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外出自粛だからこそ欲しい正確な情報

=新型コロナウイルスと戦うために=

2020年05月11日

新型ウイルス

リコー経済社会研究所 顧問
中村 昌弘

【メール①】「今回のウイルスは耐熱性がなく、●●~●●度の温度で死にます。 そのため、お湯をたくさん飲む、お湯を飲ませれば予防できます」

【メール②】「亡くなった人の大多数は自分の持っている解熱剤●●●などを服用しました」


 この2通のメールは、いずれも筆者の家族の知人から転送されてきたもの。言うまでもなく「怪情報」であり、決して信じてはいけない。だが専門的な内容のメールが、信頼している人やいつも情報交換している人から来ると、つい信じてしまいがちだ。

 新型コロナウイルスの感染が拡大する今回に限らず、緊急事態下では多くの怪情報が拡散する。それはなぜなのか。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科の碓井真史教授のホームページによると、怪情報には①情報自体が重要②状況があいまい③人々の不安が高い―という共通点がある。人間には自分の気持ちに沿って情報を集める傾向があり、それを他人に伝えたいという欲求があるので拡散するという。

 まさに、今はその状況にある。何が正しいのか分からないとき、命にかかわったり、不安を解消したりする重要な情報が流れてきたら、それを自分の親しい人に届けたいと思うのが人情だろう。さらにネット社会の進展により、簡単に遠くまで大量の情報を拡散できるのも怪情報が蔓延する要因となる。

 では、怪情報か否かをどう見抜くのか。これまでの経験から筆者なりに着目している点がある。①出自が不明②権威を装う③日本語として不自然―の3つだ。こうした視点で冒頭に紹介したメールを読むと、怪しさがプンプン匂ってくる。はやる気持ちを抑え、届いた情報の正しさを見極めることが、自分が怪情報の発信源にならないための術だと思う。

 その一方で、今回は正確な情報を自ら収集し、アップデートしておくことも重要だと痛感した。新型ウイルスは当初、「人から人への感染は確認されていない」「若い人への影響は小さい」などと喧伝(けんでん)されていた。ところが後に覆されたり、直近でも濃厚接触の定義が変わったりした。世界保健機関(WHO)や国立感染症研究所など国内外の権威ある組織でさえ、最新の知見に基づいて情報をどんどん更新する。注意しておかなければ、古い情報に依存して判断してしまう危険性がある。

 加えて、こうした情報を整理整頓することも必要だ。上記のような権威ある発信源からは、マスコミやネットを通じて情報が断片的に流される。しかし、そこだけ切り取ってしまうと、全体像を見誤る可能性もある。ともすれば、人間は自分のアクセスしやすい情報に頼ったり、都合のいい話に耳を傾けたりする傾向があるからだ。

 それを避けるためにも、政府には情報発信体制の一元化を一刻も早く実現していただきたい。現状でも、厚生労働省のホームページ「新型コロナウイルス感染症について」を見ると、発生状況や政府の対策、医療提供体制、予防のお願いなど一通りの知識を得られる。ただし、関連情報が多岐にわたるだけに、知りたい情報へのアクセスに手間取ることが多い。

20200511a.png日々更新される新型コロナウイルス関連の情報
(出所)厚生労働省ホームページ

 例えば、このウイルスの特性を知りたい場合、「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A」で一般向けの簡単な記述はあるが、詳細情報を提供する日本ウイルス学会のホームページのリンクは見つけられなかった。またマスクの効用を探し始めても、なかなか見つからない。ようやく同じ厚労省のホームページの中に、2008年9月公表の情報を発見した。これもリンクさえあればずいぶん助かるのだが...

 今回のように未知のウイルスを相手にする場合、どこまで解明されており、どこまで不明なのかも知りたい。例えば、発症前後での他の人にうつす感染率の違いなど、このウイルスの特性や感染メカニズムを可能な限り整理してもらいたい。そうすれば不安感も幾分和らぐだろう。

 その意味で、緊急事態宣言に基づく外出自粛要請についても、もう少しきめ細かい情報が欲しい。連日、政府は外出自粛を訴え、マスコミも繁華街の人出増減を盛んに報道する。しかし、あまりに外出自粛を強調すると、「都心や遊興施設に行かなければよいのか」と勘違いする人が多くなりかねない。実際、どうしても必要な用事で街に出ると、郵便局の時間外窓口で大勢の人が行列を作っていた。スーパーの混雑は尋常ではない。平日の公園も運動不足解消を求める人でにぎわう。

 こうした外出は「不要不急」に当たらないが、状況によっては「3密」になり、感染リスクが高まりかねない。テレビやネットで飛沫拡散のシミュレーションなどをもっと頻繁に繰り返してもらえれば、人々はもっと注意するのではないか。今やるべきは外出自粛というより、接触自粛なのである。どういう接触が危険なのか、それを理解してもらうことが大事だと思う。

 新型ウイルスとの戦いにおいて、感染リスクを減らす一番の手段は感染源に近づかないことだ。しかし厄介なことに、無症状の人も多いため、知らず知らずのうち感染者に接触している可能性がある。

 だから、この難敵に打ち勝つためには、IT(情報技術)をフル活用して情報武装する必要がある。例えば、感染者が立ち寄った場所を特定できれば用心できるし、不安感の解消に役立つ。具体的には、感染者の移動経路やその集中する場所を可視化した上で、雨雲レーダーのようなイメージで危険度レベルを表示するのだ。台湾などではスマートフォンの位置情報を使い、こうした情報提供を実施済み。日本では、プライバシーの問題など越えるべきハードルは低くないが、本人同意や個人情報の秘匿などを絶対条件とした上で真剣に議論する時がきている。

 正確な情報を手に入れ、正しく恐れ、冷静に行動する―。それこそが、今できる最良の戦い方ではないだろうか。


中村 昌弘

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