Main content

正念場の日本経済、調整色を強める新興国

リーマン・ショックから5年が過ぎて

2013年10月01日

内外政治経済

主席研究員
神津 多可思

 このところの世界経済の動向を見ると、米国、欧州などの先進国で、企業の景況感が改善しているのに対し、これまで世界経済の成長を牽引してきた新興国で、総じて景況感が悪化しているのが特徴的だ(図表1、2)。

(図表1) 製造業購買担当者指数:先進国

201310_経済_1.jpg

(図表2) 製造業購買担当者指数:新興国

201310_経済_2.jpg


 米国の証券会社リーマン・ブラザーズ破綻から、この9月で丸5年が経った。この間、米国や欧州では、金融市場の機能停止、それに対する大胆な政策対応、その結果としての財政赤字拡大、さらにその赤字削減に向けての対応という一連の調整を続けてきた。安定的な経済成長に向けた展望が明確化したとまではまだ言い難いが、良い方向には向かっているようだ。

 これに対し、リーマン・ショックの傷跡の浅かった新興国は、欧米経済の低迷を補い、世界の成長を支えてきた。しかし、新興国経済のこれまでの好調は、先進国経済が共通して極めて積極的な金融緩和を推進し、それを受けて潤沢な資本流入が続いたことに助けられた側面もあった。現在、米国で金融緩和の度合いを少しずつ弱めるという方向感にあることから、最近では逆に新興国経済からの資本流出が見られるようになり、それに底流にある構造問題が加わり、新興国の経済運営をより難しいものとしている。

 以下では、このような内外経済の動向を、国・地域別により詳しくみてみよう。


量的金融緩和を絞り始める米国

 米国は、かなり積極的に財政再建に取り組んでおり、議会予算局(CBO)の計算によれば、2013年中だけで、国内総生産(GDP)の1%を大きく超える規模の財政赤字削減が見込まれている。それにも関わらず、米国経済は平均して2%程度の実質成長を続けており、失業率も緩やかに低下している。

 こうした中で、金融政策については超緩和を修正する方向感が出ており、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、現在7%台半ばの失業率が今後も順調に低下し、来年央に7%程度となるのであれば、現在行っている量的緩和を絞り始め、来年央にはそれを終了するとしている。

 もちろん、将来のことには不確実性があり、目論見通りの展開になるとは限らない。だが、少なくとも条件付きではあるが、超金融緩和から普通の金融緩和への移行が議論されるような状況に米国はあると言える。


最悪期は脱したように見える欧州

 一方、欧州を見るとユーロ圏全体では、今年4~6月期に7四半期振りに経済成長がプラスとなった(図表3)。地中海沿岸諸国の財政再建の展望はまだはっきりはしていないが、昨年のギリシャ危機時に心配された共通通貨ユーロの崩壊といった最悪の事態は避けられ、時間はかかるが、問題国において必要な調整がなされていくだろうとの見方になっている。

(図表3) 実質GDP成長率:欧州

201310_経済_3.jpg
 ドイツ総選挙の後、イタリアでも年内にもう一度総選挙が行われる可能性がある。こうした政治日程をこなしながら、財政再建と経済成長の両立に向け、今後とも地道に成果を出していくことができるかどうかが注目される。


困難な調整に臨む新興国経済

 この間、新興国経済は、先進国に比べればかなり高い成長を続けてきた。だが長い目でみれば、成長率自体は低下傾向をたどっている(図表4)。その理由の一つには、経済発展に伴い、より高度な経済構造への進化が求められているということがある。その過程にあっては、往々にして銀行・企業でレバレッジの圧縮が求められるが、上述のように米国の金融政策に変化の兆しが見える中で、その動きは一層加速しそうだ。

 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国(BRICs)、東南アジア諸国連合(ASEAN)といった新興国経済は、今後、より強い構造調整圧力にさらされながら、どう経済成長を続けていくかを模索していかざるを得ない。

(図表4) 実質GDP成長率:BRICs

201310_経済_4.jpg もっとも、新興国の雄である中国では、先行きについての悲観論もなお一部にあるが、電力消費量の推移などからすると、成長率が低下の一途をたどるということでもなさそうである。やはり、引き続き時間をかけつつ、新しい定常状態への軟着陸を目指す展開が予想される。

正念場の日本経済

 以上のような海外経済の動きを踏まえ、最後に日本経済の動きについて見てみよう。日本経済は、昨年10~12月期以降、プラス成長を続けており、今年度は2%台の実質成長となりそうである。こうした中で、来年4月、再来年10月に予定されている消費税増税が、そもそも行われるのか。行われるとして、それを乗り越えて成長を持続させ、デフレ解消を確実なものにできるかということが問題となっている。

 来年4月に消費税率が現行の5%から8%に引き上げられる場合、その前に個人消費、住宅投資などの駆け込み需要が盛り上がり、その後に反動が来るため、2014年度の実質成長率は計算上低くなることが予想されている(図表5)。もっとも、増税前後の駆け込みとその反動という要因を除けば、概ね年率1%半ばの成長が見込まれている。それは、既に見たような海外経済の緩やかな成長、および日本国内における高齢化に伴う労働人口の減少とほぼ整合的と考えられる。

(図表5)民間調査機関の成長率見通しの平均

201310_経済_5.jpg
 一方で、制度面の見直しがなければ、社会保障費を中心に、今後、財政赤字は経済成長率に関係なく拡大し続ける。欧州諸国の例からしても、財政赤字の拡大にはどこかに限界がある。そこに到達してしまった場合、経済の混乱は非常に大きなものとならざるを得ない。しかし、かと言って、増税によって景気後退に陥り、デフレ脱却ができなければ、結局、財政再建も遠のいてしまう。

 このように日本経済も、欧米同様、経済成長と財政再建を両立させる、極めて狭いパスを探そうとしている。もちろん、アベノミクスの第三の矢「成長戦略」による成長率の底上げ、デフレからの脱却に伴う企業活動の活性化などの効果が現れてくれば、平均的な成長率はさらに高まる。また、第一の矢「異次元金融緩和」と第二の矢「機動的な財政政策」によって国内企業の経営環境は改善を見ており、その下でどう企業活動を積極化させていくかによっても、今後の経済全体の成長率は変わってくる。

 安倍晋三首相は、この秋に来年4月の消費税増税を実行するかどうかを見極めるとしてきた。その決断は、長期にわたる低迷から日本経済がついに脱却できるかどうかを左右するものでもある。企業にとっても、この決定的なタイミングに臨み、どう行動するかが問われている。

神津 多可思

TAG:

※本記事・写真の無断複製・転載・引用を禁じます。
※本サイトに掲載された論文・コラムなどの記事の内容や意見は執筆者個人の見解であり、当研究所または(株)リコーの見解を示すものではありません。
※ご意見やご提案は、お問い合わせフォームからお願いいたします。

※この記事は、2013年10月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

戻る