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読み聞かせのワザを日常会話に活かす

=自分の得意な声の高さを把握しよう=

2017年09月25日

社会・生活

企画室
竹内 典子

 幼稚園に通っていた頃、先生が絵本を読んでくれる時間が楽しみだった。「ぐりとぐら」は、双子の野ネズミが森で見つけた大きな卵で大きなカステラを焼くというストーリーだ。最後に焼き上がったカステラを森の仲間と食べるシーンになると、いつも「おいしそうだなぁ・・・」とワクワクしたものだ。

 本の読み聞かせは、子どもが言葉を覚えるきっかけになり、想像力や理解力を育てるなど、様々な効用があるという。そのため、幼稚園や保育園では、日々のカリキュラムとして読み聞かせを取り入れているところも多い。

 読み聞かせは単に音読するのではなく、聞き手に楽しんでもらえるようなコツがあると聞き、俳優の樹原ゆり(きはら・ゆり)さんが主催するワークショップに参加した。

 樹原さんは、映画や舞台で活躍する一方で、15年間にわたって日本の名作文学を題材に朗読活動を続けているプロである。この日のワークショップでは、初心者の女性7名が参加し、樹原さんが読み聞かせや朗読を通して実践している声の出し方の秘訣を教わった。

 「読み聞かせで大切なのは呼吸と声の出し方です」と樹原さん。呼吸は腹式呼吸が基本で「横隔膜を柔らかく使うこと」、つまり横隔膜を意識できるようになることがポイント。その横隔膜のあたりを手でマッサージして緊張をほぐしておくと良いそうだ。

 「まずは思いきり息を吐いてー。肩や首はリラックスして、横隔膜を下げるように息を吸いましょう。お腹が膨らむようなイメージで」と樹原さんの声にあわせて呼吸を続ける。横隔膜が大きく上下するように呼吸が深くできるようになると、よく通る聞き取りやすい声が安定して出るようになるそうだ。

 次に、声の出し方の練習。「発声は、遠くにボールを投げるようなイメージで、声を前に飛ばすように『まぁー』と言ってみましょう」―。樹原さんが明るく力強い声で見本を示す。最初はそれほど響かなかった参加者の声が徐々に大きくなってくる。また、人それぞれに得意な声の高さがあるという。一人ずつ樹原さんと一緒に、音程を変えながら声を出す。得意な音の高さになった瞬間、突然お腹から響くような生命力のある声が出てくる。最適な声の高さを把握して、そのトーンで話すように心がけると、相手の心に伝わりやすくなるという。

 そして、実際に受講者が絵本の朗読に挑戦する。樹原さんが「文章のどの部分を聞き手に届けたいかを考えて、そこを強調して読んでみましょう」とアドバイスする。

 「強調」と言っても、単に声を大きくすればいいというわけではない。「ふっ」と小さな声で話す、一音一音を明瞭に丁寧に発音する(声のプロの世界では「粒立てる」と言う)、数秒の間を取るなど、様々なテクニックがあることを教わる。聞き手が情景を思い描きやすいように、普段の会話より少しゆっくり読むことも大切だという。しかし、同じテンポで読み続けると聞き手は眠くなってしまうので、スピードの強弱によりテンポの山をつくる。また、表情も声に影響を与える。表情が硬いと声も硬くなりがちだ。楽しい場面では、表情と声のトーンを明るくするよう気を配ると良いそうだ。

 こうしたコツは、読み聞かせだけではなく、日常の会話やコミュニケーション能力の向上にも役に立つだろう。樹原さんは「自分の声に自信がなくても、練習で変えられます」という。自信の持てる声を身に着けて、その声を活かせる話し方ができるようになると、新しい自分に出会えるかもしれません。

20170925_01.jpg(提供)樹原ゆりさん

【参考】樹原ゆりさんのWEBサイト

竹内 典子

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