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外国人を災害時の情報弱者にしない!

=「防災の日」に考えたい多文化共生=

2019年09月02日

社会・生活

研究員
大塚 哲雄

 地球温暖化の影響とみられる台風の大型化やゲリラ豪雨の多発―。こうした天候不順による自然災害が、各地で甚大な被害をもたらしている。

 2019年8月中旬のお盆の時期には、超大型の台風10号が西日本を直撃。一部の地域で激しい大雨を降らせたのは記憶に新しいところだ。

 この時、鉄道各社は台風による被害を抑えるため「計画運休」を実施。英語や中国語、韓国語での情報を発信する会社もあったというが、情報入手に戸惑う外国人は少なからずいたようだ。ニュース報道では、「近畿エリア」「中国エリア」などと地域ごとに情報を発信しても、「自分がどのエリアにいるのか分からない」などと困惑する外国人旅行者の声も紹介されていた。

 そこで、増加の一途をたどる外国人旅行者だけでなく、在留外国人に対しても、災害などに関連する緊急情報をいかに確実に届けるかを、9月1日防災の日に際して改めて考えてみたい。

 ちなみに訪日外国人旅行者、在留外国人の現状は次の通りである。

 まず訪日外国人旅行者については、2018年に3000万人を突破。2003年に小泉純一郎首相が「ビジットジャパン構想(目標は2010年に1000万人)」を打ち出した当時の521万人から6倍に増大。政府はさらに2030年に6000万人という大きな目標を掲げる。確かに、今後もビッグイベントが目白押しだ。今月にはラグビー・W杯が開幕、2020年に東京五輪・パラリンピック、2025年には大阪万博が控える。

 一方、在留外国人については、出入国在留管理庁によると2018年末時点で273万1093人。前年同期に比べて16万9245人(6.6%増)増え、ここ3年間では毎年15万~18万人程度増加。政府は今春新設した在留資格「特定技能」によって、向こう5年間で最大約34万人まで受け入れる試算を公表している。

 訪日外国人旅行者、在留外国人ともに今後も増加が見込まれる中、外国人に対して災害に関する情報提供をいかに行っていくのか、行政としても大きな課題であろう。そこで、都道府県の中で在留外国人数が最も多い東京都(約56万8000人)に、どんな施策を講じているのか、お話をうかがった。

 東京都によると、外国人に対しては単なる災害対応ではなく、「多文化共生指針」の中に位置付けており、大きく分けると①外国人のための防災訓練②言語対応ボランティア制度③外国人向け情報発信―に重点的に取り組んでいるという。

 簡単に説明すると、まず①「外国人のための防災訓練」は毎年実施し、これまでに14回を数える。2019年1月に行った訓練では43カ国129人の外国人が参加、起震車による地震体験や仮想現実(VR)による防災体験、避難所体験、応急救護訓練、炊き出し訓練などを通じて、災害への心構えを学んでもらった。

 次に②「言語対応ボランティア制度」は文字通り、多様化する言語に対応できるボランティアを募集。これまでに17言語、777人が登録済みで、いざという時の言葉の不安を取り除く役割を担う。防災訓練当日も参加し、外国人がどのような情報を欲しているのか、体感してもらった。

 さらに③「外国人向け情報発信」では、日ごろの積み重ねが重要と考え、在留外国人全戸に易しい日本語で解説した防災リーフレットを配布するほか、東京都国際交流委員会と連携した「防災啓発動画」を配信したり、防災用アプリを配信したりなど地道な啓蒙活動を続けている。

 このように、都ではさまざまな施策に取り組んでいるが、まだまだ「情報が外国人に届いていない」と認識している。

 例えば、前述した今年の「外国人のための防災訓練」への参加人数をみても分かる通り、約56万人の在留外国人に対し、参加者はわずか129人。告知活動がなかなか進んでいないというのが実状である。また、都は①のような訓練を各地域単位で実施するよう呼びかけているが、実現したケースはあまりないという。

 では、情報を確実に届けるにはどうすればよいのか。都が今後の検討課題としているのは、人種や国籍などごとに形成されている外国人コミュニティに直接届ける方法だ。キーパーソンと日ごろから密にコンタクトを取ることによって、そのコミュニティの中に「入り込む」ことも必要になる。インナーサークルに直接情報を伝えられれば、後は彼らのネットワークを介して広まっていくはずだ。

 効用はそれだけではない。都の担当者は「外国人のコミュニティに入るのは、情報提供だけではない。彼らがわれわれ日本人に母国の食事や踊りを教えてくれることもある。そういった切り口で彼らのコミュニティに入ることも極めて大切なことだ」と語る。

 災害発生時には避難所での共同生活を余儀なくされることもある。文化や習慣、食事、宗教といった違いから、日本人と外国人との間であつれきを生む可能性もある。事前に都が外国人のコミュニティに入り込み、相互理解を図っていければ万が一の際、心強いことは言うまでもない。

 外国人の中には、災害時には自分たちは助けられる側の「弱者」だけではなく、支援する側に回りたいという人もいるそうだ。相互に助け合うパートナーとして認識すれば、自ずと付き合い方も変わってくるはず。それこそが、これからの社会に求められる真の多文化共生社会構築への近道になるだろう。

 9月1日の防災の日を機に、読者の皆さまも身近な外国の方々とのコミュニケーションについて考えてみてはいかがだろうか。

20190902.jpg英語が併記された都内の案内板

(写真)筆者

大塚 哲雄

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