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多様な企業活動が社会を救う

直言 第8回

2015年07月01日

内外政治経済

所長
稲葉 延雄

 企業は、企業価値の増大を通じて株主を満足させるだけでなく、多様な活動を通じて経済社会の進歩に貢献する能力を有する。また、そのことが強く求められている。

 企業は財・サービスの生産・販売を通じて、人々の需要を満たし、日々の生活を豊かにすることに貢献してきた。その過程で雇用機会の拡大を実現し、人々の生活の将来不安を軽減することにも努めてきた。企業活動の最終結果として、収益の拡大と企業価値の増大が株主を満足させてきたことは言うまでもない。

 しかし、企業活動に求められていることは、こうした狭い領域にとどまらない。例えば現在、財政再建をめぐって、社会保障費とりわけ医療費の増大が大きな問題になっている。無駄使いをしていないということであれば、医療サービスのレベルを落とし続けるか、増税を繰り返すしかないが、それではキリがない。こう人々は考えるから、議論がいつも空回りする。

 望ましい方策は、企業の創造的な力によって、医療サービスの単価を引き下げていくことである。企業は、自動車や液晶テレビの例が示すように、より高性能な財・サービス生産を目指しつつ、同時に生産性の向上努力により価格を引き下げてきた。難病治療や重介護だからといって、サービス単価の引き下げ努力をあきらめるわけにはいかない。相応の能力を有する一般企業は、この問題の解決のための戦列に加わるべきである。一般の財・サービス分野でできるのに、医療サービス分野でできないはずがない。

 環境面でも、企業は世界的な二酸化炭素(CO2)削減に貢献できる。その削減をめぐっては政府間の削減交渉がいつも難航する。しかし、実際にCO2削減に向けた技術開発や、削減を実現する財の生産、さらにはシステムの運行を担うのは、企業部門をおいてほかにはない。政府部門も家計部門もエネルギー節約を強化する以外、特別な手段を持っていないからだ。技術力と組織力を有する企業のこの面での貢献が、世界的なCO2削減の成否を握っているのは明らかである。

 企業活動の目的は、「企業価値の拡大を通じた株主への貢献に尽きる」と経営学は教えている。しかし、およそ組織の使命というものは、単一目標を達成すればよいというわけではなく、複数の相対立する目標を矛盾なく実現することを求められる。また、こうした多様な目標を同時にバランスよく達成することこそ、優れた経営というのであろう。企業が多様な活動を積極的に進めることにより、諸問題を解決し、社会を救っていかねばならない。

稲葉 延雄

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※この記事は、2015年7月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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