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ブロックチェーンが導く決済革命

= 管理者不要の自律処理ネットワーク =

2016年10月01日

最先端技術

研究員
可児 竜太

 「ビットコインでお願いします」―。都内の飲食店で会計を頼んだ。店員は手慣れた様子でレジカウンターに置かれたタブレット端末を操作する。彼は代金の入力を終えると、「ビットコイン建て」の金額と二次元コードが表示された端末を差しだす。それを筆者がスマートフォンのカメラで読み込み、「送金」をタップ。ほどなくして認証コードがSMS(ショート・メッセージ・サービス)でスマホに送信されてきたので、それをアプリに入力した。以上で支払いは完了だ。

 2009年に運用が開始された暗号通貨(仮想通貨)「ビットコイン」。2014年には、大手交換所「マウント・ゴックス」(東京)で不正が行われたとされ、480億円相当のコインが失われるという事件があった。しかし、こうしたトラブルも実はビットコインのシステムの「外」で起きたことだ。実は、ビットコイン同士の取引はこれまで一度も停止することなく、安定的に運用されてきた。

 今では着実に利用が拡大しており、日本でもレストランなどの実店舗やeコマースで、既に1000店舗以上がビットコイン決済を導入しているという。最近では、会員数1900万人を誇る大手コンテンツ販売サイトDMM.comも支払いにビットコインを受け入れ始めた。

 ビットコインの利用が拡大するとともに、このシステムを支える中核技術「ブロックチェーン」もにわかに脚光を浴びている。最近では、日本のメガバンクもブロックチェーンを用いて独自の暗号通貨の発行を目指すと報じられた。さらに、土地登記や公証、通関処理、投票、クラウドファンディングなど様々な分野で応用が模索されている。

 ビットコインは、2008年に「サトシ・ナカモト」と名乗る正体不明の人物が発表した論文に端を発する。「暗号技術に依拠した、中央サーバーも信頼できる管理者も要らない、完全に分散化された電子キャッシュシステム」―。サトシ・ナカモトはビットコインをこう評した。そして、彼は自身の論文を基に、ビットコインの運用を始める。

 当初、サトシ・ナカモトはネット上のフォーラムで募った他の開発者とともにビットコインのソフトウエアに関与していた。しかし、徐々に権限を他のメンバーに委譲し、2011年にはネット上から姿を消してしまう。このため、ビットコインの名声が高まるとともに、メディアを中心に正体探しが始まる。幾人もがサトシ・ナカモトではないかと推測されることとなった。さらには、サトシ・ナカモトを自称する人物までも出現する。しかし、これまでそのだれもが真の発明者であると証明されていない。


管理者不要の「ブロックチェーン」

 サトシ・ナカモトの目論見通り、管理者が不在でもビットコインの取引は順調に拡大した。それを支えているのが、論文の中で考案されたネットワーク技術「ブロックチェーン」である。

 ブロックチェーンは、取引を記録した「台帳」と考えたら分かりやすい。すなわち、ビットコイン・ネットワークの中で行われた「AさんからBさんへ1ビットコイン(BTC)の支払い」といったような個々の取引(決済)が記録される。こうした取引が、およそ10分間に一回まとめて台帳に追記される。これが一つのブロックとなる。



201610_暗号通貨_1.jpg(出所) "Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System"を基に筆者作成



 約10分間に一つ形成されるブロックは、過去から現在まで一繋がりになっている。この様子があたかも鎖(チェーン)のようであることから、この技術はブロックチェーンと呼ばれる。

 この技術の最大の特徴は、前述したように「管理者不要」ということだ。類似の決済手段であるICチップ型の電子マネーでは、そのチャージや支払い時に、ユーザーと運営事業者が通信し、ICチップに記録された残高を増減させる。このため、ユーザーにとって運営事業者は「完全に信頼できる管理者」でなければならない。運営事業者がサイバー攻撃に脆弱であったり、事業者自身が不正を行なったりすれば、ユーザーは保有する電子マネーを失ってしまうリスクがあるからだ。

 一方、ブロックチェーンではこうした「信頼できる管理者」を必要としていない。それでは一体、どのようにしてユーザー間の取引が記録されるのか。そこで登場するのが、マイナー(採掘者)と呼ばれるネットワークの参加者である。

 マイナーは、ブロックに取引を記録する役割を担う。さらにその記録を他のマイナーと相互に確認しあう。このため、悪意のあるマイナーが偽の取引記録をブロックに書き込んでも、他のマイナーから否認されてしまうのだ。逆に一度ネットワーク内で承認されたブロックは、後から改変することはできない。

 具体的には、①ビットコインを送金するユーザーが、ネットワーク全体に送金相手と金額を宣言する(これを「ブロードキャスト」と呼ぶ)②選ばれたマイナーが台帳に記録(ブロックを作成)する③その他のマイナーがその記録内容を確認する-というプロセスになる。

201610_暗号通貨_2.jpg(出所) "Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System"を基に筆者作成



 ブロックを作成すると、マイナーにはビットコインで報奨金が与えられる。また、マイナーになるためには何ら資格を要求されず、だれでも参加できる。このため、マイナー間には常に競争原理が働く。つまり、マイナーはそれぞれが自らの経済的利益を目的としながらも、同時にビットコイン・システムの適正な維持のために協力する仕組みになっているのだ。

 中央サーバーや管理者を置かないため、ブロックチェーンは構築・運営コストを非常に安く抑えられる。このため、従来の決済システムと比較すると、ビットコインでは極めて安く送金ができる。日本から海外へ送金する場合、銀行を経由すると一般的に、送金・受取の双方で合わせて最低でも1万円近くの手数料がかかる。だがビットコインの場合、法定通貨との交換を考えなければ、送金コストはほぼゼロになる。


「資源の最適配分」を実現

 さらに、このブロックチェーンの仕組みは、送金だけでなく、様々な事務処理にも応用することができそうだ。すなわち、ブロックに「コインの移転」ではなく、「資産の移転」という情報を記録するのである。また、時系列にチェーンが形成される特性を活かし、時間の証明(タイムスタンプ)を必要とする処理にも有効だろう。例えば、土地登記や知的財産権の登録・移転、公証、通関処理などである。

 しかも、ブロックチェーンの応用はそれだけに留まらないという。ここで、ブロックチェーンがもたらす新たなビジネスの萌芽について、情報経済論を専門とする国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の高木聡一郎研究部長に取材した。

 高木氏は、「ブロックチェーンの本質は『資源の最適配分』を実現する点にある」という。人と人が経済的な取引を行う際、そこには必ず間接的な費用が存在する。例えば、より安くて良い物を探すために必要な労力や時間だったり、仲介取引業者に支払う費用だったりする。この「取引費用」と呼ばれるものが、ブロックチェーンの導入により、著しく引き下げられるというのだ。その結果、高木氏は「『必要な物を、必要な人に、必要なだけ』届けることが、ほとんどコストゼロで可能になるだろう」と予測している。

P13.木部長_500.jpg国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の高木聡一郎研究部長

 したがって、これまでは考えられなかったような超小口の取引も、採算が取れるようになる可能性がある。例えば、外出先のWi-Fiスポットで、事前契約なしにその場で1分間だけ利用し、「使った分」だけ暗号通貨で支払うというビジネスはどうか。同様に、電源の差込口にデバイスを取り付けることで、公共施設やビルの電源を「電気スポット」にするといった構想もある。暗号通貨で対価を払えば、自由に電気を使うことができるというわけだ。

 また、電子書籍などのコンテンツでも、「読み終わったら即座に必要な人に転売できるという『転々流通』の仕組みを作ることができるだろう。もしまた読みたくなったら、不要としている人から買い戻せばよい」と高木氏は語る。

 大胆に予測すると、このような「ブロックチェーンによる資源の最適配分」は、IoT(モノのインターネット)に応用することでその真価を発揮するのではないか。例えば、洗濯機などの家電が電力会社と通信し、地域の電力需給に応じて一時的に運転を停止する仕組みも考えられる。洗濯機の所有者が、停止した分の報奨として暗号通貨をもらうという仕組みになる。


実は、古くて新しい暗号通貨の概念

 東京・日比谷公園には、南太平洋ヤップ島(現ミクロネシア連邦)で使われていた石のお金「石貨」が展示されている。横1.35m、縦1mという、一抱え以上ある大きなものだ。1925年、日本の委任統治領下にあったヤップ島の支庁長から寄贈されたとある。

P13.ヤップ島の石貨_500.jpg東京・日比谷公園の「ヤップ島の石貨」


 この巨大な石貨を一体、どうやって持ち運び、物と交換していたのだろうか。アメリカの人類学者ウィリアム・ヘンリー・ファーネス三世によると、島内の至る所に置かれた石貨について、その所有者がだれであるかを島民全員が知っていた。このため、取引が行われても、石貨の物理的な場所は移動することなく、それに紐づけられた所有権だけが移転したという。 

 この一見奇妙に思える取引形態であるが、しばしば暗号通貨との共通点を指摘される。すなわち、「石貨は動かすことができない。しかし、それがだれのものであるかを島民全員が知っているため、貨幣として有効である」―。これが、「物理的な貨幣は存在しないものの、支払人が取引を宣言することにより、ネットワークの全参加者が取引記録を知る。このため、貨幣として機能する」というブロックチェーンの特徴によく似ているというわけだ。

 このように、謎の人物から始まったビットコインは決済やその応用に留まらず、貨幣そのものの本質をめぐる議論も提起するなど、多様な角度から脚光を浴びる社会現象となっている。

 もちろん、ブロックチェーンには課題も指摘される。しかし、その基本的な枠組みを保ちながら、一部を修正することでブロックチェーンは進化を続けている。より効率的でより住みやすい社会を生みだす潜在力を秘めており、それが「インターネット史上最大の発明」といわれる所以なのだろう。 


(写真) 筆者 PENTAX K-S2 使用

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※この記事は、2016年10月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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