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各国で高まる「最低所得保障」への関心

=新型ウイルス・現金給付が契機に=

2020年04月21日

新型ウイルス

研究員
芳賀 裕理

 将来、人工知能(AI)が普及すると、人間から多くの仕事が奪われるかもしれない。そうなると、すべての人に必要最低限の現金を給付する「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI=最低所得保障)」の導入が必要になる可能性が指摘されてきた。

 米大統領選の民主党候補指名争いでも、台湾系の実業家アンドルー・ヤン氏がUBI実現を公約の柱に掲げて戦った。だが支持を拡大できず、2020年2月に撤退を表明した。それに代表されるように、米国ではUBIが異端の理論として扱われてきたが、新型コロナウイルスの感染が拡大する今、大きな注目を集めているようだ。

 感染拡大に伴い、米国はロックダウン(都市封鎖)を余儀なくされ、失業者が激増中。このため、トランプ政権は現金給付(=大人1人に最大1200ドル)を実施する。これは危機管理対策とはいえ、UBIの考え方に近い。一方、安倍政権は一律の現金給付に消極的だったが、世論や与野党の要求に押される形で、国民1人当たり10万円を給付することを決定した。これをきっかけに、日本でもUBIをめぐり議論が盛り上がるかもしれない。

 こうした中、2020年4月10日付の米紙ワシントン・ポスト(WP)は「(各国)政府が刺激策を検討する際、UBIは議論の中心を占めるようになった」と指摘する。

 具体例として、WPはスペインを紹介。感染拡大に苦悩する中道左派政権が、国民の大半に何らかの形で所得を保障する計画を示したと伝える。詳細は明らかではないが、一部報道によると月約475ドル相当額を支給するという。同国のナディア・カルビノ経済相はラジオ局のインタビューで、「(UBIは)この異常な状況のためだけでなく、恒久的に維持することで有益になるはずだ」と指摘した。

 そして米国でも、2兆ドル規模の新型ウイルス対策の柱として、前述したように1人1200ドルの現金給付が決定した。しかし、ヤン氏を含めて野党民主党には、1回限りの支給では危機対策として不十分だという批判が多い。

 これに関して、サンディエゴ大学の倫理学・経済学・公共政策センターの責任者であるマット・ズバリンスキー氏は「家庭や事業を維持し経済の崩壊を防ぐために、米国民は党派を超えて政府に巨額の財政支出を求めている。不確実性が増大し変化が急激な時代においては、現金支給が最大の柔軟性を提供する方法だとの認識が高まっている」と指摘する。

 一方、ヤン氏は「UBIが万能薬ではなく、政府に求められる最低限の努力であり、それによって米国民の日常生活が向上するとみるべきだ」と主張する。また、国民の健康管理や失業のセーフティーネットにおいては、北欧諸国が米国の先を進んできたと指摘。その上で、「米国でもUBIを上回る一層強固なセーフティーネットを構築するよう進むべきだ」と強調している。

 また、ヤン氏は大統領選撤退には全く後悔がないとしながらも、「(UBI導入という)選挙戦での主張に関する期待が今、劇的なまでに大きくなったことは確かだ」と付け加える。

写真「1人1200ドル」を決断した米政府・議会(イメージ写真)
(写真)中野哲也

芳賀 裕理

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