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バックギャモンから生まれた「リコー将棋AI棋譜記録システム」

=棋界・記録係の人手不足解消に貢献=

2019年10月30日

最先端技術

研究員
西脇 祐介

 「例の件ですが、改めてご検討いただけませんか」―。リコー・プラットフォーム事業本部RSI開発センターでソフトウェア開発に取り組む木曽野正篤(きその・まさひろ)スペシャリストに一通のメールが届いたのは2018年夏に差し掛かる時期のことだ。送り主は将棋界の重鎮で18世名人の資格を有する森内俊之九段。当時は日本将棋連盟の専務理事という要職にあった。これが後に開発する「リコー将棋AI棋譜記録システム」のプロジェクトの発端だった。

 木曽野氏はその1年ほど前の出来事を思い出した。愛してやまない趣味のボードゲーム「バックギャモン」の対戦内容を自動記録するシステムを自作し、仲間に披露したことがあったからだ。盤面を撮影した動画からAI(人工知能)を活用して、サイコロの目や駒の移動を記録する仕組みだ。高い評価を仲間内から得る中、「将棋でも利用できないかな」と予想外の提案を受けた。

 それが森内九段だった。バックギャモンの愛好家としてその場にいたのだ。当時、将棋のルールをあまりよく知らなかった木曽野氏は「そうですね」と相槌を打つにとどまり、それ以上は話が進むことはなかった。

 それから1年が経ち、冒頭のメールが来たのだ。「将棋界の偉い人から改めて依頼が来たのはなぜなのか」―。そんな疑問を持ちながら、少し緊張した面持ちで森内九段の元に向かった木曽野氏。そこで、将棋界が直面する大きな問題を聞かされる。対局の駒の動きを記す棋譜の記録係が人手不足に悩んでいるというのだ。

 記録係は対局の前に将棋盤をセットして磨き、対局中は1手1手記録し続けるなど気が抜けない仕事だ。朝10時から始まり、長引けば深夜12時までかかることもある。主にプロ棋士を目指す奨励会員が記録を付けているが、将棋ブームを背景に公式戦は年間3000局に上り、人手が足らないのだという。特に9割以上の対局が行われる東京将棋会館と関西将棋会館では、大会予選で多い時には、1日に20局を超える対局があることもあり、問題が深刻になりつつあった。

 「将棋の文化や伝統を継続することに貢献できるかもしれない」と思った木曽野氏は、森内九段の要望に応えようと覚悟を決めた。木曽野氏には勝算があった。技術的にはバックギャモンの記録システムの開発を通じてノウハウを蓄積しており、将棋にも応用可能と判断したからだ。

 開発にあたっては通常はプロジェクトを社内で立案して、参加するメンバーや役割の調整、スケジュールを作るという段取りを組むことが多い。しかし、今回はこうした手順を踏まず、木曽野氏が職場の若手技術者の力を借りつつ、開発に着手した。「とにかく早く作り、実現できることを証明したい」と考えたのだ。

 しかし、いざ開発を進めていくと課題が浮き彫りになる。将棋のルールに詳しくないため、駒がルール外の動きをした時にシステムから警告メッセージを出すような仕組みを実装することができなかったのだ。プロ棋士たちがルールを逸脱して駒を動かすことはまず考えられないが、自動化する以上はあらゆる想定を組み込んでおかねばならない。

 そこで、木曽野氏は、社内から応援を探すことにした。リコーは将棋部が強く、公式戦のリコー女流王座戦を主催するなど、将棋人材に恵まれている。白羽の矢を立てたのは、リコー将棋部に所属している馬上勇人(もうえ・はやと)スペシャリスト。大学時代には学生大会の団体戦で優勝し、リコー入社後も職域団体対抗の将棋大会で全国優勝するなど腕前は申し分なし。馬上氏は打診された時、「棋士の命とも言える棋譜の記録を残すことに貢献できるなら、絶対にやり遂げたいと思った」―

 リコーには社内副業制度があり、業務時間の最大2割を他の部署に使うことができる。馬上氏はこの制度を利用して木曽野氏のプロジェクトに参加。日本将棋連盟との連携もスムーズにいくようになり開発のスピードが一段と上がった。馬上氏は「元々リコーには部署を越えて協力し合う文化はあると思う。それでも副業制度を利用することで堂々とプロジェクトに参加できた」と制度のメリットを強調する。

 こうして木曽野氏と馬上氏が二人三脚で開発を進めた結果、対局室の天井に取り付けたカメラから自動的に指し手の情報を記録できる「リコー将棋AI棋譜記録システム」のプロトタイプが出来上がった。AIを活用して将棋盤の位置と駒の動きを認識し、パソコン上に棋譜を表示するものだ。上司からは「もっと精度を上げて実用化してもらえるように仕上げよう」と発破がかかり 、2019年7月には実証実験を始めた。

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AIで将棋盤と駒の位置を認識
(提供)リコー・プラットフォーム事業本部

 実証実験では、AIの精度を上げるため、学習させる情報量を増やそうと努めた。将棋盤の位置は毎回変わるほか、対局室の障子が空いているだけでも光線の加減で画像は変わる。駒を認識させるために利用した画像は既に3万枚を超えたという。実証実験前の時点で駒の認識は99.9%以上の正確さを記録していたが、さらなる上積みを目指している。2020年4月以降に大会の予選では対局に棋譜係を置かずに「完全自動化」を実現したいという。

 今後について、「日々プレッシャーを感じているが、それを励みに引き続き取り組んでいきたい」と2人は口を揃える。先日は社会課題解決の観点から公益財団法人日本デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞を受賞し、実用化に期待が一段と高まる。

 このシステムでは、2人の卓越した行動力と社内副業という制度が融合し、新たな事業の目が生まれた。組織に眠る潜在能力をうまく引き出していけば、デジタル・トランスフォーメーション(DX)時代に通用するビジネスの可能性は無限にあると感じた。

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木曽野正篤氏(左)と馬上勇人氏(右)
(写真)筆者 RICOH GRⅢ

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