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水上都市は「夢」から「解決策」へ

=沖縄海洋博「アクアポリス」から半世紀=

2021年07月06日

最先端技術

リコージャパン㈱人財本部HR・EDTechサポートグループ
元リコー経済社会研究所 研究員 米村 大介

手塚治虫プロデュース、夢の水上都市「アクアポリス」

 2025年大阪・関西万博開催まであと4年を切った。会場は大阪湾に浮かぶ「夢洲(ゆめしま)」と呼ばれる人工島。そのロケーションは、「海と空を感じられる」という開放的な大阪万博の基本コンセプトを実現する上で欠かせない。

 過去にも海の活用をコンセプトにした万博が、日本で開かれたことをご存知だろうか。1975年の沖縄国際海洋博覧会(=海洋博)である。米国施政下から1972年に返還された沖縄の本土復帰記念事業の一環として、「海―その望ましい未来」をテーマに開催された。その跡地には今、「美ら海水族館」が建てられている。

 この海洋博の目玉が、海に浮かぶ「アクアポリス」。漫画家・手塚治虫がプロデュースし、「未来の海上都市」のモデルとして建造され、会期中に200万人以上の入場者を集めた。これはただ海に浮かぶだけの施設ではなく、海洋汚染を防止する環境技術を披露する場でもあった。ごみの無煙焼却や汚水処理、海水淡水化などの最先端装置が人々の目を引いた。また、アクアポリス周囲の海中は網で囲まれていた。そこでは食料確保のための「海洋牧場」が設けられ、魚を養殖していたのだ。まさに未来の水上生活を夢想した「都市」だった。

オランダでは「水上都市」が現実に

 沖縄海洋博から半世紀近くが過ぎた。今、温暖化に起因する海面上昇や、世界的な人口増加による都市の過密、食料・エネルギーの確保といった課題が山積する。それらが深刻化するにつれ、水上都市は「現実的な解決策」へと変化した。

 例えば、国連は2018年に海面上昇や人口密集に対処するため、海に浮かぶ水上都市構想「OCEANIX CITY」の検討を開始。そこで必要なエネルギーは、太陽光や風力など再生可能エネルギーで賄い、食料も地産地消で行う。国連人間居住計画(ハビタット)のマイムナー・モハメド・シャリフ事務局長も「解決策の1つ」と強調する。

 実は、水上都市は一部の機能に限れば、すでに実用化済みだ。湖沼が多く、国土の6分の1を水面が占めるオランダは2019年、世界初の水上牧場「Floating Farm」を建造した。

 生産性の高いデジタル農業・畜産先進国として知られるが、どうしても物理的な牧地面積が生産のボトルネックになる。豊富な水面を活用することで、それを解決しようというわけだ。Floating Farmへのエネルギー供給を担うのが、隣接の太陽光発電所である。水の冷却効果に伴い、地上よりも効率的な発電が可能になるという。

 水上住宅の事例もいくつかある。特にデンマークの首都コペンハーゲンにある「Urban Rigger」は注目に値する。住居費が高騰する首都で安く住める「学生寮」として設置。水力を暖房に利用する「水流熱源」や、水中から汲み上げた水をクリーンにする仕組みも備える。

 そして現代人の生活に欠かせないコンピューター分野では、「水中」の活用が進む。大量の排熱を発するデータセンターを、海中に設置するという米マイクロソフトの実証実験だ。データセンターで使用する膨大な電力の半分近くは、コンピューターを「冷やす」ために使われる。米調査会社によると、その冷却費用は世界全体で2020年に94億ドル(約1兆300億円)に上り、2025年には157億ドルへ拡大するという。

 そこで、マイクロソフトは海に着目したのだ。海水は無尽蔵でタダで手に入る。しかも、海上は風力発電・太陽光発電のような再生可能エネルギー施設の建造に向く。海上で「地産地消」なら送電ロスもない。この実証実験はサーバーを海中に沈めたままなので、故障しても対応はできなかった。だが、海上都市ならばそれも可能になる。

「水上都市」技術は問題なし、課題が「起爆剤」?

 このように水上都市が近づいてくる足音が聞こえてきた。その一方で、水上都市が本格的に実現するには課題も少なくない。そこで、日本大学理工学部海洋建築工学科の居駒知樹教授と菅原遼助教にリモート取材した。(参考=菅原助教の模擬授業「海洋建築ビジョン2050」)。

写真海洋建築ビジョン2050イメージ
(提供)菅原 遼氏

 この国内唯一の海洋建築専門の学科では、都市水辺の建築計画からウオーターフロントの都市計画、沿岸域の国土計画までを総合的に研究する。世界的にも数少ないユニークな学科。1978年創設後、卒業生は学部・大学院合わせて約7100人に上り、海洋マインドにあふれた建築家や技術者、エンジニアを輩出している。

 まずは、水上都市の寿命や安全性だ。長期間安全に住めないなら、水上都市に住みたいと思う人はいないだろう。水上都市の土地寿命や安全性に関して、居駒教授は「技術的にはほとんど問題はない」という。実際、2000年に横須賀市(神奈川県)に建造された「水上滑走路」の設計上の耐用年数は100年以上という。波風への耐性調査や航空機の着陸実験を繰り返した後、今は水上公園などとして活用されている。

 水上都市のコストはどうだろうか。居駒教授は「安くはないが、沖合い埋め立てなどと比べても価格競争力はある」という。ただし、日本には懸念もある。国内造船業界で苦境が続き、水上建造が減少。技術の伝承も難しくなり、小型の施設でも製造コストが上がってきている」というのだ。

 また、菅原助教は水上都市の「核」がないことが課題だという。つまり、再エネ生産、海洋資源採掘、魚の大量養殖などの核となる施設が造られると、そこで雇用が生まれ、住む人が増え、需要が創られる。この好循環を生み出す「起爆剤」が見つからないのが日本の実情なのだ。

 さらに、居駒教授は「意外と教育の問題が大きい」と指摘する。「オランダやデンマークでは水を身近なものとして子どもが育つため、水上住宅にも抵抗が小さい。しかし、日本では水を『怖いもの』として教えることが多く、水上生活に必要以上の恐怖を感じてしまう人が多い」という問題を挙げる。水上住宅の法的な位置づけも課題だ。例えば、水上レストランを造ろうとすると、通常のレストランと異なり不動産ではないため、それを担保とした融資が受けられないという。

写真水上レストラン(東京・天王洲アイル)
(提供)菅原 遼氏

夢の実現を恐れない余裕を

 かつて沖縄海洋博が人々に夢と希望を与えた、水上都市「アクアポリス」。それが実現に向けて動き始めている。技術水準は既に、「水上生活してみたい人」が1歩目を踏み出すことに十分対応可能なレベルだ。一方で、水上都市に限らず、最近の日本はこの1歩を自分から踏み出してみる余裕を失いつつあるようにも見える。

 そう考えていると、学生時代に読んだ本を思い出した。オーストリアの精神科医ヴィクトール・フランクルが、ナチス強制収容所での体験を著した「夜と霧」である。彼は、夢や希望は贅沢ではなく、それ自体が人間を支える力だと主張していた。将来、「あの時、やっておけばよかった...」という後悔は先に立たない。市民が気力を失わず、夢の起爆剤を生み出す余裕を持った社会を維持していきたい。

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