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5000年前の土器を見ると...人間はAIに負けない!

【産業・社会研究室】 Vol.10

2017年01月25日

研究室から

主任研究員
貝田 尚重

 一昔前まではSF映画の中のことのように思っていた人工知能(AI)やロボットが、知らぬ間に私たちの生活にスルリと入りこんできている。自動運転や介護ロボットなどは、人間の機能を補助する役割が期待される。一方で、いずれ人工知能が人間を凌駕し、「人間が働く場を失うのではないか」「ロボットが地球を支配する日がやって来るのでは」というそこはかとない不安もよぎる。

 この年末年始も、囲碁の世界で人工知能が話題を呼んだ。プロ棋士がハンドルネームで登録して練習対局をする囲碁サイトで、「マスター」を名乗り、破竹の60連勝を重ねる謎の棋士が現れたのだ。その後、「マスター」は2016年3月に世界最強レベルの韓国人棋士イ・セドル九段を破った英ディープマインド社の人工知能ソフト「アルファ碁」の改良版だったことが明らかになった。勝ってもなお改良を目指す人工知能、恐るべし。

 ところで、東京・渋谷駅からほど近い國學院大學博物館は、2016年2月5日まで「火焔型土器のデザインと機能」と題した特別展が開催され、新潟県長岡市や津南町で出土した縄文時代の火焔型土器26点と同時期に出土した土偶や装飾品などが展示されている。

 縄を押し当てて模様をつけた典型的な縄文土器とは異なり、火焔型土器はその名前の通り、立ち上る炎のように力強く隆起した独得のデザインが特徴だ。今から約5000年前に新潟県の信濃川中流域に当たる長岡市や十日町市、津南町などを中心に、北は山形県、西は富山県、東は福島県会津地方まで広い地域で製作された。4本足の動物をデフォルメして表現としたと考えられる4つの把手や、口縁部にある鋸の歯のようなギザギザの隆起、紐状の粘土を押し付けて作ったS字や渦巻状の文様など、全ての火焔型土器に共通する規格がある。


20170118土偶1_750.jpg特別展の火焔型土器


 つまり、火焔型土器はたまたまデザインセンスの溢れる人が気まぐれに製作したわけではなく、高度で複雑なデザインを規格化し、技術を伝承し、継続的に制作する文化が存在していたことを意味する。紙や文字が発明されるよりもはるか昔の、竪穴式住居での生活様式は現代人から考えると原始的だが、高度なコミュニケーション能力と豊な芸術表現力を持っていたのは間違いない。

 過剰なデザイン性は、鍋や食器としての機能にはマイナスのように思える。しかし、多くの火焔型土器は竪穴式住居跡から見つかり、信濃川を遡上するサケなどの海産物を煮炊きした焦げ後が残っているそうだ。実用一辺倒ではない、デザインや流行を楽しむ感情も備わっていたのだろう。

 國學院大學博物館副館長の内川隆志教授は「世界各地で出土する先史時代の土器の中で、日本の縄文文化は飛び抜けてデザイン性が高く、独創的。中でも、火焔型土器のデザイン性の高さは群を抜いていて、縄文の時代から高いコミュニケーション能力、表現能力を持っていたことを端的に表している」という。

 瞬時の情報処理や記憶の容量などでは人間はコンピューターに勝つことはできないだろう。しかし、火焔型土器の力強いデザインからは、人間にはコンピューターや人工知能とは比べることができないとてつもない力が備わっていると実感できる。5000年以上も前から、コミュニケーションし、伝承し、流行をつくり、時に機能性を無視したデザインを楽しむ遊び心を発揮する。人工知能やロボットと共存を求められる現代の世界の中で、私たち人間がどんな方向に力を発揮すべきなのか。太古の昔に戻ったところに、そのヒントが隠されているような気がしてならない。

 國學院大學博物館は渋谷駅から徒歩15分。特別展終了後も、常設で3点の火焔型土器を展示している。他にも鏃(やじり)などの石器、縄文式土器や弥生式土器、馬や武人をかたどった埴輪、銅鐸、銅鏡など圧倒的な数の考古学資料の実物が展示されている。入場無料。日本の博物館としては珍しく、館内での写真撮影が認められているため、埴輪と記念撮影もできる。

20170118土偶2_600.jpg常設で展示されている埴輪


(写真)佐々木 通孝


http://museum.kokugakuin.ac.jp/
(開館スケジュール、企画展などの情報はウェブサイトで発信している。また、撮影禁止エリアもあるため、館内の表示に従う)
  

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