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先進各国で続発する「選挙サプライズ」 =世界経済の潮目の変化か?=

【所長室から】 Vol.10

2017年10月03日

所長の眼

所長
神津 多可思

 マクロ経済をみているエコノミストは、選挙の結果予想について語ってはならない―。これは私が昨年得た教訓である。元々、政治の分析を専門にしているわけではないので、それは当たり前である。しかし、金融市場には選挙の予想や期待が時々刻々と織り込まれるので、それをすくい上げると、結果についてもその時点その時点で多数派の見方はみえてくる。しばしばそれを紹介したくなるのだが、昨年は世界の重要な選挙の結果が事前の予想を大きく裏切り、したり顔で色々話をしていた私も含め、同業者は大いに面目を失った。

 2016年の伊勢志摩G7サミット(主要国首脳会議)に出席した各国首脳のうち、今年イタリア・タオルミーナで開催されたサミットにも続けて参加したのは、日本の安倍晋三首相、ドイツのメルケル首相、カナダのトルドー首相の3人だけだった。

 米国では昨年11月の大統領選はかねて予定されていたが、2016年のサミット時点でトランプ大統領を予想していた向きがどれほどいただろうか。英国でも、昨年6月のEU脱退(Brexit)をめぐる国民投票の結果がこれまた予想外で、キャメロン首相は退陣した。後任のメイ首相が今年に入りさらに予想外の総選挙に打って出たが、その結果も事前の予想を裏切り、与党の議席が減って窮地に陥っている。

 一方フランスでは今年5月、マクロン大統領が彗星のごとくトップの座に就いたが、国内の人気を維持するのはなかなか難しい。その後の上院選挙でマクロン派は議席を減らしている。そしてドイツでも、先月の総選挙でメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟が第一党こそ維持したが、議席数を予想以上に減らした。これに対し、新興の右派政党であるドイツのための選択肢が第3党に躍進し、初めて議席を獲得するという結果だった。このほかイタリアでも、レンツィ首相が憲法改正をめぐる国民投票で支持を得られず、昨年末に辞任している。

 こうした選挙結果は一見バラバラのようだが、「通奏低音」が聞こえてくるような気もする。それは、これまで採られてきた国家運営の基本路線に対し、有権者の不満が確実に高まっているということだ。

 その基本路線とは、経済政策面では①グローバル化の恩恵を最大限享受し、マクロ経済全体として成長率を高める②その成長の果実の分配については、基本的に市場メカニズムを重視する―とでも要約できるだろうか。その結果、優勝劣敗的な状況がここかしこで観察され、取り残された層が次第に浮き彫りになり、統計的にも貧富の差の拡大が確認できるようになった。だからこそ、心情的にも既存の権威に対する反感が高まっているのだろう。そうした動きが、世界経済の潮目を変えつつあるのかもしれない。

 こうした話は冷静に考えれば結局はバランス論なので、おそらくどの国もグローバル化や自由化、効率化といった方向へ経済政策の舵を切り過ぎたということなのであろう。今から思えば、10年前の世界金融危機が既にそれを警告していたのだが、ようやく民主主義の仕組みを通じて民意が表に出てきたようだ。

 もちろん選挙においては、キーパーソンがどう動くかとか、さらには投票当日の天気といった要因までが最終的な結果を左右する。このため、選挙結果自体は、意外な人物の当選とか、既存与党への支持低下とか様々になる。しかしその底流には、おそらくこの四半世紀以上にわたる先進各国の経済政策の基本方針に対する、様々な懐疑の強まりがあるように感じられてならない。

 さてわが国でも今月22日、これも多くの人にとっては想定外だったのではないかと思うが、総選挙が行われることとなった。既に、その選挙戦の対立構図もこれまた意外な展開となっている。日本もどうやら「選挙サプライズ」の潮流の例外ではないようだ。当然、昨年の教訓を生かして結果予想は語らないが、果たして日本の民意がどういう形で表われるのだろうか。

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神津 多可思

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