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世界経済の新次元=グローバル化とデジタル化の融合=

深層 第12回

2019年04月01日

所長の眼

所長
神津 多可思

 また春が来て新年度が始まった。年度初めに楽観できない―。と感じる年がこのところ続いてきたが、幸いにしてこれまでは世界経済には大きな障害は生じてこなかった。決して"狼オジサン"になるつもりはないが、今年は過去にも増して気を引き締めねばという思いが強い。グローバル企業としては、相当、反射神経よく動かなければならなそうだ。

 そうした中にあっても、世界経済の構造変化は確実に進んでいる。1989年のベルリンの壁崩壊以降のグローバル化は、全体としては大きな成功をもたらしたが、各国・地域の中で勝ち組と負け組を生んだ。それがグローバル化そのものへの反感となり、世界中に広がっている。

 近代史を振り返れば、そうした動きは過去にも何度もある。例えば、第一次と第二次の世界大戦も、グローバル化に伴う各国・地域内の摩擦をうまく調整できなかった結果という整理もできる。そのようなセットバックはあっても、結局、グローバル化の動きは止まることなく今日に至っている。

 それでは、これからのグローバル化はこれまでとどう違うか。現在進行しているデジタル化との併存が、新しい特徴となるのではないか。情報通信技術の目覚ましい進歩により、この30年間で情報のやり取り、利用の仕方は様変わりした。これまでのグローバル化はモノの世界でより顕著だったが、今後はそれがサービスの世界にも広がっていくだろう。身の回りの多くの情報や文字、音、画像、それらがみなデジタル化され、かつそれがますます大量に、かつ速いスピードで移転できるようになる。

 それによって働き方も大きく変わる。モノづくりの現場は無人化が進み、サービス分野でも人が常に一カ所に集まって働かなくてもよくなる。独立した個人が多数の顧客からサービスの発注を受ける、ギグ・エコノミーもさらに高度な分野へと広がっていく。人工知能(AI)を駆使し、仮想現実(VR)上でのサービスの提供が、国境を越えて行われるはずだ。法律や会計、医療、教育などのより高度なサービスについても、同様の競争が展開されるのではないか。

 それに伴い、現在はまだ相対的にグローバル化の負の影響を受けていないホワイトカラーも巻き込んで、アンチ・グローバル化の動きがさらに激化するかもしれない。しかし歴史が示しているのは、そういう大変な摩擦を乗り越えてグローバル化は進んでいく可能性が高いということだ。

 ビジネスの観点からは、このデジタル化と融合した新たなグローバル化を実現するための技術やデバイスのニーズに、どう対応していくかが焦点となる。また、先進国で働く個々人からすると、これからはモノづくりだけでなくサービスの提供についても、国内では昨日までと同じ仕事を続けることができなくなる人が増えていくだろう。

 こうした変化に対応するためには何と言っても、新しい環境に即応していくための人材の教育や訓練が重要になる。それ無くしては、新次元に向けた世界経済の進歩への抵抗ばかりが強くなり、新しい技術進歩の果実を多くの人が手にする時期もまた遠のいてしまう。短期的になかなか大変な新年度になりそうだが、長期的にも私たちは大きな挑戦を迫られているようだ。

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神津 多可思

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※この記事は、2019年3月29日発行のHeadLineに掲載されました。

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