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一色に染まらないで...わたしの「アメリカ」=「ライティング講座」優秀作品①

2017年02月24日

研究室から

(株)リコー 取締役会室
内田 絵理


 リコー経済社会研究所はリコーグループの中堅・若手社員を対象に、「ライティング講座」を開催しています。その受講生が書いたコラムのうち、優秀な作品を随時掲載します。(主席研究員 中野哲也)



 色とりどりの髪の毛に、キラッと光る宝石をおへそにつけた「トロールドール」を知っているだろうか。一種類ずつ色が違うこの人形の髪を撫でると願いがかなうといわれる。1990年代初期に爆発的な人気を博した、アメリカ製の手のひらサイズのビニール人形だ。

 私はアメリカの田舎で過ごし、この人形に魅せられた。当時のクラスメイトとお気に入りの色のトロールドールを自慢しあい、時には交換しあったものだ。あれから20年以上...。今でも小学時代を振り返る際には、心の中にキラキラと輝いていた幼少期と、色とりどりの髪を持つ人形がよみがえり、無性に懐かしくなる。素晴らしい時間をくれたアメリカは、私の憧れとして今も輝き続けている。

 私は父の仕事の関係でアメリカ南部にある全米でも比較的「保守派」といわれるテネシー州ナッシュビルの近郊で幼少期を過ごした。カントリーミュージックやバーボンウイスキーのジャックダニエルで有名なこの地域は、典型的な白人社会だった。通っていた小学校ではクラスメイトの9割が白人、残りの1割がアジア系やユダヤ系、先住民族のインディアン系だったと記憶する。

 こうした状況でも、当時の私は日々の生活やクラスメイトとのやり取りに違和感はなく、楽しく過ごした。今思うと時々、多少の人種差別はあったのだが、気になる程のものではなかった。人形を集めて友人と一緒に盛り上がる普通の小学生であり、クラスメイトもアジア人の私を普通に受け入れていると感じていた。

 ただ、キラキラと輝く楽しいアメリカ生活の中で、記憶の中に鮮明に残る二つの大きな「事件」がある。

 一つ目は銃との遭遇である。ある日、友人のニコール宅に招待され、その家族と食事をしていた時のこと。彼女の父親が「エリに見せたいものがある」と言い、私を別室に連れて行った。そこには、大小さまざまなサイズの無機質な銃たちが鈍い光を発しながら、隙間無く壁一面に飾られていた。彼は自慢げに一つひとつを紹介し、家族も嬉しそうに見ていた。その中で私だけが、発すべき言葉を見つけられなかった。

 同じころ、1992年のハロウィーンで衝撃的な日本人留学生射殺事件が発生した。全米の日本人コミュニティーに大きな衝撃と恐怖をもたらした。日本のニュースでも大きくとり上げられたが、アメリカ本土ではさほど大きな話題にならなかった。銃が社会に浸透し、生活の一部として溶け込んでいる事実を、幼いながら気づいてしまう出来事だった。

 二つ目は、宗教と科学の対立である。前述したように、白人社会であってもクラスメイト達は日常生活の中で人種の多様性を受け入れているように見えた。ところが、宗教に関係するトピックスに関しては非常に敏感であり、緊張や摩擦が生まれることもあった。

 社会科の授業の後、隣に座っていた友人のページと「人類の始まり」について話すことになった。私は日本人学校で習った理科や社会の授業での記憶を基に、「人間は猿が進化した形だ」と話した。すると、彼女は顔を真っ赤にして「No!人間はGodの創造したものだ」と真っ向から反論してきたのだ。私が生まれて始めて経験した「文明の衝突」である。結局、お互い譲らず、その日はケンカ別れになってしまった。

 後々知るところでは、私の住んでいた地域は「バイブルベルト」と言われる一帯にあった。一時は進化論を教えることさえ禁じられていたほど、キリスト教や聖書をめぐる論争が絶えない地域なのだという。ページとの一件によって、「何事も先進的で人種や宗教にも寛大」という、心の中のアメリカのイメージは変質してしまった。

 多人種多宗教国家といわれるアメリカ。国民一人ひとりがお互いの価値観や宗教を尊重しあい、調和の取れた社会が築かれているように見える。だが、その均衡を保つことは容易ではない。

 今、トランプ大統領が「We Will Make America Great Again」とうたい上げ、この国を大きく変革しようとしている。彼は現状に不満を持つ白人中間層からの強力な支持を背景に、銃規制や宗教についても影響力を行使するだろう。

 米国のメディアによると、彼は自己防衛を目的にした銃社会を認め、教会が政治に関与することを制約する「ジョンソン修正条項」の撤廃を示唆しているという。「移民の国」あるいは「人種の坩堝(るつぼ)」といわれるように、多様性を原動力として成長を続けてきたアメリカ。その国が今、「逆回転」を始めたように見える。

 カラフルでキラキラしていたトロールドールは私のアメリカへの憧れの象徴。髪や肌の色の違いを乗り越え、色んな考えの国民がいるからこそ、世界中からリスペクトされてきたはず。どうか一色のみに染まらないでほしい。

170220uchida_650.jpg楽しさと不安が入り交じったハロウィンの思い出(米テネシー州の公立小学校)


(写真)筆者

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