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複雑怪奇な米中新冷戦を多角的に分析

【書評】米中分断の虚実(宮本雄二・伊集院敦 日本経済研究センター編著、日本経済新聞出版)

2021年08月19日

内外政治経済

研究主幹
中野 哲也

 57年ぶりに東京で開催されたオリンピックが閉幕した。新型コロナウイルス感染拡大に伴い緊急事態宣言が発令中の都内では、行動自粛を余儀なくされる市民生活と、アスリートが肉体を躍動させて運動能力の限界を競い合う「地上最大の祭典」が同時進行していた。現実世界の中に突如登場したこのパラレルワールド(=並行世界)には、バーチャルリアリティー(VR=仮想現実)のような不気味な感覚を拭えなかった。

 異例の東京五輪は功罪相半ばする。功を1つ挙げるとすれば、世界中がコロナ禍に苦しむ中、200を超える国・地域からアスリートが集まり、絆(きずな)を確認できたことかもしれない。新冷戦下で対峙(たいじ)する米国と中国も大選手団を東京へ送り込み、同じルールの下で競い合った。金メダルの数は米国が39個を獲得してトップに立ち、中国は前回リオ五輪から12個増やして38個の2位と肉薄した。

 米中がメダル競争で鎬を削るだけなら天下泰平だが、並行世界の世界運動会が終われば、現実世界の新冷戦が再び浮き彫りになる。五輪閉幕の2日前、オンライン形式で開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議でそれが証明された。NHK「NEWS WEB」によると、米国のブリンケン国務長官が「中国は、抑止のために核兵器を保有するという長年の自国の核戦略から逸脱し、急速に核戦力を増強している」と発言し、習近平政権に鋭いジャブを放った。

 これに対し、中国の王毅外相も「他国に自らの好き嫌いを押し付けたり、民主主義と人権を装って、内政に干渉し、自らの地理的な利益を求めたりしてはいけない。東アジア諸国の歴史では、ほとんどの国が大国にいじめられるという共通の経験を持っているが、今の時代に教師面をするものや、救世主は必要ない」と応戦。名指しこそ避けながらも、バイデン政権にカウンターパンチを見舞った。

 世界は今、コロナ禍と同時に米中新冷戦という危機に直面する。とりわけ日本は米国の核の傘の下での安全保障政策を生命線とする一方で、輸出入ともに最大の相手先は中国である。両大国の狭間で、日本は政官財や市民が英知を振り絞らなければならない。容易に「解」が見つかるはずもない超難題とはいえ、「不都合な真実」から目を背けていては国家存続の危機に陥るだろう。

 その不都合な真実を多角的に理解する上で、「米中分断の虚実」(宮本雄二・伊集院敦 日本経済研究センター編著、日本経済新聞出版、2021年6月)は非常に役立つ良書である。かつての米ソ冷戦は一触即発の危機をはらんでいたものの、資本主義・市場経済vs共産主義・計画経済という図式で概ね把握できた。

 これに対して現下の米中新冷戦は、両国が経済的に密接な関係を築いた上での対立だから、関連分野が多岐にわたる連立方程式になる。それが問題を複雑怪奇にしているが、本書はその方程式の一つひとつに丁寧に向き合い、それぞれの分野の第一人者が質の高い分析や洞察を提供する。

写真(出所)版元ドットコム

 例えば、編著者の宮本雄二・元中国大使は本書の序章「米中デカップリング論への視点」の中で、少子高齢化の加速などに伴い「中国の黄金時代は、あと10年?」と問題提起する。中国の経済成長率が2025年には5%を切り、30年代に入ると2~3%となり、世界平均の約4%を下回ると予測。それ故、中国共産党は「社会主義現代化」つまり先進国の仲間入りを実現する時期について、建国100周年の2049年から2035年に前倒ししたのだと分析している。

 宮本氏は、この中国の「焦燥感」が「米国にキャッチアップするために残された時間も、この10年しかないという思い込みにつながる」と指摘する。その上で、「これからの10年、中国の軍事力は増強され続けると想定しておくべきだ」と警鐘を鳴らしている。

 その一方で、宮本氏は「中国は米中分断を決して望んではいない」と見る。だから、日米欧をはじめ国際社会に対し、「中国の誇りと面子に十分配慮した出口戦略を今から構想しておくべきだ」と提唱する。これは「中国への弱者の屈服」ではなく、「自分たちの力を信ずる賢者の知恵なのである」と力説している。米中新冷戦はともすれば単純な二分法に陥りがちだが、宮本氏は建設的かつ現実的な選択肢を提示しており、傾聴に値すると思う。

 このほか、本書は米中新冷戦について多様な角度から分析を試みている。「米中技術覇権競争と日本の経済安全保障」「米中気候協力の行方」「米中分断下での日本のバリューチェーン」「台湾にみる米中ハイテク分断の最前線」などについて、各分野の専門家が独自の洞察を示している。一つひとつは点に過ぎないのだが、それを結んでいくとやがて線になり、面として浮かび上がるという充実した読後感を抱いた。

 専門家の記述はたとえそれが正確であっても、一般読者には理解が難しいケースが少なくない。しかし本書においては、難しいことを易しく説明しようという工夫が随所に凝らされており、300ページ超の全編を一気に読み通すことができた。編集作業を担当した編著者の伊集院敦・日本経済研究センター首席研究員(元日経新聞政治部次長・中国総局長)の御尽力に心から敬意を表したい。

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