Main content

イノベーションは貸会議室から生まれる?

=業務時間外の企業の会議室、眠らせてはもったいない=

2017年10月10日

社会・生活

研究員
倉浪 弘樹

 社外の人たちと有志の勉強会を発足することになり、先日、顔合わせの打ち合わせを行った。メンバー4人の所属企業はバラバラなので、昼休みに社内でちょこっと集まろうというわけにもいかず、休日にカフェに集合することになった。

 しかし、打ち合わせを始めてみると、カフェのテーブルが小さくて全員のパソコンを開くスペースがない。プロジェクターがないため、パソコンの画面をみんなに共有するにも手間がかかり、何かと不便だ。電源もないから、打ち合わせが長引いてくると、パソコンのバッテリーも心もとない。次の会合はゆったりしたスペースと電源を確保できる場所にしたいと切実に思った。

20171016_01.jpg(写真)筆者

 このような時、意外と使えるのが公共施設の集会所だ。例えば、東京都中央区は区民館など20カ所の集会施設を一般開放しており、手続きをすれば区民でなくても利用できる。定員15人の部屋が午後6時から9時までの3時間で1200円など、懐の寂しいサラリーマンにとってはうれしい料金設定だ。また、事前に予約すればスクリーンやマイクなどの機材も無料で貸し出してくれる。

 ただ、地域住民の趣味のサークルやボランティア団体などが定期利用しているケースも多いため、駅に近くて使い勝手の良い施設は1カ月先まで予約が埋まっていることも。急に使いたくなっても予約できないのが難点だ。

 企業に所属していると、仕事がらみの打ち合わせなら社内の会議室を利用したり、居室内のフリースペースで気軽に集まったりできるため、打ち合わせ場所があることのありがたみを忘れがちだ。しかし、一歩会社を離れると会議室を確保するだけでも一苦労なのだ。

 同じような悩みを抱える人が多いからか、最近は貸会議室を提供するサービスが増えてきた。中には自社が所有する会議室を提供するのでなく、「会議室を持つ企業や団体」と「利用したい人」をマッチングさせるサービスもある。

 マッチングサービスを提供する企業のサイトをのぞいて、試しに平日夜間の東京駅周辺で空いている会議室を検索してみると、47件もの候補が上がってきた。ホワイトボードやプロジェクターが常備されている会議室も多く、打ち合わせ場所として申し分ない。スマートフォンでリアルタイムの空き状況を検索し、その場で予約、決済まで完了させることができる。さらに、予約した人がスマホから部屋を開錠・施錠できる電子キーを発行することで、管理人室でカギの受け渡しを不要にする「スマートロック」という便利なサービスもある。

 また、利用料金が手ごろな場所が多く、中には1時間あたり500円の「ワンコイン会議室」もある。ちなみに、時間帯を朝に限れば1時間あたり100円で利用できる部屋もあり、カフェでコーヒーを頼むよりもずっと安い。

 フリーランスや副業といった「自由な働き方」が広まり、様々な背景を持つ人々が集まって企業の枠を超えて協働する機会も増えている。そんな時の打ち合わせ場所として、誰でもふらっと立ち寄れる貸会議室はぴったり。思いついた時に空いている貸会議室を予約して、すぐに打ち合わせできるのも利点だ。これからは企業の枠を超えた新しい取り組みやイノベーションは、貸会議室から生まれるかもしれない。

 だが企業は近くの貸会議室で面白い取り組みが生まれるのを、指をくわえて見ているだけで良いのだろうか。働き方改革によって充実するプライベートの時間で、資格取得のための勉強を始めたり、社外の人と情報交換会を開催したりする社員も増えてくるだろう。あるいは、趣味の活動に力を入れたい人もいるかもしれない。こうした社員に向けて、業務時間外は使われていない会議室を格安で提供することも考えられるのではないか。スマートロックを使えば、担当者を置かなくても出入りを管理することができるため、コストも低く抑えられる。

 社員の自由な時間のために使われていない会議室を提供し、そこから企業の枠を超えた新しい取り組みが生まれるとすれば、それはきっとめぐりめぐって、企業にとっても良い効果をもたらすだろう。

倉浪 弘樹

TAG:

※本記事・写真の無断複製・転載・引用を禁じます。
※本サイトに掲載された論文・コラムなどの記事の内容や意見は執筆者個人の見解であり、当研究所または(株)リコーの見解を示すものではありません。
※ご意見やご提案は、お問い合わせフォームからお願いいたします。

戻る