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一人三役をこなす「データサイエンティスト」の育て方

=国内初のデータサイエンス学部を創設した滋賀大学で教鞭をとる河本薫教授=

2019年10月31日

最先端技術

研究員
米村 大介

 良くも悪くもGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)が世界経済を席捲している。こうした中、産業界では業種の垣根を越えて、デジタル技術を活用しながら新たな価値を生み出す「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)がブームになりつつある。

 その一方で、産業界からは、この変革を担える人材が不足しているという悩みが聞こえてくる。中でもビジネスの現場でデータをいかに活用してもらうかを考える「データサイエンティスト」は引っ張りだこだ。このデータサイエンティストの育て方について、2017年に国内の大学では初めて滋賀大学に創設されたデータサイエンス学部で教鞭をとる河本薫教授にインタビューを行った。

 河本教授は大阪ガスでの分析業務の経験も長く、アカデミズムとビジネス現場の両方を熟知している。

20191030_01.JPG滋賀大学から望む琵琶湖

 ―データ分析の研究は昔から理工学系の研究室でもやっていました。それとデータサイエンスの研究室は何が違うのですか。

 わたしが考えるデータ分析とデータサイエンスの違いは、分析結果を現実に役立てる行動と強く結び付いているかどうかです。わたしは講演会で「役立つと分かるは全く違う」と強調するようにしています。学問の世界では何か新しく分かることが重要とされます。しかしビジネスでは、世界で初めてのことが分かっても意味はありません。世界で10番目でも100番目でもいい、そんなことより分かったことが売上アップやコストダウンに役立つことが大切なのです。

 ―これまでの大学教育にはそうした発想が不足していたということですか。

 ビジネスの現場を知らない人は「データ分析をどう活かすかは会社に入ってから学べばよい」と言いがちです。しかし、わたしはビジネスの現場で、それを知らない学生が会社に入って苦労するのをこの目で見てきました。

 実際、データ分析をしっかり勉強してプログラムも書ける学生が、企業に入ってもビジネスに強い関心を持たないことがよくあります。「分かる」ことが重要だという価値観に染まってしまうと、「役立つ」ことが重要だという価値観に変われなくなるのです。解決すべき課題を発見する方法や、分析結果を実際に役立てる方法を教える必要があると思います。

 ―企業が求めるデータサイエンスティストはどのような人ですか。

 「データサイエンティスト」は幅広い意味で使われています。一般には、自動運転車に使う画像認識技術の研究者や、製薬会社の治験データの解析者、保険会社のアクチュアリー(数理士)などをイメージするかもしれません。

 しかし実際に企業で需要が多いのは、ビジネス上の課題を「見つけ」「解き」、その成果を「使わせる」タイプだと思います。データを活用して社内のビジネスを改善する仕事で、わたしは「ビジネス支援型」と呼んでいます。

 わたしの前職での仕事も、その多くは既存のビジネスモデルをデータで分析し、無駄を減らすことでした。1兆円のビジネスなら0.01%改善するだけで1億円の成果ですよね。データを使うとそういう「稼ぎ方」ができるのです。

 ―課題を「見つける」こともデータサイエンティストの仕事なのですね。

 その通りです。企業では、「データ分析の精度をあと2%改善したい」といった課題はほとんどありません。実際の現場では、「これがうまくできない」「こんなことがしたい」といった悩みや願望がスタートになります。

 ただ、そうした現場の思いは初めから明確な言葉になっているとは限りません。多くは「暗黙知」なのです。ですから、データサイエンティストはそれを担当者から聴き出すことから始めなければなりません。そこから、「こういうデータがあればこういうことができる」という発想が出てくるのです。その点は、医療とよく似ています。医者も最初に患者がどんな悩みを抱えているか、問診で正確に聴き出さなくてはいけませんよね。それから必要な検査を行うのです。

 データサイエンティストにも「見つける」力が必要です。わたしが「現場の課題を見つける、解く、使わせるという三つのことが大事だ」だと言うと、皆さん同意してくれます。しかし、「三つの役割は分担すればいいですよね」と言われてしまいがちです。

 それでは、「病気を見つける医者」「出す薬を考える医者」「薬を飲ませる医者」を分けるようなもので、それは恐ろしく非効率でしょう。仕事の責任をだれが持つのかも、はっきりしなくなってしまいます。現実には「一人三役」をこなせる人材が必要なのです。

 ―滋賀大学ではデータサイエンティストをどうやって育てていますか。

 わたしは、滋賀大学データサイエンス学部をデータサイエンスという学問を教えるだけでなく、データサイエンティストという職業を訓練する場にしたいと思っています。先ほどデータサイエンティストは医者と非常に似ていると言いましたが、医学部も医学という学問を教えるのに加えて、医者という職業を訓練していますよね。そのために、学部の後半は大学付属病院で実際の患者を相手に臨床実習をします。 データサイエンスも同じで、大学にいながらビジネスの現場と同じシチュエーションで実習をするべきと思います。

 そのためには、企業が直面しているリアルな課題とデータ、それから企業や業界について具体的な知識を与えられる人材が必要です。数学やプログラミングの教科書に書かれている技術を教えるだけでは通用しません。

 わたしが担当する授業では、基礎知識を教えた上で学生に企業のデータを分析させ、結果やそれに基づく提案をプレゼンテーションさせます。その際、企業の現場にいる人から、「それでは役に立たない」というフィードバックをしてもらうことが、とても重要だと考えています。そうした反応に直面することで、学生がビジネスで役に立つとはどういうことかが理解できるからです。

 ―現実にはデータサイエンティストがいても活用できない日本企業も少なくないのでは。

 それも大きな課題ですね。日本の経営者は「デジタル・トランスフォーメーション」を、経営課題ではなく技術課題だと考えている節があります。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)について、技術部門に担当セクションを作って丸投げするのも、技術課題だと勘違いしているからでしょう。しかし、AIやIoTは会社のビジネスモデルを根本から変えてしまう可能性を秘めています。デジタル・トランスフォーメーションにはデータサイエンティストだけでなく強いリーダーシップを伴った経営力が必要です。




20191030_02.JPG

河本 薫氏(かわもと・かおる)
 滋賀大学データサイエンス学部教授、滋賀大学データサイエンス教育研究センター副センター長。
 京都大学工学部数理工学科卒業。京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修士課程修了。大阪大学工学系研究科エネルギー環境工学博士課程修了。神戸大学経済学研究科博士課程修了。博士(工学、経済学)。
 1991年大阪ガス入社、1998年7月米国ローレンスバークレー国立研究所客員研究員、2000年6月大阪ガス復社、2011年同社ビジネスアナリシスセンター所長、2018年4月から現職。

(写真)筆者 RICOH GR

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