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死を恐れる病ではなくなるが...

第22回 冬夏青々

2021年10月01日

新型ウイルス

常任参与
稲葉 延雄

 新型コロナウイルス感染症とうまく共存しよう―。全世界的にこうした試みが続いている。残念ながら日本の場合、デルタ株の強力な感染力もあり、今回の第5波は感染者数の急増が長く続き、今のところ感染収束が定着する気配がなお見えない。しかし感染者数が拡大する中でも、死者数の増加は比較的落ち着いており、その事実はもっと強調されてよい。医療サービスさえ適切に供給されれば、新型コロナは死を恐れる病ではなくなりつつある。

 これには、ワクチンや重症化を防ぐ治療薬など医療面からの貢献が大きい。高齢者を中心とした接種が重症者・死者数を抑制し、治療薬の開発には重症化を防ぐ効果が期待される。こうした進歩は通常の生活に戻る上で、ロックダウン(都市封鎖)その他の行動規制に頼らず感染抑止を可能にするため、経済の長期的見通しの改善につながる。

 ただし気懸かりなのは、変異株のさらなる出現が先行きの展望に水を差しかねないリスクである。感染力の強いデルタ株による感染者数の急増はインドをはじめ、日本や米欧でも観察される。その一方で英国では各種行動規制を全廃した後、デルタ株による感染急拡大に直面したが、幸いにも死者数の増加は抑制されている。しかも最近では、行動規制の復活なしに感染の沈静化が観察されており、心強い限りだ。

 今回明らかになった変異株の怖さは、感染力の強さ故に感染者数の急増が医療サービス供給の限界を超えてしまい、その結果、重症者・死者数の無用な増加を招くことにある。また、同時に明らかになったのは、医療先進国だと信じられていた日本の医療供給体制が実は米欧各国に比べてひどく非効率で脆弱だということだ。入院できず自宅療養を強いられている人の死亡例が出ており、引き続き警戒が必要である。

 大事なことは、地域医療機関を含めて医療機関が一丸となって供給体制を一層強化すること。同時に、わたしたちも感染者数の増加を常に医療供給体制の限界以下に抑制していくこと。この2つの努力を継続していくことに尽きる。そして、このようにして変異株の出現を克服していけば、ある程度感染者が出ても対応が可能となり、徐々に従来の生活、つまり旅行や会食がより自由にできる日常を取り戻していける日がやって来る。

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稲葉 延雄

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※この記事は、2021年9月29日発行のHeadLineに掲載されました。

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