラットフォームを地下に造り、建物の高さを15メートルに抑えて周辺環境への圧迫感をなくした。「市役所を訪れた市民が美術館と間違えて入ってしまうことも」と三浦さん。

写真武蔵野クリーンセンターの外観
(提供)武蔵野市

 クリーンセンターは情報発信の拠点としても活躍する。例えば、武蔵野市はリチウムイオン電池の分別収集について周知活動に力を入れる。この電池は清掃工場での事故・火災につながる危険・有害ごみだが、一般のごみと一緒に収集される事例が全国で相次いでいるからだ。「分別を周知するために、2020年度は市職員の脚本・演出・撮影による啓発動画を作成しました」と有居さん。現在、YouTubeや市ホームページなどのほか、クリーンセンターのホールでも見学者向けに公開する。

 クリーンセンター内の見学者コースで、大きなガラス越しにデザイン性に優れた設備を見ていると、まるで美術館にいるような気分になる。過去にはこのコースの一角で、「gomi_pit BAR+大人の工場見学」を期間限定で開催。ごみ処理設備を眺めながら、「廃ボール」を片手に、ごみについて熱く語ったそうだ。このドリンクは、ユズから柚子胡椒(ゆずこしょう)を作る際の余りと、売り物にならない傷の付いた洋ナシを利用して作ったそうだ。

写真武蔵野クリーンセンター内の見学者コース
(提供)武蔵野市

 こうした武蔵野市の取り組みが画期的だったのは、一般に清掃工場は住民から迷惑施設として敬遠されるケースが多いからだ。クリーンセンターは建て替え構想から9年後の2017年に稼働した。「9年というと長いと思われるかもしれませんが、実は住民の反対が入ると15年か、それ以上かかるケースもよくあります」と神谷さん。

 順調に計画が進んだ背景には、旧施設からの周辺住民と行政のパートナーシップや、クリーンセンター建設計画における市民参加の議論・合意形成のプロセスに加え、防災拠点としての重要性や外観の親しみやすさなどが市民に理解されたからだろう。

 今、クリーンセンターは次の目標に向かって歩み始めた。ごみを利活用するエネルギーの地産地消の強化だ。稼働当初、クリーンセンターで生み出されるエネルギーの約30%は地産地消に利用できず、電力会社へ売電していた。

 だが、2018年度に「武蔵野市エネルギー地産地消プロジェクト」をスタート。売電の比率を少しずつ引き下げ、地産地消率を2020年度には約77%~80%まで引き上げる計画だ。「ここで作られたエネルギーのすべてを地産地消することが目標です」と神谷さんは熱く語る。そうすることで武蔵野市全域から排出される温室効果ガスを削減し、ゼロカーボンシティ(2050 年に温室効果ガス=二酸化炭素=の排出量の実質ゼロを目指す自治体)の推進にも貢献したいという。

 こうした武蔵野市の取り組みには、清掃工場の概念・イメージを根本から変えてしまうインパクトがある。全国の自治体を大いに刺激し、クリーンセンターには視察者が続々と訪れる。平時の清掃工場は市民から親しまれる場、災害時には頼られる場に。今回の取材を通じ、これが常識になる時代が必ずやって来ると確信した。

写真武蔵野クリーンセンターの広場で行われるイベント
(提供)武蔵野市

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