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東京のキツネが大阪でタヌキに化ける?

【企画室】Vol.12

2017年05月10日

社会・生活

企画室
竹内 典子

 ある日、そば屋に入った時のこと。友人が運ばれてきた品物を見て困惑している。

 「すみません、私、『たぬき』をお願いしたのですが...」
 コロコロとした揚げ玉(天かす)がたっぷりのっている。どうみても「たぬき」だ。
 お店の人も、「はい、『たぬき』ですよ」と素っ気無い。
 友人が「お揚げはのっていないんですか?」と食い下がる。
 「お揚げは『きつね』ですね」―。私とお店の人が同時に切り返した。

 

「きつねうどん」は東西共通

 

関東の「たぬきそば」は関西では「ハイカラ」

  
 話がかみ合わなかったのは、関東と関西で「きつね」と「たぬき」の名称が一致していないからだった。出汁で甘く煮た揚げがのった麺、関東ではうどんもそばも「きつね」と呼ぶ。揚げ玉がのっていれば「たぬき」だ。
 ところが、関西では「きつね」にも「たぬき」にも油揚げがのっている。違いは、「きつね」がうどんで、「たぬき」がそば。ちなみに、揚げ玉入りは「ハイカラ」と呼ぶらしい。

「油揚げ」をのせた麺類の呼び方

20170512_03b.JPG 冒頭の友人は大阪出身で、揚げがのったそばをイメージしていたのに、たっぷりの揚げ玉にすり替わっていてびっくりしたそうだ。

 きつねうどんは大阪にある「うさみ亭マツバ家」が発祥と言われる。1893(明治26)年創業の老舗だ。創業者が寿司屋で修行を積んだ経験を活かし、いなりずし用の甘辛く煮た油揚げを、素うどんと別皿で出したことから始まる。お客さんが油揚げをうどんの汁に入れて食べる様子を見て、うどんの上にのせて出すようになった。また、関西では伏見稲荷大社が商売繁盛の神様として親しまれ、神様の使者であるきつねも縁起が良いとされる。油揚げはきつねの好物であり、きつねうどんも縁起が良いと全国へ広まったようだ。

 これに対し、たぬきは江戸時代の関東が発祥と言われているが、由来は諸説あって定かではない。天ぷらそばに天ぷらのタネを入れない「タネ抜き」が「たぬき」に訛って変化した説や、天ぷらのタネが無いことを「たぬきに化かされた」とする説、当時の天ぷらはごま油で揚げていたので衣が茶色っぽくたぬきのような色合いだった説など。関東から関西へ伝わるうちに変化した理由もはっきりしない。関西では、「うどんがきつねなら、そばはたぬき」と油揚げがのったそばがたぬきになったという説もある・・・。

 ちなみに関西の中でも、京都には「きざみきつね」と呼ばれる別バージョンが存在する。油揚げを短冊に刻み、京野菜の九条ねぎと一緒にうどんにのせたものである。うどんも細めで品よく食べられる。このきつねうどんのだし汁に葛でとろみをつけたあんかけが「たぬき」と呼ばれる。京都の冬は底冷えするため、熱を包みこむあんかけ料理が多くみられる。京都らしい食文化が反映されているといえるだろう。

 きつねもたぬきも化けるのが上手。他の地方ではまた違う形に姿を変えているかもしれない。初夏の行楽シーズン、旅先でどんな「たぬき」や「きつね」に出会えるか、そば屋をのぞいてみるのも楽しそうだ。

(写真)筆者 

竹内 典子

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