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「人材管理システム」で社員の特徴・適性を「見える化」

=ビッグデータを分析、急増する「変数」に対応=

2020年04月10日

新型ウイルス

研究員
米村 大介

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、企業社会では在宅勤務の普及が一気に加速している。ただし、社員の管理が難しくなるとも指摘される。そもそもコロナショックの以前から労働力不足を背景に、少ない人員で高い生産性を実現する人事政策が喫緊の課題になっていた。こうした中、ビッグデータを活用した「人材管理(=タレントマネジメント)システム」が注目を集める。その仕組みと期待される効果などについて、「タレントパレット」を独自開発したプラスアルファ・コンサルティング社(本社東京)の鈴村賢治取締役副社長にインタビューを行った(インタビューは2020年2月4日)

写真プラスアルファ・コンサルティング社
鈴村賢治取締役副社長
(写真)筆者 RICOH GRⅢ

 ―タレントマネジメントシステムの定義を説明してください。

 社員の経歴やスキル、やる気などのマインドといった、さまざまなデータを分析しながら、人材を活用しやすくするシステムです。人事評価や勤退管理だけでなく、キャリア支援(=社員の要望に沿う人事や能力開発)から退職防止に至るまで、幅広く利用できるのが特徴です。

 ―なぜ注目を集めているのですか。

 人手不足が深刻化する中、企業が採用難や離職者増加などに悩んでいるからです。最近はデジタルトランスフォーメーション(DX)に対応するため、従業員のスキルアップを効率的に進めたいというニーズもあります。

 一方で、従来型の人事システムは採用管理や人事評価といった単機能型が大半を占めます。1人の社員にはたくさんの「変数」(=経歴、スキル、マインドなど)があります。このため、現場が「現在活躍している社員に匹敵する人材を採用したい」と要求してきても、今の人事システムではなかなか対応できません。そこで、社員に関わるデータを幅広く集め、包括的に分析する多機能型のシステムが求められるようになりました。

 ―どのようなデータを利用しますか。

 入社以来の業績評価といった、長い時間軸の既存人事情報も重要ですから、その変化をみるために時系列で蓄積します。それに加え、エンゲージメント(=組織への思い入れ)やモチベーション(=動機付け)といった、短期的に変化する「感情情報」もカバーします。将来、ウエアラブルセンサーのような機器によって、こうした情報も自動的に収集できるかもしれません。さまざまな情報を組み合わせて分析することで、従来の人事システムでは分からなかった社員の特徴・適性などを「見える化」できるのです。

 ―分析手法について教えてください。

 実は、企業が顧客向けのマーケティングに用いる手法とよく似ているのです。例えばマーケティングでは、「お客様がこれから売り上げにどれだけ貢献してくれるか」を予測します。採用の分析も、「社員がこれから自社にどれだけ貢献してくれるか」を予測するわけです。別の例でいえば、マーケティングでサービスに対する不満を洗い出してお客様の離反を予防することも、人事で従業員の不満に耳を傾けて退職を予防するのと同じです。

 これまでマーケティングの世界では、担当者の経験と勘が頼りでした。しかし今や、デジタル化が急速に進み、データを活用しないマーケティングは想像もできません。担当者が「経験上、わたしはこれは売れると思います!」と主張しても、「客観的な根拠を見せてください」と指摘されてしまいます。今後は人事も同じようにデータ活用が常識になり、人事担当者が他の部門から「根拠を見せてください」と求められる時代がやって来るでしょう。

アニメーション人材管理システム「タレントパレット」
(提供)プラスアルファ・コンサルティング社

社員の「変数」が急増、人の手で調整は困難

 プラスアルファ・コンサルティング社の鈴村氏が指摘するように、今後は人事でもデータ活用が常識になり、人材管理システムの普及は必至とみられる。そもそも人事には高度な客観性や正確性が求められる上、働き方改革によって企業が考慮すべき社員の「変数」が急増しているからだ。もはや人の手で調整することは難しい。

 例えば、「職場」の概念が急速に変わりつつある。在宅勤務などのリモートワークは、現下の新型肺炎対策などを機に一段と普及する兆しがある。社員の勤務時間・場所などは一層多様になる半面、労務管理は複雑化する。副業の解禁に伴い、社外の仕事と掛け持ちする人も「変数」が一気に増える要因だ。

 また、人手不足の中で優秀な人材をつなぎ止めるには、ライフステージに応じた社員の要望に対し、細かく応えなければならない。例えば、「向こう10年間は子育てを優先し、その後は海外勤務を希望する」「若いうちは東京で経験を積みたいが、歳をとったら地元にUターンして働きたい」といったさまざまな要望を集約した上で、最適なチームを編成する必要がある。

 ところが、社員の変数が数個増えただけでも、企業内の組み合わせは膨大な数になる。人間の計算能力はもちろん、現在のコンピューターでは処理が追い付かない。このため将来は、「組み合わせ最適化」計算が得意な超高速の量子コンピューターを活用しながら、人事管理を行う日が訪れても不思議はない。

図表企業が考慮すべき社員の「変数」は急増
(出所)リコー経済社会研究所

米村 大介

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