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国際金融市場で何が起きたのか =米国発の株価下落が世界各国に=

【所長室から】 Vol.13

2018年02月20日

所長の眼

所長
神津 多可思

 2月に入り、国際金融市場は大きく動揺した。米国で始まった株価の下落は世界に拡がり、為替相場も動いている。一方で、世界経済を見渡すと、先進国、新興国ともに、ほぼどの国・地域も好調を持続しており、すぐに景気後退が始まるような気配はない。それでは、どうして急に金融市場で変調が起きたのか―。

 そもそも、金融市場はそれだけで存在できるものではない。必ず何らかの形で実体のある経済活動と結び付いている。株価も、最後はその企業の将来の業績と関係なく形成されることはあり得ない。理屈上は、今後の企業業績が上振れて配当が増えていくと期待される時、株価は上昇する。

 一方で、他の条件が動かなければ、実は長期金利が上がると一般に株価は下落するという理屈がある。これは、長期金利を国債の利回りとして考えると分かりやすい。国債は確定利回りの金融商品であり、例えば先進国の政府が今後10年で必ず破綻するとは思えない。だから、将来の企業業績に連動する株式に比べれば、国債は安全な金融資産と言える。安全な金融資産の利回りが上昇すると、不確実性が高い株式に投資していた資金の一部をそれに回そうとする人が出てきても不思議ではない。こうした変化の中で株価には下押し圧力が働くのである。

 今回の米国の株価下落の引き金も、賃金の上昇ピッチが速まったことが確認され、インフレ率が思ったより高くなるかもしれないとの予想が広まり、それが長期金利の上昇に繋がったからであった。

 一方で、今後の世界経済の成長予想は、これまでのところあまり変わっていない。むしろ昨秋と比べれば上振れているぐらいだ。今後の企業業績の見方が急に悲観的になったわけではない。

 しかし、こうした好調な実体経済にもかかわらず、先頃までなかなかインフレ率が高まらなかったことから、今後もそれが続くという予想が金融市場では支配的になっていた。高い経済成長率と低いインフレ率が続くという期待の中で、昨年来の一本調子の株価上昇が起きていたのである。金融市場の判断において、ある程度インフレ率が高まるのであればやはり今の株価は割高だというものに切り替わり、その修正が一気に起きたのが今回の国際金融市場の動揺だとみることができる。

 さて、これからどうなるのか―。上述のように、経済実体に大きな変調は起きていない。このため、インフレ予想の修正に対応する調整が終われば、経済成長に見合った株価形成に戻り、金融市場も安定を取り戻す―。というのが、今のところのメインシナリオだ。しかし、必ずしも理屈通り行かないのが経済でもある。これからの世界経済がどちらへ向かうか、国際金融市場は今、目を凝らしてみているところだ。

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(写真)西脇 祐介

神津 多可思

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