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我々は次世代に何を遺せるか

直言 第7回

2015年04月01日

内外政治経済

所長
稲葉 延雄

 我々は次世代に何を遺そうとしているのだろうか。

 すぐに思い浮かぶのは、現在世代が積み上げた国の借金である。国の債務は2014年12月末で1029兆円に達している。日銀がその相当量を購入しているとはいえ、これは将来世代の国民がいずれ返済しなければならない借金である。もっとも、全て将来世代の負担となるのかと言えば、そうではない。

 国債発行の代金で支出される内訳を見ると、例えば教育費はその多くが若い人々のために支出されるが、これは次世代への投資である。主たる便益は次世代が受け取ることになり、国債の将来負担と見合っている。

 一方、毎年1兆円規模で増え続ける医療費は、主として高齢者向け医療費の増加が原因といわれる。現在世代の高齢者が次世代の負担に依存している構図は、はっきりしている。財政再建に当たっては、消費税増税といった歳入面の措置のほかに、効率的な医療支出の在り方など社会保障関係費の歳出見直しが不可欠だというのも、こうした事情を背景としている。

 次世代に引き継ぐべきものは、国債という負の遺産だけではない。戦後ほとんどゼロから我々の先輩や我々自身が積み上げてきた実物・金融資産がある。今年1月に公表された2013年末の国富統計によると、国の正味財産は3048兆円に達し、このうち対外純資産は325兆円で既往最高となった。また、家計部門が保有し、家族に引き継げる正味資産を取り出すと2328兆円もある。
 
 金融資産の中核をなす企業の株式は、企業の収益見通しが高まれば株式価値が増加し、資産として引き継げる額も大きくなる。産業界の頑張りで人々の富を着実に増やしていけるかどうか。企業経営者の手腕が問われている。

 橋や道路、公的施設などのインフラ関連資産も、その投資が適正に行われれば、次世代への大事な遺産として引き継がれる。ただし、人口減少にもかかわらず不必要なインフラ建設を続けていくと、将来の地域住民に便益は生まないだけでなく、維持費ばかりが高まる。これではマイナスの遺産となってしまう。

 また、今後の大自然災害のリスクを考えると、耐震性能の低い住宅や施設を放置しておくことも適切とはいえない。津波対策の面でも、ハードの対策だけでなく、ソフトの対応の重要性も併せて伝承していく必要があろう。5回目の3.11を迎え、先の災害で得た貴重な教訓を十分踏まえた上で、将来世代へ何を引き継ぐべきか。あるいは何を引き継ぐべきでないのか、よく考えてみたい。

稲葉 延雄

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※この記事は、2015年4月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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