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1秒間に5億超の液滴を噴射

=インクジェット技術を製薬に応用=

2017年06月26日

最先端技術

研究員
伊勢 剛

 リコーの主力商品は複合機(MFP)やプリンターである。その研究開発で培われてきた基礎技術を応用しながら、オフィス向け事業から新たな分野への展開を進めている。今回はその一例としてヘルスケア分野への取り組みを紹介する。

 インクなどを紙に吹き付けるために使われるインクジェットヘッドは、MFPやプリンターの基幹部品である。それは大きく分けると、①サーマル方式=インクに熱を加えて発生した泡を利用し、インクをノズルから押し出す②ピエゾ方式=圧電素子(電圧を加えることで変形する素子)の一種であるピエゾ素子を使い、インクを押し出す―という二つの方式がある。

ピエゾ方式イメージ図

20170626_01.jpg(出所)リコーHP

 このうちピエゾ方式を活用する独自のテクノロジーによって、リコーはヘルスケアの中でも製薬分野に貢献しようと研究開発を進めてきた。その技術がFDD(Fine Droplet Drying)である。最大の特徴は、ミクロンサイズの微細な粒子を均一に生成できること。インクジェットヘッドから、非常に細かな液滴を高頻度で噴射した後、超高速で乾燥させるのである。

 製薬分野へのFDDの応用は様々な検討が進められている。一例として、呼吸器疾患向けの吸入製剤への応用を紹介する。製剤で必要な微細な粒子を作る技術としては、これまでスプレードライが使われてきた。しかし、この方式では細かい粒子は出来ても、均一な大きさの粒子を作れない。そこでリコーはFDDで突破口を開き、世界で初めて均一かつ微細な粒子を製剤に応用する技術を確立したのである。

 製剤の粒子を均一にできれば、患者が吸入した薬を気管や肺、肺胞といった呼吸器の中の特定の場所に確実に届けられる。逆に粒子の大きさがバラバラならば、必要無いところにも薬が留まってしまう。そうなると十分な薬効が期待できないばかりか、副作用の可能性も高まってしまう。

FDD技術による粒子写真

20170626_02.jpg(出所)リコー研究開発本部 APT研究所



粒度分布の比較

20170626_03.jpg(出所)リコー研究開発本部 APT研究所

 だが、リコーはインクジェットに関して世界最高水準の技術を誇るものの、製薬については知見が十分ではない。そこで静岡県立大学薬学部薬物動態学分野の尾上誠良教授と共同で研究開発を進めている。産学の垣根を越える、異分野コラボレーションである。

 この共同研究は公益財団法人・静岡県産業振興財団ファルマバレーセンターのコーディネートにより開始され、静岡県長泉町のファルマバレーラボを研究拠点として実施している。静岡県では医療健康産業の推進を目的としたファルマバレープロジェクトに取り組んでおり、県東部地域に産学官金で構成されたクラスター形成を推進している。

ファルマバレーセンター全景

20170626_04.jpg(提供)ファルマバレーセンター

 「異分野コラボレーションには課題もある」と指摘するのは、この共同研究を担うリコー研究開発本部APT研究所NT開発室の森谷樹スペシャリストだ。「最初は薬学の基本的な言葉さえ理解できませんでした。例えば、『あどめ』と言われても何のことかサッパリ...」―。これについて、静岡県立大学側のパートナーである佐藤秀行助教は「『あどめ』とは吸収、分布、代謝、排泄の英語の頭文字をとったADMEのことです。薬学の世界では生体内運命としてよく使われている言葉ですが...」と笑みを浮かべる。

 佐藤助教は異分野コラボレーションの長所を次のように語る。「もし薬学の世界にいるだけならば、FDD技術にめぐり合い、それによって均一な微細粒子ができるという事実を知らなかったはずです。製薬に新たな世界が広がったのです」―

 今後の展開について、佐藤助教は「製薬業界は抗体医薬品をはじめとするバイオ医薬品の研究開発が中心になり、将来は大きな市場になる可能性があります。そのカギを握る技術の一つが粒子の均一性。均一であれば薬の吸収性が安定し、溶解性も一定となるからです」と解説する。また、バイオ医薬品は高価になるだけに、「高品質かつ高収率が求められ、その点でも均一性が重要になります」と語る。

FDD装置と佐藤秀行助教(左)森谷樹スペシャリスト(右)

20170626_05.jpg(写真)筆者

 今年5月の日本薬剤学会第32年会において、尾上研究室の学生がFDDを活用した製剤化について発表したところ、見事に最優秀発表賞を受賞した。今、製薬の産学から熱い視線を送られている。

 一方、リコーはFDDを製剤へ応用するに当たり、産業用のインクジェットヘッドの大幅改良に取り組んだ。産業用ヘッドよりノズル径を1/3小さくする一方で、ノズルの数を384から1536へ4倍も増やした。そうすることで1秒間に5.2億個もの液滴を噴射することが可能になった。この液滴に温風を当てて乾燥させると、ミクロンサイズの微細で均一な粒子ができる。

FDD装置イメージ図

20170626_06.jpg(出所)リコー研究開発本部 APT研究所

 今後の課題としては、高粘度の溶液に対する対応が指摘される。佐藤助教は「バイオ医薬品向けは高粘度の溶液の場合が多いため、それに対応できれば更に応用範囲が拡がる可能性がある」と期待を膨らませる。リコーにとって製薬は全くの異分野だが、畑違いの静岡県立大薬学部とのコラボレーションによってイノベーション(技術革新)を目指す。「人の行く裏に道あり花の山」というベンチャー精神こそが、リコーの原点だからだ。

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