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3Dプリンター初挑戦!

「聖地」渋谷でオブジェを造ってみると…

2013年10月01日

最先端技術

研究員
野嶋 英之

 プラスチックや樹脂、金属粉などの素材を使い、ものすごく薄い層を数え切れないほど重ねながら、立体物を造り上げる。それが、3Dプリンターだ。「21世紀の産業革命」と喧伝され、新聞やテレビで連日のように報じられている。

 当初は数千万円もした本体価格は急速に値下がりし、今では最も安い家庭用3Dプリンターなら数万円で手に入る。近い将来、テレビやパソコンのように、自宅やオフィスの必需品になるかもしれない。

 しかし、なぜ立体物が「印刷」できるのか。直感的に理解できない人も少なくないはず。筆者もその一人である。百聞は一見に如かず。そこで、3Dプリンターを貸してくれるカフェを訪ね、夢のモノづくりを体験してみた。

3Dプリンター「聖地」は東京・渋谷

 東京・渋谷には、3Dプリンターのショールームや造形サービスを提供する企業が集積している。渋谷駅から道玄坂を登り、10分で市民工房の一つである「FabCafe 渋谷」に着いた。


 3Dプリンターの利用料金は、基本は造形時間45分で4000円(デザイン時間=約15分=が必要なため、予約時間枠は1時間単位)。10分オーバーする毎に、700円課金されるシステムである。混んでいなければ飛び込みでもOKだが、事前にカフェのホームページ(http://tokyo.fabcafe.com/)からの予約をお勧めする。3Dプリンターを使わず、カフェだけの利用も可能。コーヒーを飲みながら、展示作品を眺めていると、創作意欲が湧いてくるから不思議だ。

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意外なほど簡単!iPadを使ってデザイン

 今回使用した3Dプリンターは、米3Dシステムズ社のCube(2nd Generation)。日本でも家電量販店で販売されており、価格は16万8000円。層の厚さが0.2mm、最大造形サイズが140×140×140mmという入門モデルである。造形材料として用意されているのは、PLA(ポリ乳酸)だけ。色は最大16種類あり、今回は緑色を使った。

3Dシステムズ社の3Dプリンター「Cube」

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 デザイン用ソフトは、今回利用した「Cubify Draw」と「123D Creature」の2種類あり、いずれもiPadで簡単に操作できる。高度なスキルは全く必要ない。初めて3Dプリンターに触れる人でも、意外なほど簡単にデザインできてしまう。こうしたソフトは、3Dシステムズのホームページ(http://cubify.com/cube/index.aspx?tb_cube_learn)から無料でダウンロード可能。カフェに来る前に自宅でデザインを済ませておくこともできる。


ところで、何を造ったらいいんだろう?

 「何を造ったらいいんでしょうか?」―。これは、カフェの店員が利用者から尋ねられて最も困ってしまう質問だという。実は筆者自身、なかなかアイデアが浮かばず、相当苦しんだ。刻々と予約時間が迫り、ようやく頭に浮かんできたのが「星型のオブジェ」である。30数年生きてきて、自分の創造力はこんなものかと思うと情けない。3Dプリンターを操作する前に、普段から「美的センス」を磨いておくよう、是非ともお勧めしたい。

 デザインから造形までは、以下の3ステップで進行していく。

ステップ1 Draw

 デザイン用ソフトを使いながら、自分の造りたいモノを描く。タッチペンを使うし、Cubeが入門モデルだから、複雑なデザインは難しい。それでも、初めて3Dプリンターを利用する人なら、モノづくりの醍醐味を満喫できる。

ステップ2 Make it 3D

 ステップ1で描いたデザインを「3D化」する。そのためには、Cubeが認識できるよう、3D化したデータを「Cubeファイル」に変換する必要がある。このファイル変換も含めて、造形時間は計算される。その上で、予約時間内に作業が終了するよう、造形物の大きさが決められる。

ステップ3 Print it

 半透明の造形台の表面に糊を塗り、造形台を3Dプリンターの昇降部に設置する。いよいよ3Dプリンターによる造形が始まる。まず、造形物が倒れないようにするため、糊の上に保持部が形成される(この保持部は、3Dプリンター側で自動的に形成してくれるので、デザイン用ソフトで作成する必要はない)。保持部が形成されると、その上に造形物がゆっくりだが、徐々にでき上がっていく。

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 3Dプリンターによる積層の終了を確認した上で、造形台を取り出す。糊と保持部を引き剥がすと、いよいよ造形物が完成する。

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「ガンダム」に欠けていた何かが...

 少年時代、毎月の小遣いを貯めては、「機動戦士ガンダム」のプラモデルを作っていた。各パーツを一つひとつ丹念に組み立て、ちょっとずつ形ができ上がっていくワクワク感がたまらなかった。

 でも、完成したプラモデルは、「ただ突っ立っているだけのフィギュア」。一方、アニメに出てくるのは、戦闘シーンで躍動感あふれるロボット。この二つは、相当に懸け離れていた。だから、「物足りなさ」を感じて、ちょっと悲しくなる。「自分のイメージ通りのロボットを造ってみたい」と何度思ったことだろうか。

 あれから25年。少年時代の夢がかなう時代がやって来た。3Dプリンターが魔法の杖となり、自分だけの「かっこいいロボット」も手に入るだろう。ただし、もっと勉強しなくては。今はまだ4000円を投じて、不完全な「星型のオブジェ」しか造れないのだから...  

野嶋 英之

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※この記事は、2013年10月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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