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再生第2ステージに入った夕張の教訓に学ぶ

【産業・社会研究室】 Vol.16

2017年03月10日

地域再生

産業・社会研究室
飛田 真一

 夕張市(北海道)は地方自治体にとって事実上の倒産に相当する「財政再建団体」の指定を受けてから10年目を迎え、このほど財政再生計画の抜本的な見直しを決めた。これまで歳出削減や増税などで借金返済を進めてきたが、将来の発展に向けて、子育て支援の充実や住宅整備など地域再生に力を入れる路線に転じる。ふるさと納税や国の財政支援なども活用し、2017年度からの10年間で113億円の新規事業を実施する。3月7日には、高市早苗総務相の合意を得て再生は第2ステージに入った。

 計画変更直前の今年1月末に、2011年から再生を牽引してきた鈴木直道市長の講演を聴く機会があった。鈴木市長は、東京都からの派遣職員として2年2カ月間、夕張市役所で勤務。いったんは都庁に戻ったものの、市民からの要請を受けて2011年4月の市長選に立候補して、当選した。借金返済や緊縮財政の真っ只中での就任だったが、少しずつだが可能な限り、将来を見据えた施策も打ってきた。

 かつて炭鉱の町として栄えた夕張市は、エネルギー政策の転換とともに衰退。石炭産業華やかなりし頃、炭鉱会社は坑口ごとに社宅を建て、道路を整備し、病院や入浴施設などの生活インフラを整えた。炭鉱会社が撤退後も、坑口ごとに点在しする集落は温存され、それが夕張の非効率で特殊な都市構造となっていた。そして、1960年に12万人だった人口は、2015年には9000人を割り込んだ。

 鈴木市長は「住民がどこに住んでいようとも、自治体は最低限の行政サービスを提供しなければならない。市民には住みたい場所に住む権利があり、たとえ公営住宅であっても、強制的に移転させることはできない。しかし、将来のさらなる人口減を見据え、限られた財源で持続可能な行政サービスを続けていくには、都市機能の集約化しかない」とコンパクトシティ化を打ち出した。

 住民にとっても、居住エリアの集約化が進めば、駅やスーパー、病院など生活インフラへのアクセスが向上し、住民同士の見守り機能のアップが期待できる。市では市営住宅に住む住民一人ひとりカルテを作成。「移転のメリットを訴え、どうすれば移転に応じてもらえるのか、移転に関する希望を丁寧に聞き取り、泥臭い移転交渉を繰り返した。最後は個別交渉で撃破していった」という。その結果、数年間で世帯数の5%に当たる300戸の移転を実現した。

 さらに、鈴木市長は2016年8月にはJR北海道に対して、夕張支線の廃止容認方針を伝えた。「年間1億8000万円の赤字路線を民間の営利企業が放置するとは考えられない。廃線反対のこぶしを挙げた時点で負けると思った」という。廃線を自ら提案する代わりに、鈴木市長は①廃線後の市内交通網再形成への協力②支線関連の施設・土地などの有効活用策の検討③JR職員の市への派遣の3条件を提示した。

 生活インフラとしての鉄道廃線を首長自ら打ち出したことは大きな話題を呼んだが、「座して廃線を待つよりは、攻めの廃線」と、いかに長期的に市民の足を確保するか、現実的な検討を進めることを選んだのだ。

 鈴木市長は「皆さんは、他人事のように、夕張はお金もなくて、高齢者が多くて大変とお思いでしょう。でも、オリンピック後には東京でも人口減が始まります。人口が多い分、人口減のインパクトも大きいはず」と警鐘を鳴らす。給料は月額25万9000円で、日本一安月給の首長として知られる。市長だけではない。財政破綻後は市職員数を大幅に削減し、職員給与もカットし市税の値上げやごみ収集の有料化など市民も痛みを分かち合ってきた。

 鈴木市長の指摘する通り、今では首都圏でも税収減や社会保障費用の拡大が待ち受ける。無駄な支出は抑え、将来に向けて必要な投資はする。そして、トップ自らが汗をかく。夕張の痛みを遠い北の街の出来事と考えず、未来に向けた日本全体の教訓として学ぶべき時なのかもしれない。



20170306tobita_600.jpg夕張市の鈴木直道市長

(写真)筆者

飛田 真一

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