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81マスに人生を懸ける女流棋士 室谷由紀・女流初段インタビュー

2014年10月01日

社会・生活

HeadLine副編集長
花原 啓

聞き手:RICOH Quarterly HeadLine 副編集長 花原 啓

 「いまニコニコ生放送で一番見られているコンテンツはアニメ、政治、将棋」―。ニコニコ動画で知られるドワンゴの川上量生会長はこう断言する。5人のプロ棋士が5種類の将棋ソフトウェアと死闘を繰り広げる、第3回「電王戦」が今年3~4月に開催され、全五局のネット視聴者数は延べ213万人に達した(4勝1敗でソフトが勝利)。今や将棋界のみならず、世間の注目を集める一大イベントである。

 将棋では、タテ9×ヨコ9の81マスの盤上で、二人のプレーヤーがお互い8種類20枚ずつの駒を使い、それを取ったり取られたりしながら、最終的に相手の「王様」を追い詰めた方が勝ちとなる。


 徳川家康が大橋宗桂に俸禄(給与)を与え、「将棋名人」が誕生してから約400年。以後、プロの将棋界は長きにわたり、一般の人、とりわけ女性には縁遠い存在だった。しかし今では、冒頭に紹介した電王戦をはじめ、プロ棋士の対局がネット上で手軽に生観戦できるようになった。この「観る将」の登場が将棋ファンの裾野を飛躍的に拡大し、女性の愛好者も急増している。

 さらに近年、女流棋士の活躍も目立ち始め、「男の世界」というイメージは急速に変わりつつある。外見の華やかさが注目され、アイドル並みの人気棋士もいる。しかし、彼女たちは81マスに人生を懸け、熾烈な戦いを繰り広げている。そのひたむきで真摯な姿勢がネット時代の将棋ファンの心を打ち、将棋界全体が新たなステージに突入している。

 一般にプロ棋士とは、日本将棋連盟の奨励会を突破した四段以上を指す。女性にも門戸は開かれているが、過去にこの壁を突破した例はない。

 しかし、プロを目指す女性には別の道も用意されている。まず、日本将棋連盟の研修会員になり、C1クラスまで昇級すると、女流3級として認められる。その後の対局で一定の成績を収めると、女流2級となり晴れてプロ(=女流棋士)と呼ばれる。現在、54人の現役女流棋士は6つの女流タイトル戦※を争う。成績優秀な女流棋士には、プロ棋士が鎬を削りあう「竜王戦」といったタイトル戦やその他公式戦への出場権が与えられる。
※リコー杯女流王座戦、マイナビ女子オープン、 大山名人杯倉敷藤花戦、女流王位戦、霧島酒造杯女流王将戦、ユニバーサル杯女流名人戦(開始年が新しい順)

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 IT企業の経営コンサルタントとして活動する傍ら、将棋にも造詣が深く、「シリコンバレーから将棋を観る ―羽生善治と現代」などの著書で知られる梅田望夫氏(ミューズ・アソシエイツ社長、リコー社外取締役)は、女流将棋界の魅力について次のように語る。

 「女流将棋界の魅力は『強さ』と『華やかさ』にあると思います。これまで将棋において男女間には歴然とした力の差がありましたが、それは競技人口の数の差ゆえでした。近年、女性の将棋人口の増加に伴い、 『強い』若手の女流棋士が増えてきました。また、将棋の普及活動において女流棋士の『華やかな』存在は欠かせません。こうした『強さ』と『華やかさ』を兼ね備えた女流棋士の活躍が、将棋界をますます盛り上げていくと思います」―

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――将棋を始めたのは何歳の時ですか。

 小学校一年生です。家から徒歩5分ぐらいの所に子供将棋教室があって。そこに、母が習い事感覚で私と二つ上の姉を一緒に入れたのがきっかけです。母の友達の息子さんがそこに入っていたんです。「将棋に強くなるとかじゃなくて、将棋を通して礼儀やマナーを学べるところよ」と勧められ、母は姉と私を入会させたようです。でも、姉と私は「将棋?何それ?」という感じでした。

  姉はボードゲームが好きだったんです。よく父とオセロをやっていましたが、私は苦手でした。落ち着きがなく、いつも走り回っては転んで怪我するような子供でした。姉が大人しい性格で、私がやんちゃなタイプ。対照的だったんですよ。だから、将棋教室は私にとって苦痛でした。落ち着きがないから、座っていられないんです。

 今となってはありがたいと思いますが、礼儀やマナーに本当に厳しい教室でした。ちょっと将棋盤に肘をついて指してると「ヒジ!」ってすごく大きな声で怒られるんです。

 あくびが見つかれば、「そこに布団を敷くから寝るか?」。小学校一年生の女の子にですよ。私が「寝ません」と言い返すと、「じゃあ、帰るか?」という調子です。私は「何でこんなこと言われなきゃいけないんだろう。ただの習い事なのに...」と思っていました。

 勝負に負けると、悔しくてみんな泣くんですよ。そうしたら「泣くな!泣くほど悔しかったら、もっと勉強しなさい」。とにかく怖かった。つらくて何度も辞めようと思いました。姉も同じで、「二人で辞めよう」とよく話し合っていました。母は「辞めたきゃ辞めていいよ」。だけど、辞める前に出た大会で、運良く準優勝して賞状と盾をもらったんです。始めてまだ一年も経っていないから、嬉しいじゃないですか。その時に味わった「勝つ喜び」の経験があるからこそ、今の私があると思います。

――将棋は頭の回転が相当速くないと強くなれないと思います。小学校時代の得意科目は何ですか。

 体育と算数です。将棋には、暗記する部分と自分で考える部分があると思うんです。私は社会が苦手でした。暗記が苦手なんですよ。将棋は過去の棋譜を頭に入れておかないといけないのですが、それがなかなか頭に入ってこない。今はそれに苦労しています。算数みたいに自分で考える科目が得意です。「こうなって、こうなって、こうなる...」という将棋と数学は、自分で考えるところが似ていて楽しいんです。

――女性が「男の世界」で将棋を続けていると、苦労があると思いますが。

 ありました。私が小学校で将棋を始めた頃に比べて、今は女の子が断然増えています。ところが、習い立て当時は教室に私と姉しかいませんでした。姉と一緒でなければ、続けられなかったと思います。友達からは、「えっ、将棋?男がやるものでしょ」って言われていました。先輩たちはもっと大変だったと思います。将棋を続けているということだけで、ものすごく尊敬します。

――室谷さんのように将棋が強くなるには、どんな素質が必要だと思いますか。

 将棋に向いてる、向いていないは、あまり関係ないと思います。ある程度強くなりたければ、やる気と努力次第で何とかなります。ただ、プロを目指すかどうかの判断をする時は、別の視点からみる必要があるでしょう。将棋教室に入った当初、先生には「室谷姉妹は才能が全くない」と断言されたんですよ。でもその一方で、「コツコツやれば絶対強くなる」とずっと励ましてくれました。

 だから、毎日将棋に触れることだけは欠かしませんでした。そうすると、ある程度のところまでは行けました。才能が全くなくても(笑)。「続けること」が一番大事だと思います。私は将棋教室の子供達にも、「将棋を毎日欠かさないでね」と言うんです。一日でも抜けると、感覚が鈍ってしまいます。一日一問、詰め将棋の問題を解くだけでもいいんです。

201409_将棋_4.jpg もちろん、将棋を一年続けてもなかなか結果に結びつかないことがあります。私もそれで辞めようかと思い悩んだことがありました。でも、そこを乗り越えないといけないんですね。

――対局前はどのような準備をしているのですか。

 対戦相手が決まった瞬間から、相手の研究を始めます。過去に指した将棋を盤上に並べて、相手の癖を見つけます。「自分がこう指したら、相手がこう来るだろう」とか。実際そうなるかどうか分かりませんが、予想を立てておくと安心して対局に臨むことができます。あとは体調管理が大事ですね。

――対局時間はどれくらいですか。

 棋戦にもよりますが、長い対局では一人3時間の持ち時間があります。お互い3時間使い切ると6時間。このほか対局の途中に1時間の昼食休憩があります。持ち時間を使い切ると、1分将棋に入ります。それが1時間。最後に感想戦(=対局後の反省会)が1時間で、計9時間ぐらいになります。午前10時に始まると、午後7時まで。女流棋士は基本的に1日で終わりますが、プロ棋士は2日制のタイトル戦もあります。

――その間、ずっと正座ですよね。

 正座です。ちょっと外に出るのは自由ですが、どんどん時間が減っていくので、なかなかそういうわけにもいきません。プロになった当初は足が痺れましたが、今は慣れました。盤面に集中すると、痛みや痺れを忘れてしまいます。

――対局後はどういう状態ですか。

 もう、疲労しかないですよ(笑)。ただ、勝つか負けるかで、その度合いは全然違います。勝てば足が軽いのですが、負けた時は足が重い。家に帰るまでの道のりをすごく長く感じます。

――1回の対局で2~3kg減る人もいるとか。

 それはちょっとオーバーだと思いますが、間違いなく1kgは減ります。昼食休憩になっても何も食べないですから。対局していると胸がいっぱいになるんです。お腹が空かないし、食べようとしても食べられない。終わった後もです。緊張で朝食もとらないことが多いですね。女流棋士の半分ぐらいは、対局中は何も食べないと思います。

――それでは、昼食休憩中はどう過ごすのですか。

 ふらっと外の空気を吸いに行くことが多いですね。何も食べないのは体に悪いし、頭が働かなくなってもいけないので、チョコレートをちょっとだけ口に入れます。あとはほとんど盤の前に座っています。

――将棋の魅力はどこにあるのですか。

 昔は、「年齢に関係なく、誰でも指せるところがいいな」と思っていました。小学校一年生で将棋を始めて将棋道場に行くと、自分よりずっと年配のおじいちゃんと指すわけです。対局中は喋らないのに、心の中で会話ができるんですよ。もしかしたら、将棋を指している人にしか分からない感覚かもしれないですけど...

 例えば、「私はこう思っています!」「私は曲げないですよ!」と心の中でつぶやくと、「俺も曲げない!」という無言の答えが返ってくるんです。すごく不思議ですごく面白いと思います。「棋は対話なり」という言葉があるぐらい、将棋を指すと相手の性格まで分かってしまうんです。

 子供が年配の方と話す機会は、自分の親や親戚を除くと、ほとんどないですよね。でも、将棋を通して大人と普通に話せるようになり、それが自分にとってプラスになったと思います。全く怖がらないし、自分から積極的にどんどん話しかけることができます。もちろん話題は将棋だけですけど。

 あと、個人プレーの将棋には団体プレーとは違う面白さがあります。負けたら全部自分の責任ですが、半面、勝った時は自分の力で勝ったと思えるから非常に嬉しいんです。

――将棋を指していて一番嬉しいと思う瞬間は?

 もちろん、勝った瞬間です。それしかないですね。今はとりあえず勝ちたい。その後に内容が付いてくればいいと思っています。内容が良くて結果が付いてくるというのが、本当は正しいのかもしれません。でも今は結果が欲しいので、何が何でも勝ちたいです。女流棋士はみんなそうだと思います。

――今後の目標について教えてください。

 プロ棋士になった時、「タイトルを取りたい」と大きな目標を立てていました。その気持ちは薄れていませんが、先の目標を立てすぎると目の前のことができなってしまうんです。だから今は、「強くなれば勝てる」と信じ、強くなることに重点を置いています。「強くなりたい」の一言に尽きます。

――将来の夢について教えてください。

 子供向けの将棋教室か、道場を開きたいですね。今はもちろん現役で頑張りたいという気持ちが強いので、もっと先の将来の話ですけど。自分が将棋を通して学んだことが本当に多いんです。それを自分だけじゃなくて、たくさんの人に伝えていきたい。挨拶をきちんとすることや、忍耐力の大切さを子供に教えていきたいし、その子供がまた大きくなって未来に伝えてほしいと思います。

 大会で優勝すると、賞品として将棋盤や駒、時計などをもらうんです。それを母親が箱の中にしまってくれています。ある日、私が「いっぱいあるんだから、将棋教室に寄付しようよ」と言ったら、母は「あなたが教室を開くっていうからきれいに保管していたのに!」―私より母の方が真剣に着々と将来の準備を進めているんです。
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(写真)中野 哲也 PENTAX K-50 使用


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※この記事は、2014年10月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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