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加齢とともに忍び寄る認知症

=予防策は「生きがい」の発見か=

2019年05月24日

社会・生活

主任研究員
古賀 雅之

 「100から7を繰り返し引いて、順番に数字を言ってください」「この紙にまず円を描き、その円の中に数字を並べて時計にしてください。さらに、時計の針が10時10分を指すようにしてください」―。2013年盛夏、名古屋市内の大学病院で母が診察を受けるシーンの一コマである。

 「93・・・」―。自信なげな母の口からやっと正解が絞り出されたが、後が続かない。一生懸命に描いた時計は、数字が文字盤からはみ出ている。長針も短針も同じ長さ...。

 母が「アルツハイマー型認知症」と診断された瞬間だった。

 それから約1カ月後、母は筆者が住んでいる横浜市の有料老人ホームに転居した。父亡き後、15年間独りぼっちで住んでいた名古屋市を後にしたのである。

 世界保健機関(WHO)によると、認知症は「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断等多数の高次脳機能の障害からなる症候群」と定義される。つまり、仕事や日常生活に支障をきたす状態に陥るのだ。

 WHOが2017年に発表したデータによると、高齢化に伴い、全世界の認知症患者数は2050 年までに1億 5200 万人になると予測されている。向こう30年で実に3倍である。一方、日本でも厚生労働省によると、2025年には700万人と、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症患者になると推計されている。今や認知症はだれもが関わる可能性のある身近な病気なのだ。

 認知症の約6割を占めるのが、母のようなアルツハイマー型認知症。脳の神経に異常タンパク質が蓄積し、正常な脳神経細胞を破壊。記憶をつかさどる海馬から萎縮が始まり、記憶障害が目立つようになる。

 アルツハイマー型認知症に対する治療薬をめぐっては、世界の大手製薬企業がその開発にしのぎを削る。しかしながら、臨床実験で十分な治療効果を証明できないなど、開発断念が相次いでいるという。アルツハイマー型認知症が厄介なのは、ひとたび発症すると抗認知症薬の服用によって、症状の進行をある程度遅らせることはできても、抗がん剤のような病気そのものに対抗する手段がないことだ。

 では治療が難しいのであれば、予防することはできるのか。東京大学医学部附属病院脳神経内科で認知症の診断・治療や臨床実験を行う岩田淳先生に話をうかがったところ、「常に頭や脳を使い続ける人は認知症にかかりにくいようです。俳句や短歌、将棋などは認知症予防に適しています」と教えてくださった。

 その上で岩田先生が実例として示したのが、米国の修道女を対象とした「ナン・スタディー」という研究である。修道女たちは衣食住をはじめとした生活習慣がみなほぼ同じであり、同じように年老いていく。彼女たちが亡くなった時に脳を解剖し、病変の拡がり程度と認知機能の関係を見ていくと、両者には相関がほとんどないという驚くべき結果が出た。では、認知機能と関係していたのは何か。それは、修道女たちが若いころに書いた手紙の内容だったという。

 例えば、20歳代の時に文書や日記、手紙などに複雑な文章を書いていた修道女は、認知機能の低下はなかったのに対し、「今日はご飯を食べて、寝ました」といったような簡単な文章を書いていた修道女は認知機能が低下していた。「若い頃から頭や脳を使い続けるということがいかに大切かということなのです」と岩田先生は強調する。

20190524.jpg東京大学医学部附属病院脳神経内科の岩田淳先生
(写真)筆者 Ricoh GR Ⅱ

 もっとも、予防策は若者だけに限ったものではない。岩田先生は、「これまで経験したことのないことに挑戦し、それを楽しく行うことがある程度予防につながるようです」と語る。加えて、「地域コミュニティーの存在も重要です」と指摘する。米国には教会や老人会、近所づきあいなど居住地に多彩なコミュニティーが存在する。対して日本は、近隣のコミュニケーションが少ない。さらに独居老人が多いので、認知症を発症してもなかなか気づかれないのだという。

 先生の話をうかがっていると、ある言葉が頭に浮かんだ。「生きがい」―。小さなことでも新しいことを続けたり、さまざまな人と交流を持ち、地域社会に自分の居場所を確保する。もっとほかにもあるかもしれないが、身近なところで思い浮かぶのはこうした活動だ。

 そういえば筆者の母も、子どもたち(=母にとっては孫)と一緒に母を訪ねると、筆者一人で訪問する時以上に笑顔あふれる表情になる。会話も弾む。きっと、母にとって孫は今では数少ない「生きがい」の一つなのであろう。86歳になった母の脳が活性化しているのが、手に取るように分かるのだ。

 だれもが認知症への備えを考えなければならない、超高齢化時代の到来。今から何をしておくべきか。

 筆者は2018年8月のコラム「野菜作りから学ぶ「食」の大切さ」で紹介した野菜作りを妻と継続している。オクラは昨年秋に見事に生長し、我が家の食卓を飾った。この大型連休には、初めてピーマンの苗植えに挑戦した。

 また、日本史をもう一度学び直そうという気持ちが沸き起こり、一番興味を覚える中世時代をマンガ本で復習している。マンガ本を侮ることなかれ。実に読者に分かりやすく記述している。学校で習ったであろうことをすっかり忘れてしまっていたり、当時習った年号が現在では通用しなくなっていたり...。発見の連続であり、時間を忘れて読みふけっている自分に気が付く。おそらく脳が喜んでいる証左かと思う。

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