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5Gで地方創生が加速する可能性

=地域の弱みが強みに生まれ変わる?=

2019年04月24日

地域再生

主任研究員
伊勢 剛

 4月初め、米国と韓国の間で繰り広げられた次世代通信規格5Gのスマートフォン向け商用化サービスをめぐる先陣争い。「世界初」の称号をめぐって互いに開始日を繰り上げるなど激しく火花を散らしたのは記憶に新しいだろう。韓国の通信大手各社は4月5日にスマホ向けのサービスを開始すると発表した。すると、米国の通信大手ベライゾンは当初の計画を約1週間前倒して4月3日に同様のサービスを開始した。その動きを察知した韓国勢は急きょ4月3日午後11時にサービスを始めたと発表したのだ。双方ともに「世界初」を譲らず、決着は付いていない。

 米韓に後れを取ったものの、日本でも総務省が4月12日、通信事業大手4社に5Gの電波を割り当てるなど、2020年東京五輪・パラリンピックに向けた実用化の準備がいよいよ加速してきた。2019年ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会では、試験的にサービスを提供する予定だ。

 5Gが実用化されると、パラダイムシフトというべき劇的な構造変化を社会にもたらすことが予想される。その原動力となるのが①「超高速・大容量」②「超低遅延」③「多数同時接続」という5Gの3つの特徴だ。

20190424_01.jpg5Gの特徴
(出所)各種報道を基に作成

 ①「超高速・大容量」は言うまでもないが、注目すべきは②「超停遅延」。これによって、IoT(モノのインターネット)を爆発的に普及させる可能性を秘めるからだ。IoTで繋がれる機器類と携帯基地局を結ぶ無線通信のタイムラグは1ms(まばたきの100分の1の時間)で済むのだ。③「多数同時接続」も膨大な数が結ばれるIot普及の上では欠かせない。

 つまり、4G時代はスマホを使うヒトが主体だったが、5GではIoTで繋がれる機器類が主体となって、それを活用したサービスが主役に取って代わることになる。

 5G研究の第一人者で第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)技術委員会委員長である、大阪大学大学院工学研究科の三瓶政一教授は「5Gの最重要課題として挙げられているのが、自動車や工場などを積極的にネットワークに繋いでいくということだ。この場合、繋がる『機器』の数はスマホよりも圧倒的にIoT 機器が多くなる。これが決定的に4Gとは違う点だ」と来るべき時代をこう見据える。

 総務省もIoT機器が主役となる時代を予測した上で、5Gの展開基準に新たな指針を打ち出した。4Gまでのエリア展開基準(=人口カバー率)を改め、面積に基づいたカバー率とする基準としたのだ。日本全土を10キロ四方のメッシュ状に区切った上で、過疎地や人が住んでいない農場などでもIoT活用のために基地局を設ければ、これも1つとカウントする。こうした基準を設けたのは世界初という。実際、総務省は通信事業大手4社への5G電波の割り当ての際に、この展開基準に基づいて認可した。

20190424_02.jpg5Gの展開基準イメージ
(出所)総務省資料を基に作成

 この指針の狙いは「人口の少ない地域への5G導入が後回しにならないようにして、5Gを活用した地方創生の政策実効性を高めることにある」(総務省幹部)という。5G用周波数の特性上、従来の十数倍程度の基地局投資が必要になるが、この指針によって地方展開でスピードアップが図れるとみている。地方では、クルマの自動運転や遠隔医療、遠隔農業など、5Gの活用に期待が大きい。

 地方創生では、今回創設された自営用の「ローカル5G」にも注目が集まる。携帯事業者以外の自治体や企業が地域や場所を限定して通信サービスを提供できるもので、総務省は2019年秋までに政省令を改正し、参入事業者を募る予定だ。「ローカル5Gは地方創生のための新しいビジネスを生み出す可能性を秘めている」(大手通信会社シンクタンクの研究員)と、専門家も指摘する。

 例えば、高齢者にも優しい街づくりを目指したコンパクトシティ整備への活用も考えられる。ゆっくりと走る自動運転車の展開や弁当、買い物の自動配送など、5Gを使ったサービスに対する潜在需要は大きい。コンパクトシティ故に、短期間でIoT機器を集中的に多数配置することも可能で、街中のヒトやモノの動きなど膨大なビッグデータを集めることができるはず。これがやがて新たな商品やサービスを生み出す"種"になるだろう。

20190424_03.jpg自動運転低速モビリティ車(群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センター
(写真)筆者

 このように5Gの通信インフラが整備されると、今までの地方の弱みが強みに生まれ変わる可能性を秘めている。人手不足や後継者不足に悩む地方では、5Gによって一気に自動化や効率化が進むかもしれない。例えば後継者難の農地や耕作放棄地などを集約して、先進的な遠隔農業や無人農場の実現が早まり、結果的に生産性が向上するのではないか。5Gの地方での普及促進、そして地域の創生を大いに期待したい。

伊勢 剛

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