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エコバッグ代わりに「風呂敷」はいかが

=物だけでなく、思いやりも包み込む文化=

2021年01月15日

地球環境

研究員
竹内 典子

 米大統領選でバイデン前副大統領(民主)の勝利が確定、2021年1月20日に新政権が発足する。トランプ現政権(共和)が地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱したのとは対照的に、バイデン新政権はエネルギー・環境を重要政策の柱に掲げ、パリ協定への復帰も宣言する見通しだ。日本も菅義偉首相が2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにすると表明するなど、国際的に環境政策への取り組みが加速する。

 わたしたち一人ひとりの意識変革も不可欠だ。その意味で、2020年7月に始まったプラスチック製レジ袋の有料化は、地球環境を身近に考える良い機会となった。その一方で、問題もある。徹底して実践することが予想以上に難しいのだ。

 筆者も日々の買い物にエコバッグを持参するが、帰宅後にバッグの内外を除菌シートで拭くのが面倒だ。たまに忘れると、ついレジ袋を購入してしまう。「何か良い方法はないか」と思案していたところ、SNSで「風呂敷」が見直され始めたという投稿が目に付いた。

 風呂敷のルーツは、現在最古の風呂敷として奈良の正倉院に保管される「つつみ」にみられる。その当時は、大切な品物を包んで収納する目的で使われた布を指した。室町時代に入ると、将軍の湯殿(ゆどの、風呂場の意味)に招かれた大名が、脱いだ衣類を布に包んで他人の物と紛れないようにした。風呂から上がると、足下にその布を敷いて身支度するから、「風呂敷」と呼ばれるようになる。

 庶民の間に広まったのは江戸時代。風呂敷に着替えや湯具を包み、銭湯に出掛けた。その後、贈り物を包んだり、荷物をまとめたりと運搬目的の利用により普及し、風呂敷は人々の暮らしに欠かせない生活用品となった。

 ところが生活様式の西洋化に伴い、最近では風呂敷を見かける機会が激減した。それがエコバッグ全盛時代に注目され始めたのはなぜだろうか。そこで現代の風呂敷事情について、「Les Misera Culture School~日本に息づく心配り~」(東京都世田谷区)の代表で講師を務める、浅海理惠さんにオンラインで取材した。浅海さんは風呂敷や箸の使い方を通じ、日本の「心配り文化」の伝承を行うべく、講座開講や講演、執筆活動などに取り組む。

写真オンライン取材中の浅海さん

 浅海さんによると、風呂敷で使う基本的な結び方は2つしかない。それさえ覚えれば、個数や大きさ、形状などに合わせ、さまざまな物を包むことができる。それは、①「ひとつ結び」(風呂敷の角の1つを細い紐(ひも)状にし、右手で先端を持つ→輪を作り、右手で先端を輪にくぐらせて通す→先端を引っ張って結ぶ)、②「真結び」(風呂敷の角の2つを両手で持つ→両手で2回結ぶ※結び目が包むものと平行になるよう注意する)―である(右手は左手でも可)。

 ①と②を組み合わせながら、3~4回も結べば風呂敷はシンプルなエコバッグに早変わり(下の写真)。その大きさにもよるが、思った以上に物が納まる。「荷物を運ぶときには、解けないようしっかり結んでください。また、風呂敷の一辺は90センチ以上あったほうが使いやすいですよ」と浅海さんにコツを教えていただいた。

写真今回習った「ひとつ結び」「真結び」の組み合わせ

 また、風呂敷はエコバッグ代わりだけではなく、タペストリーやテーブルクロス、クッションカバーとしても活躍する。このほか、災害時には三角巾や授乳ケープにも使えるなど、その多機能性がSNS上で持てはやされているのだ。新型コロナウイルス感染対策としても注目を集め、「風呂敷を児童に持参させ、(手が机に直接触れないよう)敷いている(東京都)杉並区の小学校もあります。色とりどりの風呂敷で教室も明るくなると評判です」と浅海さん。

 風呂敷の素材は元々、綿が大半だが、最近ではポリエステルなどの化学繊維も増えているという。洗えば何度でも使えるため、浅海さんは子どもとピクニックに出掛ける際には、お弁当やおもちゃを風呂敷で包んで運び、原っぱに敷くという。「日本人は昔から大切なものを風呂敷で包んできました。単なる1枚の布ですが、人間の想像力を豊かにし、心を和やかにします。物だけでなく思いやりも一緒に包み込めるという、日本の文化が受け継がれてほしいと願います」―。浅海さんはこう語ると、パソコン画面上で素敵な笑顔を見せてくれた。

 この風呂敷文化を、以前から着目してきた海外の企業がある。英国のナチュラル化粧品ブランド「LUSH(ラッシュ)」は10年前、日本を含む世界約50カ国でオリジナル風呂敷「Knot Wrap(ノットラップ)」を発売。すると、日本国内で182万枚以上も売り上げるヒット商品に。ブランドコミュニケーションPRマネージャーの小山大作さんに話を聴くと、「Knot Wrapは日本の風呂敷から着想を得て、使い捨てではないギフト用ラッピングとして発売したものです」―

写真オンライン取材中の小山さん

 その人気の秘訣は、贈り先に合わせて選べるよう、サイズ・デザインを豊富に取り揃えていること。サイズは45~100センチ、価格帯も450円~3000円と幅広い。季節ごとに新しいデザインの商品が発表され、クリスマス時期には40種以上が店頭に並ぶ。

 中には、ダウン症の人向けに開放されているアトリエと、コラボレーションした商品もある。また、素材にはペットボトルからリサイクルした生地や、インドの女性就労を支援する団体が作ったオーガニックコットンなどもあり、人と地球に優しいLUSH の経営方針が映し出されている。

 同社は公式ホームページ上で、Knot Wrapを使ったギフトの包み方のほか、エコバッグやヘアアクセサリーとしての使い方を動画で紹介中。スカーフやベルトにも使え、おしゃれで自由という特徴が、女性を中心に人気を博しているそうだ。「ラッシュジャパンのオフィスでは、Knot Wrapをエコバッグの形にして、いつでもだれでも使えるように用意しています。日本で古くから親しみのある風呂敷の利便性を、日本の皆さんに再認識していただき、もっと海外に広がってほしいと思います」と小山さんは語る。

 これまで筆者は風呂敷に対し、「着物にマッチした和のイメージが強く、使い方も難しそう」と尻込みしていたが、今回の取材を通じておしゃれなデザインや機能性の高い素材の数々にびっくりした。結ぶだけでエコバッグとして使え、心も一緒に包み込んで贈り物を渡せる。たためばコンパクトで持ち歩け、洗えるから衛生面でも安心。今回の取材ですっかり風呂敷ファンになった。

 そして今では、エコバッグ代わりに風呂敷を持ち歩く。その良さがもっと認識され、日常遣いになればよいと思う。コロナ禍が収束した後、海外からの観光客が街のあちこちで使われている風呂敷を見て、日本が誇る「包む」文化を世界中へ持ち帰ってほしい。そんな日が待ち遠しい。

写真色鮮やかな「Knot Wrap」
(提供)ラッシュジャパン

(写真)提供以外は筆者


■URLリンク
Les Misera Culture School~日本に息づく心配り~
LUSH(ラッシュ)
Knot Wrap(ノットラップ)

竹内 典子

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