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脳科学から見たリモートワーク環境

=「3つの脳」の役割で浮かび上がる課題=

2020年10月19日

新型ウイルス

研究員
米村 大介

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、自宅でリモートワークを始めてから早半年。この間、筆者が感じた最大のメリットは、生後10カ月になる娘と過ごす長い時間だ。

 娘と時間をともにすると、乳児の持つ「人を動かす力」には驚かされるばかりだ。例えば、彼女がベビーカーから手を振ると、知らない人でも笑顔を向けてくれる。指をくわえると、周囲の大人がミルクを持っていく。そして泣き出せば、大人はオムツ片手に駆け付ける。

 娘の発するシグナル1つで、彼女が何をしてもらいたいかがよく分かる。一方、大人は嫌な気分にもならず、自然に体が動く。だから、ミルクやオムツのシグナルをキャッチすると、筆者や妻だけでなく、それぞれの親も先を競って準備に入る。娘は言葉を話さなくても、自分の望む方向で周囲からサポートを引き出すのだ。もし彼女が社会人ならば、職場で人を動かす力は相当高いと思う。

 最近、筆者がリモートワークで感じる最大のデメリットは、この「人を動かす力」の弱さだ。同僚との打ち合わせでは、十分な資料を用意し、言葉を尽くして説明しても、対面と比べればもどかしいことが多い。これは相手も同様であり、「打てば響く」といった状態には程遠い。

 そう考えると、人を動かす力には言葉だけではない。別の「何か」がありそうだ。また、リモートワークが急速に普及した以上、その課題を整理する必要があるだろう。そこで本稿では、脳科学の概念に基づいて、リモートワークの抱える課題を分析してみたい。

仲間意識を強める「情動脳」

 米国の医師で神経科学者のポール・D・マクリーン(1913〜2007年)によると、脳の役割は大きく分けて3つあり、それぞれ「情動脳」「理性脳」「反射脳」と名付けられた。

 そして、それぞれの脳がユニークな機能を持ち、互いに連動しながら主観を創り出す「3つの脳」を提唱した。脳科学の分野では、未解明なことが多いが、3つの部位によって役割が分かれるというマクリーの学説は概ね受け入れられている。

図表.png「3つの脳」と部位
(出所)リコー経済社会研究所

 この学説に従えば、筆者の娘は毎日、周りの大人の情動脳に働き掛けているようだ。情動脳は、脳の中心部を包む部位(=大脳辺縁系)に位置し、特に哺乳類で発達している。その役割は、五感からの刺激を「実感」として受け止めること。また、「泣く」「笑う」といった感情の発露を仲介することで、周囲に共感を生み出す。弱い存在である娘からの情報を、周囲にいる人間の情動脳が敏感にキャッチしているのだ。

 そもそも人間は、仲間が発する多種多様なシグナルに応えることで快感を覚える。それを繰り返すうちに仲間意識が強まり、連帯感や責任感が生まれる。ところがリモートワークでは、五感を通した同僚からの情報は限定的。同僚がどんな環境で何を行い、どんな反応をしたのか...。会話以外から得ていた「小さな共感」は極めて少ない。

 かくして情動脳が刺激を受ける機会が減る結果、組織内での仲間意識が希薄化し、お互いを動かす力が弱くなるのではないか。

情動脳には「高速な情報処理能力」も

 それだけではない。脳が十分なパフォーマンスを発揮するためには、そもそも情動脳の働きが欠かせない。ここでは2つの研究を紹介しよう。

 その1つが仏グルノーブル大学のトーマス・ガンツ教授の研究。数学やチェスのように論理力が重要とされるものでも、高度な問題や困難な局面になればなるほど情動脳の部位が強く反応していることが分かった。

 また、米コロンビア大学経営大学院のミシェル・ファム教授は、①論理的に考えるグループ②直観的に考えるグループ―に分けた上で、それぞれに株価や大統領選挙、大学フットボールの試合などさまざまな予測をさせる実験を行った。すると、的中率は情動脳を活発に働かせる②のほうが高かったという。

 なぜ、こうした結果になるのか。多くの科学者が指摘するのは、情動脳の強みである「高速な情報処理能力」だ。数学の問題を解いたり、チェスの手を考えたり、株価を予測したりする際には、経験や五感で感じた膨大な情報を集めるだけでなく、それらをフル活用するための処理能力が欠かせない。情動脳はその役割も担うのだ。

 ここで情動脳がどのように情報処理を行うのかを、クイズ形式で紹介したい。まずは、下記の図を5秒間見つめた後、隠してほしい。

図表.pngあなたの情動脳は果たして?
(出所)リコー経済社会研究所

 さて、上記の図の中に入っていた単語はどれだろうか。①雪国 ②センジ ③ハイヒール

 答えはセンジだ。「引っ掛け問題」と勘繰った人を除けば、ハイヒールと答えた人が多いのではないか。なぜなら図の中の単語は、センジ以外すべて「履く」に関するものだからだ。

 普通の人は5秒間で19個の単語を文字として覚えられない。しかし、情動脳はその5秒間で単語群の意味を抽象化できる。つまり、「履く」のカテゴリ―として認識した上で、ハイヒールがそれに最も近いという判断になる。

情動脳を制御する「理性脳」

 ここまでは、リモートワークのデメリットを論じてきたが、決して悪いことばかりではない。むしろ「理性脳」には、良好な環境といえそうだ。

 理性脳は、論理的に考えたり、計算したりする役割を担う。また、情動脳をコントロールする機能もある。その活動は周囲の雑音に邪魔されず、集中できる環境でより能力を一層発揮する。このため、リモートワークは物事を深く考えたり、プログラムを作成したりするような作業に向く。

 さらにリモートワークは、理性脳の最大の課題である持続力にも都合がよい環境といえそうだ。理性脳は情動脳をコントロールすると、すぐ疲労してしまう。これが「自我消耗」だ。それを回復させるには、音楽鑑賞や軽い運動が有効だとされる。オフィスでは気軽に行いにくくても、リモートワークなら比較的容易なはずだ。

縄張りをつくる「反射脳」

 ただし、そこには落とし穴もある。リモートワークでは上司や同僚の目が届かず、勝手知ったるわが家は「縄張り」になる。だから自制が緩んだ瞬間、仕事の効率は格段に落ちてしまう。

 実は、この心地よい縄張りづくりには、脳の中心に位置する「反射脳」が影響を及ぼし、生き物が生存するための活動を司(つかさど)る。その活動の1つが「模倣」である。例えば、縄張り内にいる人の真似をすることによって、組織で働く人の仕事のやり方は似てくるほか、一体感も生まれやすい。だがリモートワークでは、こうした組織の特性は失われがちだ。

 今回は「3つの脳」という視点から、リモートワークの特徴を分析した。beforeコロナの生活には容易に戻れない以上、withコロナ時代のリモートワークの課題を整理・解決しながら、働く人の幸福度・満足度の向上を追究していきたい。

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※この記事は、2020年9月30日発行のHeadLineに掲載されました。

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