Main content

ビジネスにも通じる、将棋に求められる「力」

=リコー将棋部、秋の職団戦で4連覇なるか=

2017年09月20日

社会・生活

企画室長
小長 高明

 史上最年少でプロ棋士となり、前人未到の公式戦29連勝を果たした藤井聡太四段。"新星"の登場で、将棋界は大いに盛り上がっている。特に、人工知能(AI)を搭載した将棋ソフトで腕を磨く若い世代が、定跡にとらわれることなく、マンネリ化した世界を刷新する様にファンは心を躍らせているのではないだろうか。

 実はリコー将棋部は1960年の創設以降、数々のタイトルを獲ってきた強豪チームである。企業将棋部ナンバーワンを決める「内閣総理大臣杯職域団体対抗将棋大会(職団戦)」では、歴代最多の通算32回の優勝を誇り、日本一の企業将棋部と言っても過言ではない。直近では、同大会で3連覇中だ。

20170912_01a.jpg

 リコー将棋部の屋台骨を支える一人であり、2004年から10年間にわたって主将を務めたビジネスサポート本部の山田洋次さん(アマチュア6段)に話を聞いた。山田さんは、全日本選抜優勝(2000年)やアマ名人(2006年)、アマ王将(2007年)など数々のタイトルを獲得してきた国内トップクラスのアマチュア棋士だ。

 リコー将棋部の部員は約50人。部員の所属する事業所がバラバラなため、日ごろは個人練習を基本としている。部員が顔を揃えるのは年2回の合宿や、大会前の研究会だけ。そこでは部員同士が本番さながらの真剣勝負で腕を磨き、指し手や対戦相手を研究している。

 山田さんによれば、リコーの強さの源は、全国優勝経験者が10人以上、有段者が30人以上を揃える層の厚さと、チームワークにあると言う。ともすれば、大会出場のメンバー選考で揉め事が起こりかねないほどのスタープレーヤー揃いだが、対外戦や部内戦の勝ち負けをポイント制にして部員をレーティングし、透明性と納得感のある選考をしている。これにより、組織の風通しが良く、世代を超えて絆を深めているそうだ。自己研鑽によって技術を高め合い、その一方で競い合うライバル同士でもあるが、対戦相手に関する情報を交換するなど、チーム力を高めるための貢献も惜しまない間柄だという。

 「将棋は、ビジネスに似ているところがある」と山田さんは語る。

 アマチュアの試合では平均120手前後で勝負が決まる。試合を有利に運ぶために、序盤、中盤、終盤で異なるスキルが求められる。

 序盤の最初の10手ほどで、30パターンのシナリオが見えてくるという。試合をどう組み立てるかを構想しながら、シナリオを徐々に絞り込んでいく。それによって、流れを引き寄せられるかどうかが決まるのだ。シナリオ選択のために重要なのは、対戦相手を知ること。相手の得意な戦法やこだわり、性格、表情に出やすいかどうかなど、事前の分析も不可欠だ。初顔合わせの場合には、序盤のうちに、相手の時間の使い方や誘いに乗るかなどの特徴をつかまねばならない。序盤は視野を広く、色々な可能性を模索する「構想力」が求められる。 

 中盤では、ある程度絞り込んだシナリオの中から、「これだ!」という一つを選ばなくてはならない瞬間がある。投了までの流れを完全に読みきれなくても、腹を決めて判断することになる。

 藤井四段は、感情の起伏が少なく、中盤で決してマイナスの手は指さないそうだ。将棋で勝つための方程式は、「悪い手を指さない=負けない=強い」になるという。逆に言うと、緊迫した中盤で相手が判断ミスをし、悪い手を指すように誘えるかが勝敗のカギを握る。山田さんは、形勢が不利になると、わざと局面を複雑にする。自身の指し手は2~3秒に抑え、相手に考える時間も与えず自分のペースに持ち込もうとする。逆に相手が勝つための選択肢をわざと増やして迷わせることで、判断ミスを誘うというわけだ。一つの判断が勝利への可能性を拡げることもあれば、逆に道を断つこともある。この時の判断に必要な視点は、ミクロでなく客観的なマクロ視点だという。

 終盤には答えを導き出さなければならない。次の一手を打つ際に、最初に頭に浮かんだ直感だけを信じることはまずない。有利な時は投了までのシナリオ、不利な時は逆転までのシナリオを素早く論理的に描き、直感以外の可能性を制限時間内で考える。正しい一手を決める「解決力」が求められるのだ。

 そして、序盤から終盤まで、すべての場面に必要なのは「決断力」だ。どんな局面でも指せるのは一手のみ。やり直しはきかないし、投了までは「指さない」という選択肢も無い。正解が分からなくても、判断するのが苦しい状況でも、一手を選択して駒を進めていかなければならないのだ。

 そして、大切なことは、対局中には決して後悔しないことだ。決断したからには、腹を括って前だけを見る。常に状況は変化するから、過去を振り返っている暇は無い。現在の局面で最善の策を求め、決断していくことこそが求められる。

 「もし、山田さんが藤井四段に勝つとしたら?」と質問すると、山田さんは「序盤でリードし、攻めて、攻めて、自分の形に持って行くしかないけど...」と笑ってくれた。

 今年11月に開催される秋の職団戦では、リコー将棋部の4連覇がかかる。ライバルチームは戦力を補強し、厳しい戦いも予想されるが、リコーの企業文化である「チームワーク」と「底力」を発揮し、栄光を勝ち取ってもらいたい。

20170912_02.jpg

(写真)山田洋次さん提供

小長 高明

TAG:

※本記事・写真の無断複製・転載・引用を禁じます。
※本サイトに掲載された論文・コラムなどの記事の内容や意見は執筆者個人の見解であり、当研究所または(株)リコーの見解を示すものではありません。
※ご意見やご提案は、お問い合わせフォームからお願いいたします。

戻る