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マスク氏が主導、打ち上げ1000基突破

=「小型人工衛星シンポ」をオンライン取材=

2021年03月02日

最先端技術

研究員
新西 誠人

 新型コロナウイルスの感染拡大は、人と人の対面を難しくした。今や、多くのコミュニケーションや共同作業がオンラインで行われる。この時、必要不可欠なのは言うまでもなく、インターネットへの接続である。

 実は専門家によると、海上を含む地球上の90%の地域で十分な接続ができないという。だが近い将来、地球上のどこでもネット接続できる日が到来する可能性が高まってきた。人工衛星を活用したネット接続サービスの実用化が始まったからだ。

 そこで筆者は、2021年2月8~11日にオンラインで開催された「スモールサット(小型人工衛星)シンポジウム」を取材した。このシンポジウムは2016年に始まり、今年で6回目。技術よりもビジネスを前面に打ち出した、世界最大の小型人工衛星シンポジウムとして知られる。

 打ち上げコストの低価格化や、人工衛星を利用した携帯電話通信の規格標準化を背景に、宇宙経由のネット接続ビジネスが活気を帯びる。衛星通信向けソフトウエアなどを手懸ける、ゲートハウス・サットコム社(デンマーク)のピア・コッホ事業開発マネジャーは今回のセッションで、「人工衛星を使った5G市場は(現在はゼロだが、)2030年までに330億ドル(約3.5兆円)に拡大する」という大胆な予測を示した。

写真シンポジウムのセッションを紹介するツイッター
(出所)@SatNewsMedia

 今、人工衛星を使ったネット接続で最も注目されるのが、世界1位2位を争う富豪となったイーロン・マスク氏。彼が率いるスペースXは宇宙ロケット打ち上げのほか、人工衛星を活用したネット接続サービス「スターリンク」も運営する。

 国際通信市場におけるコンサルタント会社・米ノーザンスカイリサーチのシニアアナリストであるカルロス・プラシド氏は今回のセッションで、スターリンクが2020年に773基の小型人工衛星を打ち上げ、その累計は1000基を超えると報告した。

 スペースXのホームページや各種報道によると、スターリンクは北米の一部地域を対象に正式サービス前の「β(ベータ)版テスト」を実施中。1万人を超える試用者が、50~150Mbpsの高速通信を享受しているという。

 コロナ禍の深刻な地域に照準を合わせたβ版テストも予定される。米テキサス州エクター郡の独立学区によると、スターリンクはパンデミックによる学校閉鎖に追い込まれた同郡において、ネット環境が十分でない家庭の在宅教育を無償で支援する。

写真米テキサス州エクター郡の独立学区のツイッター
(出所)@EctorCountyISD

 米連邦通信委員会(FCC)によると、FCCは「地方デジタル振興基金」を介し、スペースXに8億8600万ドル(約930億円)の補助金助成を2020年12月に決定。同社は35州に対し、人工衛星を使ってブロードバンドと音声サービスの提供を進める予定だ。

 スターリンクのホームページや各種報道によると、正式サービスの対象国は米国にとどまらず、地球上のほとんどの地域をカバーする計画という。既に、米国のほか、カナダや英国、オーストラリア、メキシコなどでサービス申し込みの受け付けが始まっている。2019年12月にスペースXが総務省に提出した文書には、日本でもサービスを提供したい意向が盛り込まれている。

 ただし、スターリンクのサービスを利用するには、屋根に専用パラボラアンテナを設置する必要がある。スマホからは利用できないのだろうか。今回のセッションに参加すると、いずれスマホでも可能になると確信した。

 人工衛星通信を手懸ける米リンクグローバル社の共同創業者であるマルゴ・デッカード氏は、同社が2020年2月に地球低軌道(地上500㎞上空)の人工衛星から、市販スマホへのテキストメッセージ送信に世界で初めて成功したと報告した。これが普及すれば、人と人のコミュニケーション以外にも、IoT機器同士の通信による物流の位置情報提供やデジタル農業のセンサー活用など、用途は大幅に広がる。

 次回のスモールサットシンポジウムは、2022年2月7~10日に米カリフォルニア州マウンテンビュー市にあるコンピューター歴史博物館で開催予定。コロナ禍が拡大する中、小型人工衛星によるネット接続サービスの重要性が一段と増しているはずだ。

新西 誠人

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