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在宅勤務に導入したガラス瓶の「庭」

=バイオフィリアで心地よい仕事場に=

2020年09月03日

新型ウイルス

研究員
西脇 祐介

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、筆者が在宅勤務を始めてから半年余。途中、長期戦の覚悟を決め、大型モニターや無線LAN用ルーターを買い足したり、納戸を仕事場に改造したり...。悪戦苦闘の末、まずまずの在宅勤務環境が出来上がった。

 世の中で在宅勤務が一気に普及する一方、心身に変調をきたす問題も出てきた。連日のウェブ会議がもたらす「Teams(あるいはZoom)疲れ」のほか、同僚との接触が減って「コロナ鬱(うつ)」も取り沙汰される。

 家庭でも課題が生じた。在宅勤務と家族と過ごす時間の両立が、予想以上に難しいのだ。コロナ禍が続く中、楽しみだった家族との外食が制限される上、ちょっとした外出でもマスク着用や手洗いが義務に。感染予防の対策を常に怠れず、家庭内のストレスが増大する。このため、妻や子どもの理解や協力がなければ、円滑な在宅勤務は望むべくもない。

 そして、何よりも「見えないゴール」が最大のストレス発生源となる。経済停滞で先行きの視界が開かれず、精神状態が不安定になっても無理ないと思う。実際、厚生労働省精神保健福祉センターでは、新型ウイルスに起因する心の健康相談件数が急増している。2020年2、3月は合計で1742件にとどまっていたが、4月には4946件と急増。5月以降も高水準が続く。

新型ウイルスに起因する心の健康相談件数

図表(出所)厚生労働省精神保健福祉センターを基に筆者

 コロナ禍と長い梅雨でストレスが強まった7月半ば。運動不足も気になり、5カ月ぶりにサイクリングに出掛けた。その道中、自然豊かな公園を偶然発見し、その「緑」の美しさに目を奪われ予定外の休憩をとった。そこでは緑と水に引き付けられるように、カマキリやアメンボ、チョウ、クモ、トンボが戯れ、池ではザリガニ釣りの子どもが歓声を上げていた。時間の流れが実にゆっくりと感じられる。この心地よさはいつ以来のことか...。気が付くと、在宅勤務でずっとモヤモヤしていた気持ちが吹き飛んでいた。

写真サイクリング中に立ち寄った公園

 自然にはやはり、人の心をリフレッシュさせてくれる不思議な力がある。人間は本能的に自然とのつながりを求めるというのが、「バイオフィリア」という考え方だ。それは職場にも映し出されており、オフィスに置く観葉植物はその一例である。

 その効果について、興味深い研究を見つけた。ノルウェー生命科学大学のルース・ケアスティ・ラアナス教授らが、公共機関や民間企業に勤務する従業員565人を調査。すると、「勤務時間中に職場内で自然と触れ合うほど、仕事のストレスや病気による欠勤が少なくなる」という結果が出たというのだ。同教授らは職場環境に植物を追加、あるいはブラインドを開けて自然光を活用といった、従業員のための健康経営を推奨する。

 また、地球環境に配慮した住宅用床材などを扱う、米インターフェイス社が世界16カ国で行った調査も面白い。その結果によると、オフィスで植物や自然光などが身近に存在する労働者の幸福感(ウェルビーイング)は、身近に存在しない場合に比べて15%も高い。生産性と創造性もそれぞれ6%、15%アップするという。

 サイクリングで偶然立ち寄った公園の「緑」がヒントになり、自宅の仕事場にもバイオフィリアを導入することにした。ストレスが溜まって心の色がグレーの時には、明るい緑で塗り変えたい。そう思い立ち、インターネット通販で「苔(こけ)テラリウム」のキットを購入した。ガラス瓶に土を入れ、石を並べて苔を植えると、ちっぽけだけど独り占めできる「庭」が誕生した。在宅勤務の合間、ふと目をやると時間の流れがゆっくりになり、公園で感じた心地よさがよみがえる。

写真自作の苔テラリウム

(写真)筆者

西脇 祐介

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