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中小企業は第四次産業革命を牽引できるか?

【経済研究室】 Vol.6

2017年02月15日

内外政治経済

研究員
倉浪 弘樹

 過日、中小企業診断士の有志による、中小企業支援政策についての勉強会に参加した。その際、中小企業庁による、いわゆる「ものづくり補助金」事業について学ぶ機会を得た。

 この補助金事業は、中小企業の経営力向上を目的とした設備投資を支援するもので、2016年度の正式名称は「革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金」という。今回の募集は1月17日に締め切られたが、2012年度以降、若干名称を変えながら毎年募集が行なわれており、中小企業には馴染み深い事業となっている。

 支援内容も手厚く、もし申請が採択されると、補助上限額が設定されているものの、設備投資額の3分の2の補助を受けることができる。その分、申請件数も多く採択される競争倍率は高い。2015年度は1次・2次の募集をあわせて、採択率30%程度であった(応募件数:1次2万4011件・2次2618件、採択件数:1次7729件・2次219件)。

 本年度のこの補助金事業では、補助上限額が500万円の「小規模型」、1000万円の「一般型」、そして3000万円の「第四次産業革命型」の3つの事業類型から、企業は1つを選択して申請する形式となっている。その斬新な名称と、補助上限額が一般型の3倍であるという点から、勉強会場では第四次産業革命型に注目が集まった。

 公募要領によれば、第四次産業革命型は、「IoT・AI・ロボットを用いた設備投資」が要件となっており、さらに細かい条件が付されている。その条件は、ネットワークに接続された複数の機械等が収集した「ビッグデータ」を活用して①監視②保守③制御④分析のいずれかを行い、かつAI(人工知能)やロボットを活用するというものだ。内容が明らかになるにつれ、会場からは「ハードルが高い・・・対応できる中小企業は限られるのではないか・・・」とため息が漏れた。

 AIについては、2016年4月18日に、総務省・文部科学省・経済産業省が中心となり「人工知能技術戦略会議」が設置され、国を挙げての研究開発が緒についたばかりである。新しい技術を活用して事業を行なうことはそれだけ難易度が高い。

 しかし、これは逆に考えると、経営者の力が試されているともいえるのではないか。先進技術をうまく活用し、「第四次産業革命」という新しい波に挑戦する、そんな前向きな経営者が増えれば経済は活性化していく。

 日本銀行によれば、日本経済の実力を示す「潜在成長率」は、足元では1%に満たない低水準で推移している。経済の活性化には、この潜在成長率の引き上げが欠かせない。それには、企業の設備投資が大きなカギを握っている。

潜在成長率の推移
20170208kuranami.jpg(出所) 日本銀行
(注) 2016年10月時点のデータ

 企業の設備投資には、経済的な観点からみると以下の3つの効果がある。一つは、企業による設備投資支出の増加を通じた、直接的な国内総生産(GDP)の押し上げ効果。もう一つは、設備投資による資本ストックの積み上がりを通じた、潜在成長率の引き上げ効果。そして更に、その資本ストックが企業の生産性を向上させる場合、もう一段の潜在成長率の引き上げ効果がもたらされる。企業の生産性を高める設備投資は国内総生産(GDP)を押し上げるだけでなく、潜在成長率も引き上げるのである。

 2016年版「中小企業白書」によれば、日本の企業に占める中小企業の比率は99.7%(企業数ベース)。これを考慮すれば、日本の潜在成長率の引き上げには中小企業の貢献が欠かせない。今回の申請の採択結果は3月中に公表される予定だが、この事業をきっかけに第四次産業革命を象徴するような新たな取り組みが生まれるだろう。



20170208kuranami11.jpg

日本経済を支え続ける中小企業 (新潟県三条市の諏訪田製作所)


(写真) 中野 哲也

倉浪 弘樹

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