Main content

オンライン診療は育児の援軍

=体験して分かった利便性と課題=

2020年12月14日

新型ウイルス

研究員
田中 美絵

 「電話だと診られることが限られます。何か変化があったら、すぐに対面に切り替えてくださいね」―。保育園に通う2歳の息子の掛かり付け医とのオンライン診療は、毎回このような会話で始まる。医師との通話時間は、対面の時とさほど変わらず5分程度。ただしオンラインでは、変わった様子はないか念入りに質問される。医師とのやり取りの後、事務の担当者から会計の方法と薬の受け取り方について説明を受けて終了だ。

 この病院から「電話によるオンライン診療を開始した」という連絡を受け取ったのは、2020年4月のこと。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府がオンライン診療の規制緩和を打ち出した直後だ。以前から、息子は皮膚炎の塗り薬を毎月処方してもらっていた。薬が残り少なく、コロナ禍の中での通院に躊躇(ちゅうちょ)もあり、すぐに試すことにした。

 実際に体験すると、病院に行くまでの時間や待ち時間がないため、対面に比べて親子の負担は格段に小さくなる。筆者の家庭は共働きなので、子どもを病院に連れて行けるのは保育園が終わった後の平日夕方、もしくは土曜日。いずれの時間帯も、小児科はとても混雑する。元々それに大きなストレスを感じていたので、オンライン診療を毎月利用するようになった。

 筆者が利用しているオンライン診療は次のような流れになる。

①インターネットで診療時間を予約。
②ネットで問診に回答。
③患部の写真や健康保険証、利用する薬局などの情報をメールで送付。
④予約時間に病院から電話を受け、看護師から本人確認と診療の流れについて説明を受ける。
⑤医師と電話でやり取りしながら診療を受ける。
⑥事務の担当者から会計と薬の受け取り方について説明を聴き、電話を切る。病院からメールを受信し、その指示に従ってクレジットカードで診療費をオンライン決済する。
⑦筆者が指定した薬局に向け、病院が処方箋をファクスで送る。
⑧薬局から調剤完了の電話が入り、薬局に向かう。

 診察前にネットで問診に回答しているので、医師に対して必要なことは事前にある程度伝わっているという安心感がある。ちなみにネット問診は、対面診療でも利用可能。事前に問診を済ませておけば、病院での待ち時間を短縮できる。幼い子を病院に連れて行くと何かと気苦労が多いので、それだけでもありがたい。共働き家庭にとって、オンライン診療は欠かせない仕組みだし、心強い援軍だと感じる。

 このように大変便利なオンライン診療だが、実は長らく原則として禁止されていた。1948年に制定された医師法で、「医師は自ら診療しないで治療をしてはならない」と定められているためだ。しかし、IT(情報技術)の進歩やニーズの高まりを背景に、法解釈を変えることで段階的に解禁されてきた経緯がある。

 1997年にまず、離島やへき地の患者を対象に認められた。2018年には、掛かり付け医による、遠隔モニタリングを目的としたオンライン診療のガイドラインが示される。そして、2020年4月、新型ウイルス感染拡大に伴い、初診から特別措置として認められるようになった。さらに、菅義偉首相が同年10月の所信表明演説で、「デジタル化による利便性の向上のため、オンライン診療の恒久化を推進する」と公約した。

 ただし、本格的な運用がまだ始まったばかりなので、受診がスムーズにいかないこともある。

 先日、筆者自身がひどい頭痛に見舞われた。近所の病院を探したが、あいにく連休中のため受け付けてくれるところがない。そこで、祝日でもオンライン対応可能な病院を検索し、市外でようやく病院を見つけ予約した。

 その後、病院ホームページの診察の受け方を読み直すと、スマホに専用アプリをインストールする必要があることが分かった。電話での診療と違い、アプリで顔を見ながら受診できるらしい。急いでインストールし、ユーザー情報を登録して、病院からの連絡を待った。

 すると、病院からアプリ経由ではなく電話で連絡がきた。「アプリが正常に動いていないようです。今、ベンダーに問い合わせをしているのですが、休日で対応が遅れているので少し待ってください」とのことだった。痛む頭を抱えながら待っていると、再度電話が鳴り、「ベンダーに問い合わせましたが、アプリの修復に時間がかかるそうなので、このまま電話で診察します」と言われた。

 また、医師とのやりとりの中で、薬は郵送されることが分かった。できるだけ早く痛みを抑えたい筆者は、「休日でも開いている薬局が近くにあるので、ファクスで処方箋を送ってほしいのですが」とお願いしてみた。しかし、「当院はそのような対応はしていません」と言われてしまう。結局、その日は痛みに耐え、翌日郵送されてきた薬を服用した。

 後日調べてみると、オンライン診療の通信手段や薬の出し方などは実にさまざまだ。前者では、CLINICSやcuron、PocketDoctor、YaDocといった多数の会社が提供している。つまり、利用者は病院が利用するシステムに応じて、アプリケーションのインストールや初期設定をしなければならない。

 その都度手間がかかる上、筆者のケースのようにシステムに不具合が発生するリスクもある。IT機器を使い慣れていない人にはハードルが高いだろう。そうでなくても、体調が悪い中で診療の手順を理解し、アプリを設定するのは大変だ。利用が広がるためには、アプリの使い勝手を改善したり、薬の出し方などを分かりやすく広報したりする取り組みが必要だろう。また、「未病」の段階でアプリなどを用意できればよいと思う。

 新型ウイルスの「第三波」というべき状況に懸念が強まる中、オンライン診療への期待は一層高まっている。今回指摘した課題を解決しながら、使い勝手が改善され普及することを切に願う。

写真期待が高まるオンライン診療(イメージ写真)
(写真)筆者

田中 美絵

TAG:

※本記事・写真の無断複製・転載・引用を禁じます。
※本サイトに掲載された論文・コラムなどの記事の内容や意見は執筆者個人の見解であり、当研究所または(株)リコーの見解を示すものではありません。
※ご意見やご提案は、お問い合わせフォームからお願いいたします。

戻る