Skip to main content Skip to first level navigation

RICOH imagine. change.

日本 - リコーグループ企業・IRサイト Change
Skip to main content First level navigation Menu
Breadcrumbs

Share

Main content

米大統領選をめぐる世論調査の「死角」

=不可避な「偏り」、分析に「3つの視点」を=

2020年08月03日

内外政治経済

研究員
米村 大介

 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めが掛からず、先行きは依然として視界不良。米国では世界最多の感染者が発生しても、トランプ大統領は場当たり的な対応を続け、批判を浴びている。また、人種差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」も激しさを増す。このため、2020年11月3日の米大統領選への国内外の注目は一段と強まり、選挙予測に関する報道も増えてきた。本稿では、アナリストとして調査会社に勤務した筆者の経験を基に、「地上最大の政治イベント」の予測について私見を述べたい。

 今回の米大統領選では、再選を目指す共和党のトランプ大統領に、民主党のバイデン前副大統領が挑む。選挙情勢を知る上で便利なのが、インターネットサイト「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」。全米の世論調査結果を集計し、その平均値をリアルタイムで公開してくれる。米国のみならず、各国の報道機関にとって「ネタ元」というべき存在である。

 7月30日時点のRCPの全米平均によると、支持率はトランプ氏の41.6%に対し、バイデン氏が49.9%と8.3ポイントもリードする。実は2019年9月以降、バイデン氏が一貫してトランプ氏を上回っているのだ。その差は当初11%を超え、2020年1月にトランプ氏が4ポイント差まで追い上げた。ところが、新型ウイルスの感染拡大とともにその差は広がり、6月後半以降は8~10ポイントで推移する。

トランプ氏VSバイデン氏の支持率(2020年7月30日時点)

図表(出所)Real Clear Politics

 それではバイデン氏勝利と予測してよいのか。優勢であることは間違いない。しかし、必ずしもそう言えないのが、米大統領選予測の難しいところだ。選挙制度が実に複雑なのである。

 日本の選挙では、有権者が当選させたい候補者を直接選ぶ。これに対して米大統領選では、特定候補者(=トランプ氏かバイデン氏か)への投票を約束した「選挙人」を有権者が選ぶ仕組みだ。選挙人の合計は538人。それを全米50州と首都のコロンビア特別区(=ワシントンD.C.)に対し、人口規模に応じて割り振る。そしてほとんどの州では、州全体の得票数が1票でも多い候補者がすべての選挙人を獲得する(=「勝者総どり」方式)。そして過半数の選挙人(270人)を獲得した候補者が、ホワイトハウスへの切符を手に入れる。

 このため、全米の総得票数で下回る候補者が当選する「番狂わせ」が起こり得る。例えば前回2016年大統領選では、民主党のヒラリー・クリントン元国務長官の総得票数がトランプ氏より約290万票も多かった。だが、トランプ氏が獲得した選挙人の数で上回った結果、第45代大統領に就任した。クリントン氏はカリフォルニア州などの大票田で楽勝したものの、オハイオ州などいくつかの激戦州で競り負けたのが響いた。英公共放送BBC によると、米大統領選ではこうした「逆転現象」が過去5回も起きている。

 このため、大統領選の勝敗を占うためには、先に紹介したRCPの世論調査結果に加え、州ごとの分析も必要になる。その際に有用なデータを提供してくれるのが、州レベルの精緻な選挙分析に定評のある「クック・ポリティカル・レポート」。トランプ、バイデン両氏ごとに各州を「盤石」「安定」「優位」「互角」と色分けしながら、選挙情勢を伝える。7月23日時点では、バイデン氏が「盤石」「安定」「優位」の州を押さえれば、仮に「互角」の州で全敗しても過半数の270人を超える見通しだという。

獲得選挙人見通し(2020年7月23日時点)

図表(出所)The Cook Political Report

 このように現時点では、RCPとクック・レポートからはバイデン氏が選挙戦を優位に進めているようだ。だが実は前回大統領選でも、ほとんどの世論調査結果は選挙戦中、クリントン氏優勢を示していた。にもかかわらず、いざ開票してみると結果はトランプ氏が当選。今回も「逆転現象」が起こる可能性があるのか考察したい。

 調査会社勤務時代、筆者は多数の世論調査プロジェクトを実施してきた。その経験からすると、どの世論調査にも特有の「偏り」が含まれる。バイデン氏優勢を示すデータも例外ではない。ただし、その影響を極力小さくすることは可能だ。以下、それに必要な3つの視点を紹介する。

【視点1】結果ではなく変化を重視

 先に指摘した通り、どの調査でも「偏り」は避けられない。仮に全く同じ設問の世論調査を行う場合でも、調査を実施する主体(=調査会社やメディアなど)が変わると、結果も変わってしまうケースは少なくない。例えば、保守層の支持が厚いFOXテレビと、リベラル色の強いCNNテレビが大統領選に関する世論調査を行うと、両社の調査の「偏り」が結果に大きな差をもたらしても不思議ではない。

FOXとCNNの支持率

図表(注)CNNテレビは2月調査非公表
(出所)FOXテレビ、CNNテレビ

 このため、「偏り」を避けられない「数字」の鵜呑みは禁物。「支持率50%だから人口の半分が支持」といった見方は危険なのである。ただしデータのどこに偏りがあるかは、だれにも証明できない。ではどこを見るべきかと言われれば、一定期間内の変化である。同じ方法で実施した調査であれば、同じ偏りを含んだデータ同士は時系列で比較可能になる。

【視点2】前提条件の変化に注意

 調査は同じ形式で繰り返し、実施することに価値がある。そのため、調査の前提条件が変わっている可能性があっても、それが結果にもたらす影響がはっきり見えない限り、調査の全体設計には反映させにくい。

 例えば、米国世論調査協会は2016年選挙でトランプ大統領の誕生を予測できなかった「偏り」として、「黒人投票率の誤算」という仮説を挙げる。2008、2012両年の大統領選ではオバマ大統領(当時)人気で黒人の投票率が大きく伸びた。2016年も前回並みを前提条件としたから、結果を外したという。その検証は難しいものの、確かにありそうな話だ。

 今回の大統領選を予測する上では、前提条件に「偏り」が出そうなのがコロナ禍での郵便投票だろう。米大統領選では有権者が平日に休みを取って投票所に向かう必要があり、時給・日給制の労働者は収入が減ってしまう。郵便投票ならば休みを取る必要がないため、相対的に低所得者からの支持が厚い民主党に有利に働くという見方が多い。郵便投票という「偏り」の影響は見積もり困難なため、頭の中ではその分をバイデン氏に寄せて考えてよいかもしれない。

投票率と家計所得(2016年米大統領選)

図表(出所)Econo Fact

【視点3】調査実施のタイミングを意識

 足元の世論調査結果ではバイデン氏優勢だが、トランプ大統領に有利に働く「偏り」も指摘できる。例えば、新商品のマーケティング調査において、発売前に回答者に質問すると、とりあえず優等生的な回答をする傾向がある。実際、多くの人が「発売したら買いたい」と答えても、発売後に売れた数は「買いたい」といった割合の何十分の一というケースはよくある。

 黒人男性が白人警官に射殺された5月25日の事件後、警官擁護に回ったトランプ氏の支持率は低下した。しかし、それから5カ月以上先の投票日に、事件を理由にして投票先を決める人は減っている可能性が高い。



 これから大統領選の投開票日まで情報洪水が続くため、新聞記事などを読む上で今回紹介した3つの視点がお役に立てば幸いである。果たして今回は世論調査が勝者を当てるのか、それとも「偏り」が死角となり再び想定外の結果が出るのか。インターネット時代の世論調査が信頼性を維持できるか否か、調査マニアにとって目が離せない日が続く。

TAG:

※本記事・写真の無断複製・転載を禁じます。
※本サイトに掲載された論文・コラムなどの記事の内容や意見は執筆者個人の見解であり、当研究所または(株)リコーの見解を示すものではありません。
※ご意見やご提案は、お問い合わせフォームからお願いいたします。

戻る